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目次
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今月の話題 | |
市原恵美助手 2005年度日本火山学会賞研究奨励賞を受賞 |
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海半球研究センター 市原美恵 助手は火山活動を特徴付けるマグマの性質がその中に含まれる気泡の挙動にあることを実験・理論両面から解明するなど,今後の火山学に大きく貢献することが期待されることから, 2005年度日本火山学会賞研究奨励賞を受賞しました. 授賞式は平成17年10月6日に,北海道大学(札幌市)で開催された日本火山学会総会に引き続いて学会会場において行われました. 詳しくはこちら |
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日本は世界でも有数の地震国であり,なかでも首都圏は過去に大きな地震災害に見舞われてきました.一方,多くの大学が集中する首都圏には多くの海外からの留学生が学んでいます.しかしながら,このような留学生の方々は必ずしも地震や地震災害について詳しいとはかぎりません.地震や津波に対する知識が重要であることは,2004年12月に発生したスマトラ沖巨大地震津波でも明らかになりました.そこで東京大学地震研究所では東京大学留学生センターと協力して,首都圏に学ぶ留学生を対象として,地震と地震防災についてその仕組みから学ぶ機会を試行的に設けました. 10月22日および29日に開催したセミナーでは,壁谷澤寿海(地震研究所),今村文彦(東北大学),木村宏恒(名古屋大学),岡田義光(防災科学技術研究所)の各講師から地震や津波の発生の仕組み,耐震設計・工法,地震時の備えなどについて英語で講義を行いました.このセミナーには東京大学だけでなく首都圏の他大学の留学生の参加があり,延べ53名が受講しました. 11月には同様のセミナーを日本語により開講する予定です. なお,このセミナーは科学技術振興調整費「スマトラ型巨大地震・津波被害の軽減策」(代表:東京大学地震研究所・加藤照之)により実施されています. |
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第831回地震研究所談話会 | |
話題一覧 | |
**受賞記念講演** 摩擦滑りの物理化学に関する実験的・理論的研究 (H17年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞講演)
**通常講演** 噴火後地殻変動の解析的モデルとしての準静的熱弾性変形と干渉SARデータ
干渉SARによる西グリーンランドの氷河堰き止め湖の発見と水位変化の推定
超高速ネットワークJGNIIによる大学間リアルタイム地震観測データ流通システムの構築実験
2005年宮城県沖地震の震源過程(速報)
博多湾警固断層の地震履歴(H17年度所長裁量経費報告)
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平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞 中谷正生 |
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今日は、「平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞」の受賞記念講演ということで、そういう具合にお話させていただきます。摩擦の話です。 Introduction これが分かっていると今日の話が見えると思いますので、まず摩擦の描像についてお話します(図1)。平らな面の上に物質が垂直応力σで押し付けられています。ここに横から力(剪断応力;τ)を加えると横に滑っていき、それに抵抗する摩擦力が働きます。物質の表面は粗くて凹凸があるので、実際に物質同士がくっついている所は少しだけです。ここをreal contact area(実接触面積;Ar)といいます。摩擦強度(Φ)はArに比例します。 この描像は、「Real contact theory」とか「Adhesive theory of friction(摩擦の凝着説)」といわれるもので、偉大なBowdenとTaborが1964年に発見して、よく知られていることです。実は、私の研究はそこから一歩も出ないのですが、受賞記念講演ですから、それでも、私の研究の何が素晴らしいか、私のどこが賢いか、という話をします。 