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2006年 1月号

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目次

第834回地震研究所談話会
話題一覧
今月のピックアップ
   地震情報配信システムの開発 -緊急地震速報を中心として-

第834回地震研究所談話会
話題一覧

地震情報配信システムの開発 -緊急地震速報を中心として-

鶴岡弘・土井恵治・堀宗朗・鷹野澄・卜部卓・山中佳子

沈み込み帯の火山における玄武岩質マグマの供給と分化過程 —三宅島火山における例—

新堀賢志

富士山稠密地震観測による地震波速度構造探査

渡辺秀文,中道治久(名大・地震火山防災研究センター),大湊隆雄,富士山稠密地震観測グループ

精密弾性波連続観測結果の信頼性評価 -人造湖の水位変動によるキャリブレーション-

佐野 修・小河 勉・武井康子・歌田久司,Ann-Sophie Provost・ Frederic Perrier (IPGP)

地震情報配信システムの開発 -緊急地震速報を中心として-

鶴岡弘・土井恵治・堀宗朗・鷹野澄・卜部卓・山中佳子

 緊急地震速報とは

 緊急地震速報とは、地震災害の軽減を図るため、震源に近い観測点で得られた地震波を使って、震源や地震の規模、あるいは各地の震度や大きな揺れの到達時刻を瞬時に推定し、大きな揺れが到達する前にお知らせするもので、気象庁が配信しています。「瞬時」とはどのくらい短い時間かというと、地震計に波が到達後、3秒で地震の発生位置や規模を推定します。地震波が到達する観測点は、初めは少なく次第に増えていくので、震源や地震の規模の再決定を随時行います。これまでの例を見ると、30秒以内に7報程度発信されています。内陸を震源とする地震については、震源や規模が比較的早く決まるので、4報か5報で確定した例もたくさんあります。一方、沖で起きる地震については、若干弱いところがまだあるかもしれません。緊急地震速報は2004年2月25日より試験配信を開始し、2年近くたちました。2006年あたりから本格運用、という話も出てきています。

情報翻訳ソフトウェアNowcastMain

 気象庁が発信する情報は、基本的には、地震の発生時刻と震源の位置、地震の規模です。自分がいる場所がどれくらい揺れるか、いつごろ揺れるか、ということは分かりません。私たちは、「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の中で、即時的地震情報の活用者サイドにおける情報翻訳ソフトウェアの開発を進めてきました。

 このソフトウェアは、緊急地震速報を受けた後、自分がいる場所での最大加速度、最大速度、震度と、主要動が到達するまでの猶予時間を予測します。加速度最大値についてはFukushima and Tanaka(1990)、最大速度値については司&翠川(1999)、震度については童・山崎(1996)の式を使って計算しています。震度については、地盤の増幅情報も考慮して、その地点に最適化した予測値となるようにしています。猶予時間は、電文発表時刻から地震発生時刻を引いた値を、走時表から算出した地震到達所要時間から引いて求めます。

 ソフトウェアの開発にあたっては、緊急地震速報のユーザにWindowsを使っている人が多いので、Windowsで動くようにしました。NowcastMainで緊急地震速報を受けて、最大加速度、震度、猶予時間を計算します。その結果をNowcastViewで表示する、という仕組みになっています。基本的には、S波が来る前までの猶予要時間でいろいろなことを考えよう、という形式になっています。図1は、NowcastMain/NowcastViewの起動画面です。

配信サーバの構築

 ユーザが緊急地震速報を受信するまでの流れを見てみます。まず気象庁緊急地震配信サーバがあり、jma-txという気象庁のマシンに情報が流れ、観測センターのgoemonに送られます。そして、情報センターのguriguriを経由して各ユーザのマシンへ配信されます。プロトコルはUDPで、WINシステムのrecvt/send_rawというプログラムを使って各ユーザに配信しています。

