danwa200509

超高速ネットワークJGNⅡによる大学間リアルタイム地震観測データ流通システムの構築実験

鷹野　澄・卜部　卓・鶴岡　弘・中川茂樹，
三浦　哲・松澤　暢・岡田知己・中島淳一・中山貴史・平原聡(東北大)，
大見士朗(京大)，植平賢司・松島健(九大)，伊藤武男(名大)

　この実験の目的は、「現在の衛星テレメータシステムに代わる次世代のリアルタイム地震波形データ流通システムを開発すること」です。まず現在の高感度地震観測データの流通システムとその問題点について説明しましょう。

　国内では大学・気象庁・防災科学技術研究所が、全国規模の地震観測を行っており、これら３機関（グループ）は東京大手町におかれた設備「TDX(TokyoDataExchange)」でデータを常時相互に交換しています。このうち大学（北海道、弘前、東北、東京、名古屋、京都、高知、九州、鹿児島の９大学）は「衛星通信による地震観測テレメータシステム」（以下「衛星テレメータシステム」と呼ぶ）を運用して、観測点からデータを収集し、それにTDXで得た他機関のデータも加えて各大学に配信しています。図１に概念図を示します。

　「機動観測の高度化」と「データ流通の強化」を目的に1997年に運用開始した衛星テレメータシステムは、この２つの目的に対応して「観測点からのデータ収集」と「研究者へのデータ配布」を全国規模で常時リアルタイムに行う、という画期的なものです（図２）。しかし８年が経過して、いくつかの問題点が出てきました。すなわち、現在利用している商用通信衛星が２年後に寿命を迎えるのに伴い、利用通信帯域の縮小を余儀なくされる可能性が高いこと、インターネットの普及に象徴される、ここ数年の地上通信網の低価格化・高速化により、衛星通信の優位性はごく限定されたものになっていること、機器が老朽化し、機能面でも陳腐化してきたこと、などです。

　われわれはさまざまな対応策を模索しています。それらには、低消費電力で帯域利用効率の高い新たなVSAT（超小型衛星通信端末）の試験導入、国際標準に準拠した衛星データ配信実験、データ集配信に安価な常時接続回線やインターネットを利用すること、それにここで紹介する、超高速広域実験網（JGNⅡ）の利用評価などです。

　次世代高度ネットワークの技術研究開発を目的として、(独)情報通信研究機構が運用する研究開発用テストベッドネットワークで、光ファイバーによる10～20Gbpsの高速な幹線と全国のアクセスポイントを持ち、平成16～20年の５年間運用されることになっています。このJGNⅡを利用した研究プロジェクト「高速広域レイヤー２網によるリアルタイム地震観測波形データ交換システムの構築（プロジェクト番号JGN2-A17021）」として、このたび本実験研究がスタートしました。

　実験は始まったばかりで、図３に示すとおり９月から、各大学が手近なアクセスポイントでJGNⅡに順次接続されているところです。JGNⅡが提供する「レイヤー２（イーサネット）網による多地点接続」を利用します。これを単一のIPネットワークとして運用し、各大学は自前のデータを共通のUDPポート宛にブロードキャストし、同時にブロードキャストされている中から必要なデータを取り込みます。これで大学間のデータの集配信（＝交換）が一挙にできます。送受信プロトコルには「WINシステム」を利用します。この方法によるデータ交換はすでに、TDXの１台のLANスイッチの中では行われていますが、今回はこれを全国規模の広域ネットワーク上でやってみようというわけです。データ量は常時10Mbps程度になる見込みです。

　今後は参加大学を現在の５大学から９大学まで増やすとともに、長期安定性や地震発生時の挙動等を評価し、「次世代のデータ流通システム」としての実用化の可能性を探ります。また足回り回線としてBフレッツ等も併用して地方の観測所等への接続も試みる予定です。