2.11.2 海域における観測研究

(1) 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の海底観測

本震発生時には,震源域の一部に,50 台程度の海底地震計が設置されており,本震発生後4 日目から,海底地震計を追加設置し,120 点を超える海底地震観測網を構築した(図3).ほぼ1か月後に,一部の海底地震計を回収再設置し,新たな観測点を設け, 6月からは,高密度な観測網を,宮城県沖と,茨城県沖・千葉県沖に構築して,9 月まで観測を行った(図3).9月から平成24年10月までは,40台の長期観測型海底地震計を震源域全域にわたって展開し,長期観測を実施した(図4).2012年4月から11月までは,震源域南部は高密度な観測とした.2012年8月から平成25年11月までは,福島県沖及び宮城県南部沖で長期観測を実施した(図4).2013年10月からは,宮城県北部沖から岩手県沖の震源域北部において,長期観測を実施中である.

(2) 海底地震調査観測研究

(2-1) 宮城県沖地震における重点的調査観測

プレート境界型大地震が過去繰り返し発生している宮城県沖において,長期観測型海底地震計を用いた繰り返し観測を2005年から5年間実施した.この観測では,同一の観測点配置による観測を長期間継続して実施することにより,データの蓄積を図るとともに,地震活動の時間変化を検出することを目的とした.この観測による震源分布と他の研究で求められている構造を比較すると,微小地震はほぼプレート境界に沿って発生しているが,深さ30km程度の太平洋プレートの折れ曲がり点よりも深いプレート境界で,地震活動がより活発であることがわかった(図5).また,これらの長期間のデータにより,地震活動の時間的推移が明らかになった.

(2-2) 東南海・南海地震等海溝型地震に関する調査観測

南海・東南海地震の想定震源域において,長期観測型海底地震計を設置し,震源域及びその周辺の地震活動を把握するために,2003年から5年にわたる観測を実施した.震源と3次元速度構造を同時に求めることにより,紀伊水道から紀伊半島沖にかけて,3つのセグメントに分類できることがわかった(図6).一方,千島海溝南部から日本海溝にかけての海溝型地震発生域においても,正確な地震活動を把握する観測を実施した.対象域を5つの領域にわけ,それぞれ1年間の連続観測を行い,2004年から5年かけて,すべての領域の地震観測を行った.正確な震源分布から,太平洋プレートの形状が精度よく求まったほか,過去の大地震の震源域と地震活動・プレート形状の関係が明らかになった(図7).

(2-3) 東海・東南海・ 南海地震の連動性評価研究

東海・東南海・南海地震の連動性評価に貢献するために,長期観測型海底地震計および高精度水圧計付広帯域海底地震計の稠密展開による自然地震,低周波地震・微動及び上下変動のモニタリングを2008年から5カ年実施した.観測域は,東南海地震と南海地震の境界域である紀伊半島沖から紀伊水道のトラフよりの海域である.得られたデータには,通常の地震とは異なる低周波まで周波数成分をもつイベントが多数記録されており,低周波イベントの特徴が明らかとなった(図8).また,高精度水圧計には,2011年3月に発生した平成23年東北地方太平洋沖地震により発生した地震動や津波による圧力変化が記録されていた.

(2-4) ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究

近年「ひずみ集中帯」と呼ばれる日本海東縁部の褶曲-断層帯において,活構造の全体像を明らかにするために,海域におけて自然地震観測を2008年から5年間で実施した.当初の1年間は,中越沖において,自己浮上式長期海底地震計による観測を実施し,地震活動が,上部地殻内に集中していること,応力場が東西圧縮であることを明らかにした.2010年には,新潟県粟島南方海域に,新規開発したケーブル式海底地震観測システムを設置し,自然地震の観測を開始した(図9).このケーブルは,TCP/IPによるデータ伝送・制御が特徴である.観測は現在も実施中であるが,粟島付近の微小地震が深さ5-20kmの範囲で発生していることが明らかになっている.

