地震研究所ロゴマーク 東京大学地震研究所ニュースレター

2006年10月号

pdf版はこちら(890KB)pdf

※例年8月は地震研究所談話会が開催されませんので、2006年9月のニュースレターは休刊とさせて頂きました。

目次

第842回地震研究所談話会
・話題一覧
・今月のピックアップ
   インドネシア・ジャワ島中部地震による建築物被害の概要

2006年5月に起きたインドネシア・ジャワ島中部地震の調査に参加した
真田助手による建築物被害についての報告です。

第842回地震研究所談話会(2006年9月15日)
話題一覧           ★は以下に詳しい内容を掲載、☆は概要をホームページに掲載

1.IT強震計でみた建物の揺れ(その2)

     鷹野澄、伊藤貴盛(応用地震計測)

★2.インドネシア・ジャワ島中部地震による建築物被害の概要

     真田靖士

☆3.応力テンソル逆解析によって推定した千島弧・東北弧会合部付近の

    太平洋スラブ内応力場:十勝スラブ断裂の可能性

     平田直・Cenka Christva・加藤愛太郎

4.地殻応力測定機器開発の現状と今後の可能性

     佐野修

5.トラップ波を用いた跡津川断層破砕帯構造の抽出(序報)

     加藤愛太郎・飯高隆・新井隆太・平田直・岩崎貴哉

インドネシア・ジャワ島中部地震による建築物被害の概要

真田靖士


 2006年5月に起きたインドネシア・ジャワ島中部地震の調査に行ってきましたので、建築物被害の概要をご報告します。

調査概要

 今回の「インドネシア・ジャワ島中部地震災害調査」は、九州大学の川瀬博先生を代表者とする、文部科学省のいわゆる突発災害研究です。構造物の被害調査グループには、豊橋技術科学大学の倉本洋先生をリーダーとする8名が参加しました。現地では、RC(鉄筋コンクリート)構造の建物を調査するチームと、レンガを積んだだけの非構造壁の建物(URM)を調査するチームに分かれました。私は後者でしたので、レンガ造の建物被害の話を中心にさせていただきます。

 今回の地震は、2006年5月27日午前5時54分(現地時間)、インドネシアのジャワ島中部を震源として発生しました。震源の深さは10km、マグニチュードは6.4でした。マグニチュードが小さいわりに、亡くなった方が5700名以上と非常に多かったため、調査を行うことになりました。

 発生から1ヶ月ほどたった7月1日、インドネシアのデンパサール(Denpasar)経由でジャカルタ(Jakarta)に到着しました。初日はJICA(国際協力機構)の現地職員から状況説明を受けました。そして次の日、ジャワ島中部のジョグジャカルタ(Yogyakarta)に入りました。

 図1は、ジョグジャカルタの空港の様子です。空港ターミナルがあったのですが、地震で損傷を受けたため、私たちが訪れたときには解体撤去されていました。

 7月2日から6日の実質4日間、調査を行いました。図2はジョグジャカルタ近郊の地図で、震源、すべったと考えられている断層、調査範囲を示してあります。このすぐ南には、インド洋が広がっています。震央から断層までは約10kmです。被害が多いという情報を得ていた半径10kmくらいのエリアを調査しました。最終日に、現地でお世話になったガジャマダ大学(Gadjah Mada University)で報告会を行い、帰国しました。

図1 ジョグジャカルタ空港

図2 ジョグジャカルタ近郊地図

12の学校、41棟を調査

 私たちは対象を学校にしぼり、12校を調査しました(図2黒丸)。学校を対象としたのには、大きな理由が二つあります。一つは、学校の建物は日本では似たような構造なので、断層からの距離によって被災レベルの差が出てくるのではないか、と予想したためです。結果としては、学校によって構造形式も違い、被害の程度はばらばらという印象で、定量的な結果を示すにはもう少し時間がかかります。もう一つの理由は、調査チームリーダーの川瀬先生が私たちより1週間ほど前に現地入りし、いくつかの学校の校庭で微動を計測していたためです。そのデータを充実させようと、学校の建物の被害状況を調べることにしました。

 1校に複数の建物があるので、調査数は41棟です。すべての建物について構造形式、建設年代、被災レベルを調べました。被災レベルは、軽破、小破、中破、大破、倒壊の5段階です。学校周辺の住宅についても、無被害、半壊、倒壊の3段階で被災レベルを調べました。また、各学校1校舎ずつについて、平面図や柱の断面図など詳細なデータを持ち帰ってきました。現地で材料試験ができるものは実施しました。

 建物被害の様子をいくつか紹介します。図3は北側の測線上断層から一番遠い距離にある中学校です(図2@)。鉄筋コンクリートの柱があり、レンガを積んだだけの壁が入っています。1980年代には、このような構造の建物が多く建てられました。わずかなひび割れ程度なので、被災レベルは「軽破」です。

