2019-2020 年西之島噴火
西之島の噴火に伴う津波の試算
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小笠原諸島西之島では,2019年12月の噴火再開以降,溶岩流出により島の拡大が続いている。
今回の噴火活動は,2013-2015年噴火を上回る勢いであり,溶岩流出率も2013年以降最大となっている1)。
2020年6月末には,溶岩流が山体南側で再び急峻な海底斜面に流出する状況になっている。
このような噴火活動がさらに継続・活発化した場合,山体が部分的に崩壊し,津波が発生する可能性が考えられる。
東京大学地震研究所では,2013-2015年噴火の際にも山体崩壊と津波について検討したが2),
2019-2020年噴火においては山体がさらに大きく成長し,噴火活動も活発であるため,現状の活動状況を踏まえて,改めて西之島の崩壊と津波について検討を行うことにした。
[西之島の崩壊・津波シミュレーション]
数値計算は,これまでの事例で用いられた手法2, 3)と同様である。
重力流(岩屑なだれや火砕流など)が海に流入することにより発生する津波を対象として開発されてきた,
非線形長波理論にもとづく二層流モデルの有限差分法による解析手法4, 5) を用いた。
海底地形データには海洋情報研究センターによる M7023 ver. 2.0(小笠原海域)を用いた(図1,2)。
計算領域は,広域では200 m,波源近傍ではその1/3のグリッドを用いて接続している。初期崩壊条件は表1の通りである。
このうちCase 1A, 1Bと2A, 2Bはすでに検討しており2),今回新たに崩壊量が5-10倍大きい場合について調べた。
Case 2Cは,インドネシア・アナククラカタウ島で2018年12月に発生した山体崩壊と同程度を想定した場合である。
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図 1 西之島および小笠原諸島周辺の海底地形 (東西 240 km,南北 180 km)。xy軸は緯度経度,z軸の単位はm。
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図 2 (左) 西之島周辺の海底地形,(右) 想定崩壊位置。xyz軸の単位はm。
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表 1 検討した初期条件
| Location | Volume (×106 m3) |
Case 1A | SW | 13 |
Case 1B | SW | 6 |
Case 1C | SW | 52 |
Case 2A | SE | 12 |
Case 2B | SE | 8 |
Case 2C | SE | 123 |
Case 2D | SE | 51 |
Case 1とCase 2は,それぞれ島の南西側と南東側が崩壊し,崩壊物が海底山体の斜面上へ流出するというシナリオである。
すべての場合において,海面上の新しい島の一部と海面下の既存山体を合わせた部分が崩壊する状況を想定している。
陸上部分は崩壊量全体の20-30%程度である。Case 2Cでは,島中央の火砕丘の一部も含まれる。なお,モデル内の重力流の底面摩擦係数については,従来の研究にもとづき陸上域,水域ともに0.1,重力流―海水二層の界面抵抗係数は0.2とした。
[数値シミュレーション結果の例]
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図 3 Case 2Cの計算結果。4分毎,24分まで。
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数値シミュレーション結果(Case 1C, 2C, 動画へのリンク)
[最大波高分布]
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図 4 (a) Case 1A,(b) Case 1C,(c) Case 2C,(d) Case 2D。
それぞれ波高のスケールが異なることに注意。(b)-(d)では,波源近傍では波高20-30 mに達するが,西之島から離れると急速に減衰する。
しかし,海底地形の影響により小笠原諸島付近で再び波高が高まる。
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[父島南西岸における津波の特徴]
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図 5 父島南西岸における津波波形(発生から40分後まで)。東側では崩壊量が最大の場合,5 m程度の津波になる可能性がある。
また,いずれの場合も,2分30秒から3分程度の周期の波が次第に減衰していくという特徴を示す。
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[崩壊体積と最大波高との関係]

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図 6 西之島の崩壊体積(横軸)と津波の最大波高(父島南西岸)(縦軸)との関係。
南西側の崩壊(Case 1)では,津波の主な伝搬方向が小笠原諸島と反対側になるため,波高は全体的に低くなる。
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[津波到達時間分布]

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図 7 津波到達時間の分布(Case 2Cの例)。単位は分。父島へは20分弱で到達する。
津波の波速はほとんど水深に依存するため,初期条件が変わっても津波到達時間の分布に大きな変化はないが,
最大波高に達するまでの時間は,崩壊量が大きいほど早くなる。
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[参考文献]
1) 東京大学地震研究所「ひまわり8号による西之島2019-20年噴火の観測」第146回火山噴火予知連絡会資料.
2) 東京大学地震研究所「西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について」, 2014年7月,
リンク
3) 東京大学地震研究所「2018年インドネシア・クラカタウ火山噴火・津波」, 2019年1月15日,
リンク
4) Kawamata, K. et al. (2005) Model of tsunami generation by collapse of volcanic eruption: the 1741 Oshima-Oshima tsunami. In Tsunamis: cases studies and recent development (Satake, K., ed.), p79-96.
5) Maeno, F. and Imaumra, F. (2011) Tsunami generation by a rapid entrance of a pyroclastic flow into the sea during the 1883 Krakatau eruption, Indonesia. JGR, 116, B09205.
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