 現在の配信システムでは、各ユーザマシンが情報を受け取るためには、管理者がguriguri上でsend_rawを起動させる必要があります。また、UDPでの配信なので、ユーザマシンのセキュリティーソフトが情報をブロックし、情報を受けられないという場合もあります。緊急地震速報を利用するためには、こうした設定も必要で、結構たいへんです。

 現在の問題点を解決して簡単な配信サーバを構築できないか、というのが今回の趣旨です。WebサーバのようにTCPで接続して情報が得られれば、とても便利です。そういうサーバの構築を目指しました。2004年度に談話会で紹介した手法を使っているので、詳細については『技術報告10』を見ていただきたいと思います。recvtとshmdumpというWINシステムと、xinetd/inetdというスーパーサーバで構築しました。このサーバにアクセスすれば、緊急地震速報を簡単に受け取ることができます。配信は現在のところ、地震情報をよく知っているということで、地震研究所内および東京大学内に限っています。機能としては、これまで開発してきた情報翻訳ソフトウェア程度は目指してつくりました。

情報翻訳ソフトウェア tknowcast.tclとtkpcp.tcl

 新たに開発したソフトウェアは、tknowcast.tclとtkpcp.tclの二です。どちらもTcl/Tkというスクリプト言語で作成しているので、Windowsに限らずMac、Unixでも動作します。また、ほかの作業をしていても邪魔にならないように、画面をコンパクトにしました。tknowcast.tclは、一つで従来のNowcastMainとNowcastViewの機能をもちます。tkpcp.tclには、OSがWindowsXp/2000の場合、設定した閾値以上の震度が予測されると自動的にPCをスタンバイさせる機能があります。ハードディスクにデータを書きこんでいるときに地震の揺れが来ると、ディスク障害が発生します。tkpcp.tclは、ハードディスクのデータ保護ができるソフトウェアです。

 図2は、tknowcast.tcl起動時の画面です。tknowcast.tclは、緊急地震速報の震度や速度から、その場所での震度と主要動が到着するまでの猶予時間を計算します。地震が起きていないときは、画面を最小化することも可能です。緊急地震速報を受けると、音を鳴らして地震の発生を知らせます。また、緊急地震速報が更新されるごとに、予測値を再計算します。


 しかし、PCを立ち上げてtknowcast.tclを動かしていなければならないので、いつでも情報が得られるというわけではありません。そこで、地震の発生を携帯電話に配信するメーリングリストをつくっています。携帯電話には、発生時刻と震源位置と予測深度、最大震度、マグニチュードといった簡単な情報を配信しています(図3)。緊急地震速報は一回の地震について7報くらい配信されることがありますが、携帯配信では第一報と確定報を送っています。


波動伝播モニターツール tkhinetrms.tcl

 情報を受け取ったとき、本当に地震が起きたのかを確認できるツールがあると便利だと思い、波動伝播モニターツールtkhinetrms.tclも開発しました。

Hi-net700点弱の上下動記録の1秒RMS値をリアルタイムで計算して、観測点ごとに振幅の大きさを色で表示するツールです。tknowcast.tclとセットで利用すると、地震の発生と波動の伝播を簡単にモニターすることが可能になります。

 図4は、2005年11月15日の三陸沖の地震発生時のtkhinetrms.tcl起動画面です。このように、tkhinetrms.tclを利用すれば、波動の伝播をリアルタイムで確認することができます。

まとめ

 私たちは、緊急地震速報を簡単に配信するシステムを構築しました。地震発生および波動伝播をモニターできるツールも開発しました。今後の課題としては、まだつくったばかりなので、ツールの最適化、修正、あるいは新たな問題点への対応があるかと思います。また、配信サーバへのアクセスが多くなるかもしれないため、サーバの強化も必要ではないかと思っています。システムは、所内限定で公開しています(http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/tsuru/shmx/ERI/)。興味がある方は、ここからダウンロードして、ぜひ使ってみてください。

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