What I've found 私が何を見いだしたか? 「摩擦滑りとは何か」が分かったというのが、まず一つです。摩擦滑りは、brittle(脆性、パキッと壊れる感じ)な現象の代表のようにいわれていますが、そうではありません。物質同士がくっついている所は、real contact areaだけです。ここに、何か剪断応力に対して抵抗できるものがある。これをfrictional junction(摩擦接合)といいます。突き詰めれば原子の結合力ということになりますが、このfrictional junctionが剪断応力(に指数関数的に依存するPierls-typeの熱活性化過程)でクリープ(ぬるぬると変形すること)によって変形している。それが摩擦が滑っていることの本質だ、ということを見いだしたわけです。 もっと具体的にいうと、今、real contact areaがこれだけだと分かっている場合、それにどれだけの力をかけたら、その瞬間の速度がどれだけになるか。つまり、かけた力と、それで生じる変形のバランスですね。そういうものを「構成則」といいます。私は、摩擦がそういう構成則でとらえられるものだということに気が付いた。これが、何より偉大なことです。構成則的なものの見方は、破壊とか摩擦とかbrittleな雰囲気のものには使われないのですが、そのせいで、摩擦法則の本質がみんなに誤解されていた。そこの所を私が……と、これ以上やると大演説になってしまいますからやめておきます。 それからもう一つ。これは、構成則とはまったく独立なことですが、同時に出てきたので一緒に話します。静摩擦強度が動摩擦強度よりも高いということは、みんな知っています。それは、静的にくっついている時間のうちに、だんだん面が強くなっていくのです。実は、real contact areaがだんだん広がっていくのですが、そういうことは以前から知られています。いったん低下した摩擦強度が大きくなっていくことをヒーリング(healing)といいます。ヒーリングは時間のlogで増加していくと観察的にいわれていたのですが、その動作原理のようなものが見つかったのです。その動作原理の本質は何か。瞬時瞬時のヒーリングレートは、今どれだけ面が強いか、今どれだけreal contact areaがあるかによって決まる。そういう動作原理によってヒーリングが働いていることが、分かりました。 How could I figure them out? では、どのようにしてそれらを見つけたかをお話します。本当は、「見つけた」というのも、おこがましいのです。全部、式に書いてあったのです。図2上の(1)式と(2)式は1980年代からある、地震学の基礎でもよく使う式です。地震は断層の摩擦滑りですからね。この経験式は岩石の摩擦実験で地震業界が発見したのですが、実は鉄、プラスチック、紙といろいろなものの摩擦にこの式は通用します。 さて、今日の話しのポイントは、ものの見方です。今まで良くないノーテーション(表記法)で書いてあったものを、良いノーテーションで書き換えたら図2下の(3)式と(4)式になって全部分かってしまったよ、という話なのです。 悪いノーテーションでは、瞬時瞬時に出ている速度(V)が速いと摩擦強度(μ)は強くなり、面の接触時間(effective contact time;θ)が長くなると摩擦強度は強くなります、という言い方をしていました。面の接触時間は、(2)式を見て分かるように、接触時間が1秒たったら1増えていきます。blnθは(1)式の方に入っていますが、これはヒーリングの結果で、logは本来、ヒーリングはどうやって起きるかを記述している(2)式の方で面倒をみるべきことです。 そこで、blnθをまとめてΘと考えてしまい、(1)式を図2下の(3)式のように書き換えてみました。(1)式ではμを摩擦強度と呼んでいましたが、μの定義は、剪断応力(τ)を垂直応力(σ)で割ったもので、μは本当は強度ではなくて、面に外部からかけられている力です。このへんで、皆さんの頭の中で混乱していたのですね。私[Nakatani, 2001]が出てくるまでは。 さて、以上のコンセプトに従って書き換えた式[(3)と(4)]を見ると、(3)式がConstitutive Law(構成則)であることが分かります。μ*+Θが本来の意味での摩擦強度です。μ*とΘに分かれていますが、ここを分けることに特に意味はないので、まとめて摩擦強度Φで結構です。(3)式は、ある摩擦強度(Φ)の物質にこういう力(τ)をかけたらこういう速度(V)で動きますよ、という力と変形のバランスを表す構成則なのです。今までは、本来が強度則である摩擦則のつもりで(1)式を見ていて、しかも、本当は強度ではなく、かかっている力であるμを摩擦強度と思っていたから、わけが分からなくなってしまっていたのです。