全岩化学組成で比較する6/27噴出物と8/18噴出物


全岩化学組成

8/18噴出の火山礫(6点)をopen squareで、6/27海底噴出物(2点)をsolid circleで示す。 比較のため、1983年の溶岩とスコリアの組成をopen circleで、歴史時代の噴出物組成のトレンドをcrossで示す。diamondは8/18火山礫中の斜長石coreの組成。

6/27海底噴出物は1983年の噴出物ときわめて似た組成を持っている。このことは、1983年の噴火以後も同様な組成のマグマが三宅島の地下に貯えられ続け、その一部が6/26-27の貫入イベントに際に三宅島西方海底に噴出したという考えを支持する。

一方、8/18噴出物の組成は、歴史時代の噴出物組成のトレンド上にはのってこない。8/18噴出物がきわめて特異なマグマに由来すると考えることも可能だが、この組成のずれを斜長石の濃集による組成変化と考えることも可能である。diamondで示した斜長石の組成と8/18噴出物の全岩組成を結ぶ直線を延長し歴史時代の噴出物組成のトレンドとの交点を求めると、元素の組み合わせによらずMgO=4.8wt%、SiO2=52-53wt%程度の値におちる。

こうした親マグマに斜長石が濃集したと考えれば、8/18噴出物の組成は説明可能である。実際、上述の仮想的親マグマに15%の斜長石を加えると、考慮したすべての元素について8/18噴出物の組成を再現することができる。この仮想的親マグマの組成は1983年型マグマとはかなり異なった組成を持っている。

8/18噴出物を斜長石が濃集したマグマと考える場合、親マグマの組成が1983年型マグマとは異なることから、6月下旬に活動した1983年型マグマを押し退けて新たによりMgOに富んだマグマが上昇して来たというシナリオになる。



わかったこと、わからないこと

6/27海底噴出物の組成および噴出状況から見て、6月下旬に1983年と似た組成のマグマが三宅島の地下で活動したことは確実である。

一方、8/18噴出物については、まだその位置付けが確定できていない。山体内部に残存していた古い小マグマ溜りが水蒸気爆発による火道の破壊によって偶発的に噴火に巻き込まれたと考えることもできるし、これまで数百年間とは異なる組成のマグマが新たに上昇してきた可能性もある。上述のように、上昇するマグマ溜りの斜長石を濃集させたキャップロック部分という考えもある。これらのモデルは8/18噴出物が高温であったという説に立脚した場合の話である。焼損した樹木等がみつからないなどのことから8/18噴出物は低温であり、崩壊したカルデラ壁のスコリア丘が水蒸気爆発で投出されたものであると考えている研究者もいる。

7月から8月上旬での山頂噴火が、マグマ水蒸気爆発か、水蒸気爆発かという問題にも決着がついていない。この期間に得られた多種の発泡片のどれもが、水蒸気爆発によって過去の噴火の生産物か放出されたものであると考えることは可能である。一方でが発泡片のどれかが本質物質である可能性もある。実際、6/27海底噴火の噴出物と良く似た組成の山頂噴出の発泡片も存在しており、1983年型マグマがいったん山体内部に上昇した後、西方への貫入等でマグマヘッドを低下させた際に、その残存部が小規模のマグマ水蒸気爆発を起こしたというシナリオは成立しうる。また、まったく未知の親マグマに由来するという可能性も棄却できない。

現在の三宅島で盛んにSO2の放出が行われているのは事実であり、新鮮かつ大きなマグマ溜りと地表を結ぶ経路が確保されたと考えてよかろう。このマグマ溜りがどのような組成を持っているのか、1983年タイプなのか、全く異なる組成なのかについては、残念ながら現時点で判断するには材料が不足している。また、マグマ溜りの位置、深度についても特定するに到っていない。今後の活動の推移を見守りたい。

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