東京大学地震研究所

2008年四川省地震の震源過程(暫定解2)

[Update 2008.05.15]



中国・四川省の地震について,遠地波形を使って震源過程の再解析を行いました.

前回の解析では初動到達後の主要な位相を含むような波形を使って震源過程の推定を行った.しかし,観測波形には解析に使った部分以降にもいくつかパルス状の波形が認められるがそれらの再現は不十分であった.これらを改善し,また,余震分布についても考慮して,より広い断層面を設定した解析を試みた.

前回の解析では,はじめに点震源を仮定してメカニズムの推定を行い,その2つの節面に断層面を設定してそれぞれのすべり分布を推定した.これらの断層面を余震分布と比較したところ,西に傾斜する断層面を設定したもの(走向:230°,傾斜:32°)との一致が良好であったため,今回はこの断層面上でのすべり分布を推定した.震源(破壊開始点)はUSGSの値を採用しその深さは11kmとした.断層面の大きさは余震分布も考慮して,長さ:約320km,幅:約40kmとした.

解析にはIRIS DMCからダウンロードしたP波40波,SH波8波を使用し,初動から150秒間のデータを用いた.グリーン関数の計算にはKikuchi and Kanamori (1991) を用い,インバージョンはYoshida et al. (1996) を改良した方法により行った.

解析結果として,断層面上でのすべり分布とそれを地表面に投影した図を示す.地表面に投影した図にはUSGSによる余震(地震発生後24時間のもの)の震央位置を合わせて示した.震源付近と,それから40〜60km北に離れたところですべりの大きな領域(アスペリティ)があることは前回の解析と同様であるが,今回の解析では,前回よりも北側にもいくつかのアスペリティが存在しているように求まった.設定した断層面のうち大きなすべりは,震源から230km程度の範囲内に見られる.震源継続時間は100〜120秒程度である.メカニズムは基本的には逆断層型であり,北東−南西方向に走向を持った断層が,東側に対して西側が乗り上げるような断層運動であったと考えられるが,場所によっては横ずれ成分を含んでいる.

波形の一致は比較的良好であるが,一部には再現が不十分なパルスが見られる.今後更に検討が必要である.

 

主な断層パラメータ
(西傾斜) 走向:230°, 傾斜:32°, Mo=1.02e21 Nm, Mw 7.9, 最大すべり量 約13m

 

断層面上でのすべり分布

 

すべり分布を地表面に投影したもの(★は破壊開始点を示し, ●はUSGSによる余震の位置を示す)
 

解析に用いた観測点

観測波形と合成波形の比較

 

(東京大学 地震研究所 地震火山災害部門 特任研究員 引間和人)

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