恩師のScholz先生の言葉を借りると、very opaque(不透明)だったのです。 (2)式についてもblnθをまとめてΘとして書き換えると、(4)式になります。見た目はややこしくなりますが、がぜん意味がよく分かってくる。そっちの話はあとにして、まず構成則(3)式の方を解説します。 Frictional Constitutive Law(摩擦構成則) 今日、私が何をやりたいかというと、式の解説です(笑)。まず、Constitutive Lawの方からいきます。図3の(3')式は、図2の(3)式を摩擦滑りイコールという形に書き直したものです。かける力(τ)が大きくなったら摩擦滑りは速くなる、ということが書いてあります。 グラフにすると図3下のようになります。横軸が面にかける力、縦軸が滑り速度です。リニアスケールでとってあります。(3')式のaはとても小さい数字で、摩擦強度Φ辺りでグニュと曲がっています。μ*とΘ は分ける必要がないので、μ*+Θを摩擦強度Φとします。[Dieterich, 1979]以前は、有史以来、直角に折れ曲がって垂直になっているというのが摩擦の構成則でした。これならまさにbrittleですが、現実は少し切れが悪くて、図3のように連続的なカーブで(面の状態:強度と1対1対応する:が同じなら)あって、より早く滑らせるには大きな力がいる。 (3')式には、摩擦強度Φが入っています。摩擦強度が強くなると、力のわりに滑り速度が出ない、ということです。図4は私の実験のデータです。図4上は、縦軸が摩擦強度、横軸が時間です。一定速度で滑ってきた物体を、ある時点で止めようとする。つまり、かけている力を下げ、一定のレベルでホールドする。そのまま、しばらく待ちます。図4下の縦軸は滑り量です。一定の速度で滑ってきて、かける力を下げる。すると、ぱっと滑りは遅くなって、それでもずるずる滑るけれども、注目すべきはホールド中に滑りがだんだん遅くなっているところです。かけている力は一定です。かけている力は一定なのに、だんだん遅くなってきている。 この実験を見たとき、だんだん遅くなってくるのは、面の状態が変わっているからだと、私は気が付いた。ここがすべての出発点でした。ヒーリングが起きるということは以前から知っていましたが、面が強くなってくるから、同じだけ力をかけているにもかかわらずだんだん遅くなってくるんだな、と。そうかそうか、こういうことかと。時間がたつから遅くなるのだと思ったら、何も見えない。面が強くなることに応じて、遅くなっているのです。どれだけ強くなったかは、実験で調べることができます。調べてみたら、(3')式の通りになっていました。 熱活性化クリープによる変形 では、なぜ面が強くなると滑り速度が落ちるのか? 最初にreal contact theoryを説明したので、わりと簡単です。誰でもできる。図5は、図1と同じです。面が強くなるというのは、real contact areaが広がっているということです。外からかかっている力が一定の場合、real contact areaが広がると、junction一本あたりにかかる力(τc)は減りますね。だから滑り、すなわちjunctionのクリープ変形が遅くなる。junctionはとっても高応力下ですから、指数関数的に応力に依存するというメカニズム(Pierls Mechanism)でクリープするだろうと考えれば、一本道で図5の式が出てきます。さらにPierls Mechanismが熱活性化過程だということから、aという定数は絶対温度に正比例にすることが分かります。実験してみると、本当にそうなっていました。 私は知らなかったのですが、摩擦滑りはこういうもの(junctionの熱活性化剪断クリープ)だろうという理論は、実はHeslotらによって1994年に出ていました。もっと本当の始祖はRiceで、これは本人に言っておいてくださいと言われたから触れ回っているのですが、1991年ごろにRiceがフェルミ夏の学校か何かで講演して、Heslotはそこにいたそうです。私は1998年にRiceからアブストラクトをもらいましたが、ここまでは確かに書いてありました。 では、私は何をしたか。実は、RiceやHeslotがやったときには、real contact areaや強度が変化するということの影響はまったく入っていませんでした。それが入って完全な理論となったのが[Nakatani, 2001]です。強度の影響があるから摩擦の摩擦らしい性質(一見brittleぽかったりするような)が出てくるので、大事といえば大事。