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地震研究所談話会 第838回 (2006年 4月)

GPS−音響結合方式による海底地殻変動計測手法の開発

生田領野、安藤雅孝・田所敬一・奥田隆・杉本慎吾(名古屋大)

名古屋大学のグループでは観測船の位置をキネマティックGPS測位で決定し,船(船上局)−海底局間の距離を超音波測距で測定して海底局位置を決定する海底地殻変動観測システムを開発している(図1).2002年後半から駿河湾と熊野灘に複数点の海底局を展開し,本格的な局位置の繰り返し測位を開始した.

駿河湾では2002年10月に駿河湾北部(水深約800m)のサイトに約5年間継続観測が可能な海底局を直径約500mの範囲に3台設置している.現時点ではこのサイトで5回の繰り返し測位を行なっている(図2−a).キネマティックGPS測位のための基準局は,駿河湾では基線長約30kmの陸上に設置した.解析にはキネマティック専用のソフトウエアであるGrafNavを使用した.更に船上のGPSアンテナと海中に出した超音波送受信装置(トランスデューサ)の相対位置を知るためにサテライトコンパス(フルノ)を使用した.

超音波測距は潮流と風向きを見て上方に観測船を移動し,エンジンを止めて海底局上を流しながらの送受信をくり返した.一回の観測につき千数百個の測距データの取得を行なった.3台の海底局と船の移動により波線の幾何学配置を稼ぐことで,音速構造の時空間変化と海底局位置の推定を同時に行なうことができる.CTDによって計測した音速構造から水平成層構造を仮定し,この各層の速度をα倍する形で音速構造が時間空間変化しているとした.補正値αの時空間変化のモデルとして,本解析では緩やかに変化するという仮定の下で推定を行なっている.緩やかさは音速構造の時空間変化の激しさによって観測の度ごとに変わるべきである.各観測期間において緩やかさを決めるハイパーパラメターは,観測毎にデータを前半と後半に分けて別々に解析し,海底局位置が最も近く決まるものを最適とした.

このような手法を用いて海底局位置推定を行い,その再現性を見た.結果,海底局位置は水平面で半径20cmの円内にばらついて決まっていた.駿河湾における2年間でのプレート間変位量は大きくても5cm程度と見積もられるので,20cmの変動は明らかに推定の誤差である.

熊野灘では2004年7月に紀伊半島南東部(水深約2000m)の直径約2000mの範囲に3つの海底局を設置した(図2−b).現時点ではこのサイトで9回の繰り返し測位を行い,海況のためにそのうち6回で十分な測定ができている.キネマティックGPS測位のための基準局の基線長は熊野灘では約60kmであった.熊野灘の観測が駿河湾と最も異なる点は,駿河湾では観測船のスクリューを止めてドリフトさせながら計測したのに対し,熊野灘では観測船を任意に移動させながら超音波の送受信を繰り返した点である.熊野灘についても海底局位置推定を繰り返し行ってその再現性を見ると,海底局位置は平常時,水平面内で半径5cmの円内にばらついて決まっており,更には2004年9月の紀伊半島南東沖地震に伴う南向きの20cmの変位が検出された.

観測デザインと音速構造変化の測位誤差への影響を特定するために,実際の観測船の航跡に様々な音速構造の時間空間変化を与えて擬似走時データを作成し,局位置推定を行った.その結果,20cmという駿河湾での再現性の悪さの原因は観測船軌跡の幾何学的配置と送受信回数の不十分さに求められることが判明した.更に駿河湾におけるエンジンを止めて船を流す観測デザイン(図3−a)が,船上測器配置の測量誤差や設置の再現性の悪さに非常に敏感であり,これらも大きな誤差要因となりうることが示された.

測線の幾何学的配置を工夫することで船上測器の測量誤差に対しても頑強なデータ取得ができ,測距データ数を現状の倍にすることで数センチの精度が期待される.熊野灘における観測ではこれが再現されており(図3−b),現時点で±約5cmの精度で解が得られることが示され,実際の結果と整合している.

   

図1 海底地殻変動観測システム

図2 観測点

 

図3 計測,局位置推定手法の誤差評価

ニュースレター2006年5月号

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