1. 試料および分析方法
分析試料: 三宅島西方海底火砕丘(大鼻の西1.2km地点)で採取された「れき」
分析方法: 試料(7mm角程度)2個(A,B)を洗浄乾燥後、樹脂マウントし片面を鏡面研磨したのちEPMAによる反射電子線像観察および組成分析を行う。EPMAによる組成分析は加速電圧15kV, 照射電流12nAの条件で、結晶に対してはビーム径5ミクロン、ガラス(石基)部分に対してはビーム径20ミクロン。
2. 分析試料の反射電子線像
中程度に発泡している。連結した泡も幾つか存在するがその量は多くはない。破砕には到っていない。
短冊状の灰色の部分は斜長石。白く明るい部分は磁鉄鉱粒子。中央部にひとまわりサイズの大きな斜長石結晶が存在する。これは明確な累帯構造を持つ。
さらに別の部分を拡大して石基部分を良く見ると輝石微結晶が出ている(石基ガラス部分になんとなく凹凸を感じる部分が輝石微結晶)。写真は画像処理(エッジ強調)を行っている。
3. 分析結果の概略
見かけの組織と構成鉱物の組成について分析した2つの試料A,Bに差違はほとんどみられない。
中程度に発泡したスコリアで、明確に判別可能な微結晶として、多量の斜長石とごく少量の磁鉄鉱が存在する。石基部分には樹形あるいは骸晶的に見える輝石が存在するが、組成の点から見て急冷時に結晶化したものと思われる。石基ガラス部分は多少輝石微結晶が出ているが十分に透明度が高い。
斜長石の大きなもの(100ミクロン程度)は明確な累帯構造を持つ。リムの巾は5〜10ミクロン程度で、リム部分と石基に散在する小さな斜長石の組成は共にAn65程度である。一方、中心部ではAn80-85程度の組成を持つ。
4. 組成
斜長石の組成
sample A |
matrix (3) |
core (4) |
rim (1) |
||
average |
(1sigma) |
average |
(1sigma) |
||
SiO2 |
53.28 |
0.55 |
47.97 |
0.99 |
52.10 |
Al2O3 |
28.78 |
0.57 |
32.26 |
0.69 |
29.31 |
FeO |
1.20 |
0.08 |
1.02 |
0.08 |
1.04 |
MnO |
0.02 |
0.02 |
0.03 |
0.01 |
0.00 |
MgO |
0.17 |
0.04 |
0.12 |
0.02 |
0.15 |
CaO |
13.10 |
0.47 |
16.57 |
0.73 |
13.31 |
Na2O |
3.95 |
0.13 |
2.13 |
0.39 |
3.73 |
K2O |
0.10 |
0.02 |
0.03 |
0.02 |
0.08 |
Total |
100.84 |
0.27 |
100.31 |
0.49 |
99.92 |
An |
64.3 |
1.6 |
81.0 |
3.5 |
66.1 |
sample B |
matrix (7) |
core (10) |
rim (2) |
||
average |
(1sigma) |
average |
(1sigma) |
average |
|
SiO2 |
52.44 |
0.55 |
46.93 |
0.68 |
53.38 |
Al2O3 |
29.08 |
0.47 |
33.12 |
0.59 |
28.78 |
FeO |
1.23 |
0.08 |
0.94 |
0.06 |
1.20 |
MnO |
0.01 |
0.01 |
0.01 |
0.01 |
0.01 |
MgO |
0.18 |
0.02 |
0.11 |
0.03 |
0.18 |
CaO |
13.28 |
0.43 |
17.39 |
0.44 |
13.07 |
Na2O |
3.84 |
0.18 |
1.63 |
0.23 |
3.91 |
K2O |
0.09 |
0.01 |
0.02 |
0.01 |
0.08 |
Total |
100.36 |
0.36 |
100.38 |
0.85 |
100.80 |
An |
65.3 |
1.5 |
85.4 |
2.1 |
64.6 |
磁鉄鉱の組成(分析点数が少ないのでAとBをあわせて表示)
sample A & B (6) |
||
average |
1sigma |
|
TiO2 |
10.55 |
0.85 |
Al2O3 |
4.21 |
0.07 |
FeO* |
73.89 |
0.97 |
MnO |
0.30 |
0.02 |
MgO |
2.75 |
0.20 |
V2O3 |
1.09 |
0.10 |
Total |
93.28 |
0.64 |
Mg/Mn |
16.2 |
2.4 |
石基ガラスの組成
sample A (6 points) |
sample B (9 points) |
|||
average |
stdev(1sigma) |
average |
stdev(1sigma) |
|
SiO2 |
55.01 |
0.16 |
55.06 |
0.18 |
TiO2 |
1.82 |
0.07 |
1.82 |
0.08 |
Al2O3 |
12.19 |
0.60 |
12.34 |
0.50 |
FeO* |
14.62 |
0.59 |
14.60 |
0.24 |
MnO |
0.29 |
0.03 |