それから、aというパラメータが温度に正比例することを実験で確かめたのも[Nakatani, 2001]です。論文を書いている途中にHeslotらの論文を見たときにはガクッときましたが、気を取り直して書き進めました。論文を書き始めたのは1998年です。『Nature』に落ち(惜しかったんですよ)、『Science』に落ち、結局『JGR』。 摩擦強度の回復 -time depending healing 次は、摩擦強度がどう変わってくるかという、ややこしい式(4)をやりましょう(図6)。この式は2項に分かれています。1項(網かけ部分)は1秒につきこういうレートで強くなる、2項は1mm滑るごとにこういうレートで弱くなる、ということが記述されています。time-dependent healingとslip weakeningの2項で書かれています。 time dependent healingの方から説明します。(4)式の網かけ部分を見てください。この式の特徴は、ヒーリングレートが現在の強度の関数として書かれていることです。摩擦強度は初期強度Φ0からの差ΔΦで書いてありますが、摩擦強度が強いほどヒーリングレートは小さくなることが記述されています。これを積分すると、logのヒーリングカーブが出てきます。logのヒーリングカーブをリニアタイムで書くと、図6下のような形になります。だんだん緩くなっていく。これも、時間がたったから緩くなっているのではありません。私は、(4)式を見て気が付いたのです。おお、摩擦強度が増えていくからヒーリングがだんだん鈍くなっていくのかと。式に教えてもらったわけです。いいノーテーションで書き直しておきましたから。 このことをreal contact areaの図で考えると、実に当たり前です。real contact areaが広がっていくのは、垂直応力(σ)で押し付けられているため、アスペリティが垂直方向にクリープして横に広がっていくからです(図7)。real contact areaが広がると、接触部分にかかる垂直応力(σc)は小さくなります。アスペリティが垂直クリープする速度を支配するのはσcだから、面が強くなる、すなわちArが広がるにつれてだんだん遅くなっていきます。σcは非常に高い応力ですから、exponentialはリーズナブルです。これで、ヒーリングの物理モデルができました。 ちなみに、物理的に書けているということの証拠に、bやtcといったヒーリングの現象論的パラメータが全部物性で書けています。bは絶対温度に正比例する。tcは、logtのヒーリングを時間の対数でプロットすると、tcあたりから先がlogリニアになりますという特性時間ですが、プロセスの基本速度に反比例して、温度に対してアレニウスの関係にのります。 ヒーリングの物理モデルも実は、BrechetとEstrinによって1994年に論文が出ていました。私は、やはり論文を書いているときにそれを知ったのですが(これもRiceに教えられた)、やはりがっかりしました。ただし、実験で証明したのは[Nakatani and Scholz,2004]が最初です。それから、Brechet & Estrinの理論は少し特殊な初期条件を仮定してやっていて、実際はもう少しあるんだよ、ということを今、僕が論文に書いています。一般化した理論ですね。 あ、そうそう、最近はInterdisciplinary(学際的)でないといけないらしいですから言っておくだけですが、BrechetとEstrinは金属学者、物理学者です。金属学の雑誌に載っていました。1994年に摩擦のConstitutive Lawを出していたHeslotもやはり物理学者で、掲載誌はPhysical Reviewです。 摩擦強度の回復 -slip weakening 次にslip weakeningについてお話します。図8(4)式の網かけの部分がslip weakeningの式です。1mm滑ったら、b/Lというレートで落ちる。下の図は、その様子を示したもので、適当なΦから始めて滑らせたときのΦの落ち方です。横軸は滑り量。Φは直線的に、b/Lの傾きで落ちてくる。Φ=3から始めても、5から始めても同じような傾きで落ちていきます。 ただし、Φがだんだん小さくなっていくと、slip weakeningがだんだん鈍くなっていく。(4)式からするとslip weakeningは鈍くなりようがないのですが、ヒーリング(第右辺1項)が効いてくるのです。Φが小さくなると、ヒーリングのスピードがだんだん上がってきます。ヒーリングのスピードと、slip weakeningのスピードがバランスするところで一定になる、と。これは、本当に式に書いてある通りしゃべっているだけです。 残念ながら、このslip weakeningの仕方は、実験の結果とは合いません。