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地震研究所談話会 第840回 (2006年 6月)

IT強震計でみた地震研建物の震度1の揺れ

鷹野澄(東大地震研)・伊藤貴盛(応用地震計測)

 はじめに

 大地震による災害を軽減する為には、小さな地震の時に私たちの住宅や会社、学校など、身近な場所が実際にどのように揺れるのかを調べて、その弱点を探り、効果的な耐震対策をすることが有効と考えられます。IT 強震計は、このような目的で利用者自身が設置して利用する新しいタイプの安価な強震計として考案されました。今回、このIT強震計の建物への応用例として、地震研究所の4つの建物(1号館、2号館、2号館別館、3号館)にIT強震計を多数設置して数ヶ月観測してみました。その結果、震度1程度の弱い揺れであっても、IT強震計を利用すれば、それぞれの建物の揺れ方の特徴を捉えられるということがわかりました。

フロアごとの揺れの違い(簡易震度による比較)

 2006年2月1日から5月20日までに文京区本郷で震度1以上が観測された地震15個について、2号館、2号館別館、3号館における各フロアの揺れの違いを図1に示します。ここでは、各フロアの揺れの違いを、簡易震度で表してみました。この図にあるように、通常の建物では、地階に比べて、最上階が震度1程度揺れが大きくなることがわかります。

     

図1 各建物のフロアごとの揺れの違い(簡易震度で比較)

建物ごとの揺れの違い(IT強震計による比較)

 震度のような単純な数値ではこの程度の揺れの違いしかわかりませんが、IT強震計では、波形データを記録しているので、その記録をもとに、各建物の揺れをアニメーションで再現させることができます。IT強震計ではJAVAアプレットを使って、高速再生やスロー再生を対話的に自由にできるようにしました。次の図2は、2月1日の千葉県北西部地震(M5.1、文京区本郷の震度2)と5月2日の伊豆半島東方沖(M5.6、文京区本郷の震度1)のそれぞれの地震の際の、各建物の揺れのアニメーションのスナップショットです。アニメーションにより、各建物の細かい揺れの違いがよくわかるようになりました。

図2 IT強震計でみる各建物の揺れの違い(JAVAアニメーション)

免震建物の揺れをみる(IT強震計による揺れの再現)

 地震研究所の新しい免震建物である1号館に5月25日からIT強震計を設置して他の2号館、3号館の各建物との揺れの違いを調べてみました。最初に観測されたものは、6月2日の伊豆半島東方沖地震(M4.2、深さ144km)でした。

 この地震の揺れは、図3に示す様に、関東地方の地震としては非常に揺れの小さな地震で、文京区本郷の震度も1でした。このような小さな揺れでしたが、IT強震計を用いて次の図4のようにJAVAアニメーションで各建物の揺れを再現したところ、それぞれの建物の揺れ方の違いが非常によく再現でき、揺れの特徴が捉えられることがわかりました。

図3 観測された地震の震度分布 (気象庁HPより)

図4 IT強震計でみる1号館(免震建物)、2号館(鉄筋コンクリート造)、3号館(鉄骨造)の揺れの違い(JAVAアニメーション)

 なお、IT強震計の簡易震度でみると、2号館と3号館では、図1のように上階ほど震度が大きくなりますが、1号館(免震建物)では、建物内の各フロアの何処でもほぼ同じ震度となることが確認できました。

まとめ

今回、安価な加速度センサーを使ったIT強震計でも、震度1のような小さな地震で様々な建物がどのように揺れているのかを詳しく調べられることが確認できました。ただし周期の長い建物については、これで十分かはまだわかりません。より高性能の強震センサーと比較観測を実施して、安価な加速度センサーの限界についても研究してみる予定です。

参考

鷹野・伊藤2005,建物用IT強震計システムの開発,地震工学会・大会-2005,2005.11

鷹野・伊藤2005, 建物用IT強震計システム,地震学会秋季大会,2005.10

IT強震計研究会HP  http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/ITKyoshin/



ニュースレター2006年7月号

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