人工的に地面を揺らし,地下で反射される様子をとらえて地下の構造を推定する
(写真は震動を起こす装置:バイブロサイス車)
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目次
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今月の話題 |
・神奈川県・山梨県で地下構造探査を実施 |
神奈川県西部地域は,関東地震(1923年:M7.9)を引き起こしたフィリピン海プレートが沈み込んでいますが、小田原から北西方向の山梨県にかけての地下では、フィリピン海プレートがどの程度の深さにあるのか、またどこまで続いているのかが明らかになっておりません。また、甲府盆地には糸魚川−静岡構造線と呼ばれる断層帯があり、地表での位置は分かっていますが、地下深部の構造や地震活動などこの断層の特徴について詳しく知られていません。 このため地震研究所では、11月〜12月に神奈川県西部地域(小田原)から山梨県(甲府盆地)にかけて総延長100kmを超える測線で、詳細に地下構造を調査しています。今回の調査では人工震源(人工的に地面に震動を起こすもの)を用いて、フィリピン海プレート上面の形状や糸魚川−静岡構造線断層帯の地下構造解明などを明らかにしていきます.また,甲府盆地では地下構造の推定のために重力測定も行います.さらに,併せてこれらの地域での地震活動を把握するための稠密な地震観測を実施します。 フィリピン海プレートの形状に関する調査は科学技術振興調整費「大都市大震災軽減化特別プロジェクト:大都市圏地殻構造調査研究」(研究代表 平田 直)」により実施しています。 詳細は地震研究所ホームページ→プレス発表 |
第832回地震研究所談話会 |
話題一覧 |
強震動及び 1 Hz GPS データによる2005 年福岡県西方沖地震の震源過程
液相を含む多結晶体の弾性とレオロジー
火山噴煙ダイナミクスに関する3次元数値モデルの開発
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強震動及び 1 Hz GPS データによる2005 年福岡県西方沖地震の震源過程 小林励司・宮崎真一・纐纈一起 |
タイムリーな話題ではありませんが、2005年福岡県西方沖地震の震源過程についてお話しいたします。震源過程とは、地震によって断層の破壊がどこで、どのように進行していくかをいいます。今回の震源過程の推定には、強震動データだけではなく、1秒ごとに計測・記録される1-Hz GPSデータも使っています。 まず、2005年福岡県西方沖地震について簡単におさらいをしてから、今回得られた1-Hz GPSデータをお見せします。強震動データについても少しお話しして、本震と最大余震の震源過程を求めます。本震については、1-Hz GPSデータと強震動データの両方を使い、それぞれ単独のインバージョンと、ジョイント・インバージョンを行いました。最大余震については、1-Hz GPSデータが使えなかったので、強震動データのみを使っています。そして最後に考察して、まとめたいと思います。 2005年福岡県西方沖地震
図1左は、本震と最大余震が起きる前までの余震分布を示しています。右上がF-net(広帯域地震観測網)によるメカニズム解です。メカニズム解は、断層の走向、傾斜、すべり角を表しています。断層の走向は、地図上に黒線で示したようになっています。この周辺には博多湾南から福岡市中央部を通り、筑紫野市に至る警固断層がありますが、震源分布の延長線とは一致しません。そのため当初は、警固断層はこの地震とはあまり関係がないのではないか、といわれていました。ところが最大余震の震源を見ると、警固断層につながっているのではないか、という感じになっています(図1右)。 強震動データと1-Hz GPSデータ
これまでは、この一例しかありませんでした。福岡県西方沖地震のMjは7.0です。十勝沖地震より一回り小さい地震で同じように震源推定ができるかを試してみたわけです。 本震で記録されたGPSデータを処理して、実際に得られた変位波形データが図3です。星印が本震の震源、四角がGEONET(GPS連続観測網)の観測点です。これらで観測されたS波を含む60秒間の波形を示しています。左から南北方向、東西方向、上下方向です。上下方向はどうしてもノイズが大きくなりますが、水平方向は多少ノイズがあるものの波形がきちんと取れていることが分かります。震源に最も近い観測点1062では、永久変位もくっきり出ています。震源過程の推定には、このデータを使いました。強震動データは、図4に示した観測点で記録したものを使いました。フィルターは0.05?0.5Hzで、本震は2Hz、最大余震は5Hzにサンプリングし直し、ウインドウはP波到着1秒前から30秒間を使っています。 