0.27 |
0.02 |
MgO |
3.16 |
0.30 |
3.08 |
0.10 |
CaO |
7.63 |
0.21 |
7.63 |
0.18 |
Na2O |
2.87 |
0.12 |
2.91 |
0.05 |
K2O |
0.74 |
0.02 |
0.74 |
0.05 |
P2O5 |
0.26 |
0.02 |
0.28 |
0.02 |
Total |
98.70 |
0.38 |
98.82 |
0.38 |
Mg# |
0.28 |
0.02 |
0.27 |
0.00 |
図1. submarine斜長石組成と三宅島の過去の噴出物中の斜長石組成との比較
submarineの斜長石でAn値が76以上のものは累帯構造をもつ斜長石コアの部分である。一方、リム部分と石基の微斜長石の組成は同じで、An65程度である。
過去の噴出物中の斜長石組成についても斑晶のコア/リム、石基の微斜長石の区別は行っていない。
累帯構造をもつsubmarine斜長石コアの部分の組成は三宅島の過去の噴出物中に見られた斜長石の組成と同じ範囲であり、同一のマグマ源に由来した可能性もある。
図2. submarine輝石の組成
輝石はaugiteからpigeoniteにかけて非常にばらついた組成を示す。これは急冷生成物であることを示している。比較に用いた輝石の組成で1983とラベルしてあるのは、1983年噴火の噴出物でSoya et al.(1984)およびFujii et al.(1984)に基づく。1962と1940とラベルしてあるのは、それぞれ1962年および1940年の噴出物でMiyasaka and Nakagawa(1998)に基づく。
図3(a)〜(f). 石基ガラスの組成と三宅島の過去の噴火の全岩組成との比較
過去噴火の全岩組成はMatsuda and Morimoto (1962), Soya et al.(1984), Fujii et al.(1984), Sato et al.(1995), Miyasaka and Nakagawa(1998)に基づく。
詳細なマスバランスの計算はまだ行っていないが、過去噴火の全岩組成と比較しての今回の試料の石基ガラスK、Ti、Feの正のずれとAl, Mgの負のずれは、結晶として20〜30%程度の斜長石と輝石結晶を分離したと考えれば、今回の試料が三宅島で過去に活動したマグマと同一源に由来したと考えても矛盾はなさそうである。
実際、試料の反射電子線画像には斜長石20%程度の斜長石が存在し、また急冷生成物らしい輝石が石基にでている。試料自体としては斑晶としての大きな輝石結晶はもたないものの、石基ガラスの分析においては、石基に晶出している樹形の輝石の部分をさけて分析を行っているので、石基ガラスの分析結果としては輝石成分に乏しくなっていてもおかしくはない。
5. まとめ
マグマの温度を1100度Cと仮定し、玄武岩質安山岩程度の組成についてH2Oのマグマへの溶解度をMoore (1998)によって計算すると、海底の10〜20気圧環境下では、0.2〜0.3wt%程度である。一方でこの程度の圧力下ではH2Oは気体としてかなりの体積を持ち、1wt%分のH2Oが発泡した場合、マグマの5倍程度の体積を持つことになる。したがって、今回の試料のように発泡破砕に到らず中程度に発泡した形態となるためには、もし海底下のかなり浅い部分にまでマグマが上昇していたとすれば、(1)脱ガスが早い段階で進んでしまいマグマ中にほとんど残っていなかった、あるいは、(2)もともとマグマに含まれていたH2Oが少ない、ということが考えられ、これとは別に (3)もっと深い部分で固結した発泡マグマが別の要因(海底下の帯水層(深度不明)とマグマが接触?)で破砕され海底まで吹き上げられた、という可能性も考えられる。今回の試料中の石基ガラス中の残存H2Oの量を測定することによって、この試料が固結した深さ(圧力)が推定可能で、(1)および(2)のシナリオか、(3)のシナリオのどちらが適当かの判断ができよう。
過去の三宅島噴出物の全岩化学組成と今回の試料の石基ガラスとを比較すると、20〜30%程度の結晶を石基ガラスの組成に加えてやれば、過去の噴出物と同様の組成を持つことになる。これは試料の反射電子線画像から判読された結晶量、鉱物構成と矛盾せず、今回の試料が異地性ではなく「三宅島のマグマ溜り」に起源をもつと考えることが可能であることを示している。また、斑晶構成鉱物、組成とも「三宅島のマグマ溜り」と考えられる範囲に存在する。今後は微量元素の存在量についてもXRF等の全岩分析などによって検討する必要があろうが、現段階においては今回の分析試料は三宅島起源のマグマ片と考えてよさそうである。
ただし、今回活動したマグマそのものであるとの証拠はいっさい得られていない。分析試料はかなりきれいな石基ガラス部分を持っており、このことはマグマ片が固結したのが「古くはない」であろうことを示しているる。しかし、これがどの程度の時間なのか、1年か、100年か、それ以上なのかについては、わかっていない。この点に関しては、様々な温度/圧力/熱水環境下で石基ガラス部分がどの程度の時間を変質に耐えうるのかという問題を、まず明らかにする必要があろう。
地球ダイナミクス部門 安田 敦
火山噴火予知研究推進センター 中田節也
地球ダイナミクス部門 藤井敏嗣
(分析・文責 安田 敦)