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地震研究所談話会 第838回 (2006年 4月)

折りたたみ振子傾斜計の開発

高森昭光, 新谷昌人 (地球計測部門), Alessandro Bertolini (ピサ大学), Riccardo DeSalvo (カリフォルニア工科大学)

協力:地震地殻変動観測センター

振子式の傾斜計では、地面に固定したフレームから吊り下げた振子のおもりと、地面上の点からの水平方向の距離を変位計で記録する。地面が傾くと見かけ上重力の向きが変化するので、それに伴って振子のつりあいの位置が変化する。このつりあいの位置の変化を変位計で記録すれば、地面の傾斜量を知ることができる。変化量は、地面の傾斜角と振子の長さの積、長い振子を使えば、大きな位置変化が発生し、観測が容易になる。

現在開発を進めている傾斜計では、折りたたみ振子(Folded Pendulum: FP)を使用している。FPでは、振子支点がおもりの上にある通常振子と、支点が下にある倒立振子を組み合わせている。通常振子ではおもりをつりあいの位置に戻そうとする復元力が生じる一方で、倒立振子はおもりをつりあいの位置から遠ざける反復元力を発生する。これらの二つの振子にかかる荷重バランスを調節すると、復元力が非常に小さく、固有周期が長い振子を作ることができる。振子の実効的な長さは振子の固有周期の2乗に比例するので、折りたたみ振子を利用すれば、物理的な振子長とは原理的には無関係に、非常に長い実効長を持つ振子を実現できる。今回使用しているFPは、物理的には7 cm程度の長さだが、固有周期を約6秒に調節したため、有効長さは6 m以上になる。これによって、傾斜の検出効率は約90倍に改善される。

振子のおもりの位置を検出するためには、光ファイバー変位計を開発した。このセンサーは1 nm以下の高い分解能と、0.1 mmという比較的広い動作範囲を同時に実現している。また、非接触センサーなので、振子を乱すことなくその位置を検出することができる。

これらの技術を組み合わせて製作した傾斜計を、地震研究所地震地殻変動観測センターの鋸山地殻変動観測所に設置して、試験的な観測を行った。結果として、同観測所に設置されている地震地殻変動観測センターの水管傾斜計と良く一致する傾斜データを得ることができた(図参照)。また、新しい傾斜計では潮汐による地面の傾斜を約0.04秒の精度で観測できることがわかった。

今後は、装置全体の小型化を進め、ボアホールや海底観測で使用できる傾斜計を開発する計画である。

図1(左): 折りたたみ振子傾斜計。

図2(右): 折りたたみ振子傾斜計によって観測された潮汐による傾斜変動(上)と、水管傾斜計による観測(下)。
水管傾斜計のデータは、地震地殻変動観測センターの提供による。

ニュースレター2006年5月号

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