インバージョンは、よく用いられている[Yoshida et al., 1996]を使っています。グリーン関数計算は宮崎さんの場合と同様で、1-Hz GPSに関してはFrequency-wavenumber method[Zhu and Rivera, 2002]を使っています。なぜこの手法を使うかというと、永久変位をきれいに計算してくれるからです。強震動に関しては、従来よく用いられているReflectivity method[Kohketsu, 1985]を使っています。また今回はKiK-netボアホール(地中)データを使っているので、そのために改良した[Hikima and Koketsu, 2004]のプログラムを使っています。川瀬博さんが以前、警固断層で地震が起きたときに福岡がどういうダメージを負うかというシミュレーションをしました[Kawase et al., 2003]。1次速度構造は、そのときに使った速度構造モデルをベースにしています。強震動観測点に対しては、余震波形を使って非線形インバージョンを行い、構造を改良しました。 本震の震源過程の推定 まず、単独インバージョンについて説明します。図5は、本震の強震動データのみを使った結果です。上はすべり分布、下は観測波形(赤)と合成波形(黒)の比較です。すべり分布の図では、右が福岡のある陸側、左が海側です。縦軸は断層面の傾斜に沿った距離を示しています。星印が震源です。震源から離れたところにアスペリティがあり、大きくすべっています。最大すべり量が1.6m、地震モーメント(Mo)は1.2×1019Nm、モーメントマグニチュード(Mw)が6.7です。波形のエッジ部分を見るとだいたい合っているようです。対馬など北西の観測点(NGS020、021、022)では、合いが悪い。また、断層の走向方向にある観測点の上下方向では、合いが悪くなっています。ちょっとした断層面の傾きの変化に影響されるので、一枚の平面の断層面で単純化した矛盾が出てきているのだと思われます。 次に、1-Hz GPSのみを使ったインバージョンを行いました(図6)。強震動データのみではアスペリティは広い範囲で出ましたが、1-Hz GPSデータのみを使うと浅いところに出てきてしまう。これは、震源域に一番近い観測点のデータが効いているからです。その観測点での永久変位をうまく説明しようとして、大きなすべりが出ています。最大すべり量が2.6mで、モーメントマグニチュードが6.6です。最大すべり量は強震動データから求められた数値より大きいですが、範囲が狭いためにモーメントマグニチュードは小さくなっています。波形を見ると、ノイズの部分以外はまあいいかなという感じで合っていることが分かります。 強震動データと1-Hz GPSデータをジョイントしてインバージョンした結果が、図7です。波形の比較は、後でお見せします。すべり分布は、強震動のデータと1-Hz GPSデータの中間のような形でうまく出ました。最大すべり量が1.8mです。強震動のみの単独インバージョンの最大すべり量より少し増えました。 どのように破壊が進んでいったかを、図8でお見せします。1秒ごとのスナップショットです。初めはほとんど見えませんが、うっすらと同心円状に広がっています。4秒くらいから主要な破壊が始まり、6、7、8秒ぐらいで大きなすべりが発生しています。だんだん小さくなって、11?12秒くらいで終わっています。 図9は、波形の比較です。単独インバージョンと比べても、ジョイントしたわりにはどちらも波形の合いはそんなに劣っていません。これは何を意味しているのか。強震動のみで求めたすべり分布ではうまく制約がかかっておらず、1-Hz GPSのデータを使うときちんと狭い範囲の制約がかったということだと思います。 最大余震の震源過程の推定
余震分布とすべり分布の比較
青い星印は最大余震の震源、青線は最大余震のすべり分布です。最大余震は、ちょうど余震分布のすき間を埋めるような形ですべっています。 本震のすべりの大きいところと余震分布との関係は、2000年鳥取県西部地震の余震分布とすべり分布の構造に似ています(図11下)。もしかすると、構造的な関連があるのではないかと考えられます。 まとめ 今日の話をまとめます。マグニチュード7クラスの地震についても1-Hz GPSデータで震源過程が推定できました。それから、震源近くのGPS観測点のデータが、断層面の設定とすべり分布に大きく影響していることが分かりました。ジョイント・インバージョンでは、強震動のみに比べてアスペリティが浅いところに集中しました。お話ししませんでしたが、被害が大きかった玄界島のすぐ近くで大きなすべりが生じています。また、2005年福岡県西方沖地震の震源、すべり分布、余震分布の位置関係が、2000年鳥取県西部地震に似ています。最大余震は、二つのアスペリティが得られました。 |
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