図3 Bantul II junior high school(図2@)
   構造形式:RC Column + URM
   建築年代:1980年  被害レベル:軽破

 図4は、前述の中学校の隣にある小学校です(図2A)。柱はなく、れんがを積んだ壁だけでつくられています。1975年に建てられました。屋根も完全に落ちており、被災レベルは「大破」です。

図4 Kowen elementary school(図2A)
   構造形式:URM
   建築年代:1975年  被害レベル:大破

 図5は、さらに断層に寄った位置にある小学校です(図2B)。最初の中学校と同じ構造様式で、建設年代もほぼ同じですが、完全に倒壊しています。似た構造で比較すると、断層に近づくほど被害が大きくなるという傾向があるようにも感じますが、そうでもない例も見られます。

図5 Pacar elementary school(図2B)
   構造形式:RC Column+URM
   建築年代:1977年  被害レベル:倒壊

 図6は、断層直上ともいえる場所に建つ高校です(図2C)。柱の頭を梁でつないだ鉄筋コンクリートのフレームに、れんがの壁を入れてあります。現在は、この構造の建造物が主につくられています。一見、被害が大きくなさそうですが、天井が落ちている個所があったり、裏側には被害があるので、被災レベルは「中破」です。

図6 Wonokromo high school(図2C)
   構造形式:RC Frame+URM
   建築年代:2003年  被害レベル:中破

構造様式と被災度の相関

 個別の事例を全部紹介している時間はありませんので、12の学校の調査で何が見えてきたかを簡単に紹介させていただきます。

 図7は、各構造様式と建築年代との関係です。赤がれんがを積んだだけの建物(URM)、黄が鉄筋コンクリートの柱に壁が入っている建物(RC Column+URM)、緑が鉄筋コンクリートのフレームに壁が入っている建物(RC Frame+URM)です。古いものは全部れんが造で、1970年代に鉄筋コンクリートの柱に壁が入っているタイプが出てきました。現在では、すべて鉄筋コンクリートのフレームに壁が入っているタイプです。

図7 構造様式と建築年代

 新しい建物ほど被害が小さいのではないか、という予想ができます。構造様式別に被災度の分布を出したものが、図8です。レンガ造は、倒壊の割合が高くなっています。鉄筋コンクリートのフレームに壁が入っている新しい建物は、確かに倒壊はありませんが、大破クラスがたくさんあります。これが非常に問題なのです。現在もこの構造様式の建物をつくっているわけですから、同じような地震が起きれば、また同様の被害が出てしまいます。

図8 構造様式と被災度

 マグニチュードが小さいわりに、なぜ被害が大きくなったか。当たり前のことですが、鉄筋が入っていない壁が倒れてしまったことが、一つの理由です。もう一つの理由は、屋根の構造が特殊なことです。日本の建物では、桟を縦横に張った後に板を張り、さらに瓦を載せます。現地の建物は、桟の上に直接瓦を載せてあるだけなので、少しのゆれでも瓦が落ちてしまいます(図9)。これは、かなり危ない状態です。

図9 桟の上に瓦を載せただけの屋根

 最後に、もう少し詳しく調査した12棟の結果をご紹介します。図10上は、横軸に被災度、縦軸に単位壁面積をとったもの、図10下は縦軸に単位柱面積をとったものです。単位壁面積とは、壁が入っている断面積を建物の総面積で割ったもの、つまり壁の量です。一般には、壁の量が多い建物ほど丈夫だと認識されています。しかし、それはRCの場合であり、れんがを積んだだけの無筋の建物では、壁量が多いからといって必ずしも被災度が小さいということにはならないようです。むしろ、柱には鉄筋が入っているため、安定した挙動を示します。平均値で見ると、柱量が小さいほど被害が大きいという傾向がありますが、個々のばらつきは非常に大きいのが現実です。

図10 壁量・柱量と被災度の関係

 まとめます。今回、41棟の学校の建物と、その周辺の建物について調査を行いました。12棟に関しては詳細なデータも持ち帰りましたので、現在検討中という状況です。

質疑応答

── 断層に近いからといって必ずしも被害が大きいわけではなく、建物の構造によるということですね。

真田:建物の品質が、かなりばらついています。最近、インドネシアでは経済危機があったようで、その時に建てられた建物は、新しくても被害が出ています。社会的な事情が大きく響いている、という感じがしています。

── 新しいRC Frame+URMの建物は、軽微の被災がないですね。

真田:サンプル数が少ないので、たまたまこうなったのだと思います。もう少し数を増やせば、軽微の被災も出てくるはずです。URMの建物でも、軽微の被災が少なくなっています。断層近傍の古いURMであっても、品質がよければ残っているものがあります。理論的に判断しづらい結果が出ています。

── サンプル数が増えれば出てくる可能性があるのですね。

真田:はい。

→このページのトップへ        →ニュースレター一覧のページへ        →地震研究所トップページ