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地震研究所談話会 第841回 (2006年 7月)

含水条件におけるマントル遷移層構成鉱物と超塩基性メルト間の元素分配

三部賢治1・折橋裕二1・中井俊一1・藤井敏嗣2
(1地球ダイナミクス部門, 2火山噴火予知研究推進センター)

 地球内部の物質の化学組成を詳しく調べることにより,地球の進化や地球内部の状態を推定することが可能です.特に,地球内部物質の微量元素の存在度は,地球内部でのマグマの生成条件やそのマグマから晶出する結晶の種類等の情報を反映するため,微量元素の高温高圧下での挙動を知ることは重要です.

 上部マントルを構成するペリドタイトの化学組成は,地球を作った元の物質と考えられている隕石(炭素質コンドライト)と比較して,ある種の微量元素が少ないことが知られています.最近の研究によると,マントル遷移層付近で起こりうる含水マグマの生成が,この上部マントルの微量元素の涸渇に深く関与しているのではないかとの仮説が提案されています(Bercovici and Karato, 2003).この仮説を検証するには,マントル遷移層(主にウォズリアイト)や上部マントル(主にオリビン)を構成する各種鉱物と含水マグマとの間での微量元素の分配関係を調べる必要があります.しかしこれまで,これに関する実験的データはありませんでした.オリビンもウォズリアイトも微量元素の濃度が著しく小さく,実験で合成される結晶も小さいため,長時間安定に高温高圧を発生できる(結晶を大きくする)装置と,高感度の微少領域分析装置の両方が必要だったからです.

 今回我々は,地震研究所に設置されている川井型マルチアンビル高温高圧発生装置(図1)と,レーザーアブレーション四重極型ICP質量分析装置(図2)を用いて,ウォズリアイトと含水マグマ間の微量元素の分配を決定することに世界で初めて成功しました.決定された各鉱物と含水マグマ間の分配係数(=鉱物中の元素の濃度/含水マグマ中の元素の濃度)を図3に示します.図3から分かる通り,ウォズリアイトにはオリビンと比べて,LIL元素(Rb, Sr, Ba等)やHFS元素(Ti, Zr, Nb, Hf, Ta, Th, U等)が多く濃集することが今回の研究により明らかになりました.この結果はBercovici and Karato (2003)の仮説と定性的に矛盾はありません.定量的な検証には,さらなる詳しい実験が必要です.

図1.マルチアンビル高温高圧発生装置(PREM)

図2.レーザーアブレーション四重極型ICP質量分析装置
   (写真はNd-YAGレーザーアブレーション装置部分のみ)

図3.各鉱物-含水マグマ間の分配係数.
   分配係数が大きい元素ほど,鉱物に濃集しやすい

 今回用いた手法により,様々な地球化学的データを蓄積することが可能であり,今後ますます地球内部現象に対する理解が深まることが期待されます.

(この成果はGeophysical Research Letters誌オンライン版に2006年8月19日に掲載されました.)

 謝辞:本研究を進めるにあたって,本多了教授及び岩森光助教授との議論は有意義でした.また,実験及び分析の一部は安田敦助教授と飯田晃子さんに大変お世話になりました.


ニュースレター2006年8月号

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