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地震研究所談話会 第835回 (2006年 1月)

火山噴火のモデル化におけるマグマ破砕実験の意義について

市原美恵

火山の噴火には様々なタイプがあり、その多様性の原因を理解することが、火山学の大きな目的の1つであるとされています。

噴火は大きく、爆発的な噴火と非爆発的な噴火に分けられます。その分け方も、分野や研究者によってまちまちなのです。それぞれの噴火を見てみますと、爆発的噴火にも流動を伴う破壊があり、非爆発的な噴火にも、破壊を伴う流れがあります。従って、マグマの破壊・破砕という現象の定義をもっと明確にしていく必要があります。

 火道の中のプロセスを実際に見ることはできないので、破砕という現象を理解するために役に立つのが、マグマ模擬物質を用いたモデル実験です。ゆっくりとした変形には流体的に振る舞い、速い変形には固体的に振る舞う性質を持つペースト状の物質でマグマを模擬し、図1のような実験装置を用いました。大きなチャンバーの下に耐圧ガラス管を取り付け、そこに気泡の入ったペーストを入れます。チャンバーとガラス管の間を膜で仕切り、チャンバーを低圧に、ガラス管を高圧に保ちます。間の膜を破ることで、ガラス管の中を急減圧します。途中に入れてあるオリフィスの口の大きさを変えることで、減圧速度を変化させます。予想通り、急な減圧に対しては、ペーストは固体のように壊れ、ガラス管から飛び出しましたが、ゆっくりとした減圧では、中の気泡の圧力に押されて膨張しました(図2)。これで、速い変形を加えると、破砕が起こり、爆発的な噴火になる様子が再現出来ました。最近、ミュンヘン大学のグループが、同じようなペーストと実験装置を使って、ちょっと違う実験をしました。彼らは、先に気泡を入れる代わりに、ペーストに気体を溶かし込みました。急減圧すると、ビールの栓を抜いた時のように、ペーストから泡が出てきてふくらみます。発泡が激しいと、ペーストの膨張速度が大きくなり、破壊が起こります。ただ、図2のようにバラバラになることはなく、全体がつながったまま壊れたり、くっついたりしながら膨張を続けました。結果として、破壊がたくさん起こった方が、気体がうまく逃げることができたということになりました。このように、同じような実験をしても、一方では破壊がマグマを噴出させるように働き、他方ではガスだけを抜いてしまうように働きます。この違いの原因が、気体の入れ方にあるのか、ちょっとしたペーストの物性の違いにあるのか、まだ分かってはいません。

 上のモデル実験でも、実際のマグマについても、すでに分かっていることは、十分に速い速度で、大きな力を与えると、固体のように壊れると言うことです。ですが、この「破壊」は、マグマをバラバラにする「破砕」とは異なります。噴火の際に、マグマは、様々な流動と破壊を経験すると考えられます。最後まで流動的な溶岩流もあれば、流動と破壊を繰り返しながら流れる溶岩流もあります。流動的なまま水しぶきのようにバラバラになって噴出する場合もあれば、ガラスが砕けるように割れる場合もあります。この多様性を認識した上で、それぞれの形態を決める決定的な条件を探していかなければなりません。そのために、今、一番足りないものが、実際のマグマの壊れ方に関する情報だと考えています。そして、それを計測するための準備を進めているところです。

50MPa/s

2.7MPa/s

2.6MPa/s

ニュースレター2006年2月号

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