しかし最近は、この式の事実と反する部分を利用して発見をしたという論文が出たりしています。ちょくちょく引用される[Guattei, 2002]はその例です。それは、(4)式が実験事実をきちんと表し切っていないのが悪いので、その人のせいではないのですが。大切なことは、[Nakatani, 2001]に、この式でやったらこういうslip weakeningなりますよと書いてあるので、こっちを引用してくださいということです。 ものの見方を変える さて結論ですが、何が言いたかったかというと、「ものの見方を変えたのだ」ということです。1979以来、人々は、摩擦強度は現在の速度に少し依存して、それから前の滑りの履歴にも少し依存して……などと言っていた。みんなopaqueだとは感じていたけれど、何でopaqueなのか分からなかった。それを私は、強度と力は別のものだという当たり前のことをきちんと考えて、Constitutive Lawにとらえ直した。このConstitutive Lawに書かれているのは、力をかけたら速く滑る、同じ力だったら摩擦強度が上がってくれば滑りは遅い、ということです。そう考えると、物理もはっきり見える。 それからヒーリングの方ですが、強度が時間のlogで増えるというのは、そうなんですが、もう少し考え直してみましょう。摩擦面がストップウォッチを持っていて何秒と計り、その秒の形でデータを保存して、それにlogをとって強度を出す、ということをしているわけはありません。摩擦面が知っているのは、今現在の物理的な状態、原子がどう並んでいるかというだけです。だから、その状態がどう変わるかということも、現在の状態だけの関数として書かなければならない。「強い面はヒーリングが遅い」と言ってみることがものの見方を変えたことになるというのは、こういうわけです。Constitutive Lawと比べるとスケールが小さいですが。 なぜ、ものの見方にこだわるのか 最後に、なぜ受賞記念講演で「ものの見方」ということをお話したのかについて。私は、サイエンスで一番価値があることは、重要な事実を発見することだと思います。地震の業界でいえば、大きい地震は継続時間が長い、とかいうのがこの範疇に入りますね。今回の私の発見は、現象は前からあって、式まで書いてあったわけですから、違います。二番目に価値があるのは、それがどういうように起きているのかという、動作原因(メカニズム)を明らかにすることです。私のは、当てはまるといえなくもないですが、何しろ、式をにらんだだけで分かるようなことですから、褒めるには難易度が低過ぎる。 では、「摩擦を構成則で見る」ということを、なぜとうとうと語るのか。サイエンスとしては大した価値はないかもしれません。しかし、学者というかインテリがやりたい究極のことは、人のものの考え方や見方(コンセプト)を変えることではないでしょうか? 少なくとも、私はそれが最高の価値だと感じるのです。それは、マスターベーションといえばそうなのですが、少しぐらいは現実的なお釣りもあります。 私の見方の方が、今までの摩擦則の見方よりもはるかに正しいというか、はるかにいいです。この見方をすると、いろいろな研究課題が続々と浮かんできます。 自分でやってしまったもの、やってもまだうまくいかないものなども含まれていますが、いくつもパッと出てきます。だいたい博士論文のテーマになるくらいの単位で考えています。現実的なお釣りといいつつ、こんなものを数えること自体がサイエンスのためのサイエンスといわれてしまうかもしれませんが、図9に挙げたのは、単に引用されるというのではなく、自分のコンセプトがあったからそういう仕事が生まれてきたという、そういうテーマです。 ガセネタかもしれませんが、このようなテーマが100本出たらノーベル賞の候補になるらしいです。それでリストアップしてみたのですが、10個くらいでネタが尽きてしまいました。この仕事は、ここ止まりで、ノーベル賞までいかないようです。残念。 まあしかし、ものの見方を変えるとか、そんなscholarly value(学者的価値)にこだわるような時代ではありません。中期目標とか、論文の数とか、外部評価とか、そういう、もっと大事なことがたくさんあります。私は別に、人のものの見方を変えるような研究がしたいとか思ってこの研究をしたわけではなく、たまたまそういうことにぶつかったから、やってしまっただけなのです。まあ、しかし、そういうことにぶつかったときには、本当に大事なことを差し置いて自堕落にやってしまうのも、学者というものではないですかね。これが、講演の結論です。
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