(2-5) 東北地方太平洋沖で発生する地震・津波の調査観測

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震はこれまでに日本国内で観測された最大の地震であり,現在でも活発な余震活動が継続している.日本海溝・千島海溝周辺域での地震発生可能性の評価,津波の高精度予測など海溝型地震の長期評価の高度化に貢献するために,長期型海底地震計および水圧計付広帯域海底地震計の稠密展開による自然地震,低周波地震・微動及び上下変動のモニタリングを,2011年度から3カ年で実施した.2012年4月に,自己浮上式海底地震計を,房総半島沖から茨城県沖に設置し,約半年間の観測を行った(図10).その結果,余震発生の時間変化が明らかとなった.2012年秋からは,茨城県沖から,福島県沖,宮城県沖南部において,1年間の長期観測を行った.データは解析中である.

(2-6) 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト

2011年東北地方太平洋沖地震の発生を受けて,南海トラフで発生する巨大地震についても,最大規模の地震を想定する必要性があり,地震発生の連動の範囲や地震や津波の時空間的な広がりを見積もる必要がある.そのために,南海トラフから南西諸島海溝にかけて,広帯域海底地震観測を2013年から8カ年の予定で実施する.得られたデータよりトラフ付近の低周波イベントの解明と地震活動の詳細な把握を行うことが目的である.また,さらに,これあの結果から,プレート境界のすべり特性を解明する.これらの成果は,巨大地震発生域の高精度推定に寄与することが期待される.2014年3月から豊後水道及び宮崎県沖において,広帯域海底地震計による繰り返し観測を開始する.

(3) 海底地震地殻変動観測システム開発

(3-1) ICTを用いた光ケーブル式海底地震・津波観測システムの開発

地震研究所では,1996年に光ケーブルを利用した海底地震・津波観測システムを三陸沖に設置した.このシステムは,海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面での欠点がある.そのため,データ伝送とシステム制御にICTを用いたシステムを新たに開発し,新潟県粟島近海に設置した.このシステムは,データ通信の冗長性を備え,より低コストで,小型・軽量であることが特徴である.2011年には,三陸沖システムが,東北地方太平洋沖地震により被災した.その復旧を行うとともに,平行して,ICTを用いた地震・津波観測システムを設置予定である(図11).

(3-2) 海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム

海中移動体(無人有索探査機,自律航行型探査機)に搭載し,0.1mgal程度の重力異常が計測できる移動体搭載型重力計の開発を,2009年より開始した.海中重力センサーは,重力センサーが,鉛直保持をする姿勢制御装置に搭載されている.2011年に,移動体搭載型重力計が完成した(図12).その後,陸上試験を経て,2012年9月6日から9日にかけて,海洋研究開発機構深海潜水調査船支援母船「よこすか」YK12-14次航海において,開発した移動体搭載型重力計の深海巡航探査機「うらしま」による実海域実証試験を実施した.その結果,海中において,0.1mgal以下の計測が可能であることがわかった.引き続き,実証試験を計画している.

(3-3) 超深海型海底地震計の開発

機動力に富む超深海域で観測可能な海底地震計の開発を進め,実用化した.2012 年には,水深7500m以深の海底に設置後 ,2か月後に自己浮上により回収し,地震データ取得に成功した.これをふまえ,2013年,日本海溝を横切る構造測線下の海溝軸上に超深海型地震計を設置し,エアガン記録のデータ取得を行った.この地震計記録により堆積層内を横方向に伝播する相の観測に成功し,堆積層内の滞水構造について新たな知見を得ることができるようになった.なお,本構造探査は海洋研究開発機構により実施された.

(3-4) 海底上下変動観測のための精密水圧計を搭載した広帯域海底地震計の開発

広範囲な周波数領域における変動を計測することを目的として,既存の広帯域海底地震計に高精度水圧計を付加する開発を実施し,2009年に,試作1号機を製作した.高精度圧力計は,周波数出力となっており,2012年には,周波数測定の基準に超小型原子時計(CSAC)をした高精度圧力計用データ記録器を開発し,周波数測定基準に由来する誤差はほぼなくしたことが特長である.開発した海底地震計は,東北地方太平洋沖地震海底余震観測などに利用し,規模の大きな余震に伴う海底の上下変動を記録することに成功した.この測器に関しては,ほぼ実用化に達しており,現在観測に用いられている(図13).

(3-5) 海底傾斜観測にむけた基礎開発

地震研究所において開発された地震計センサーを海底下に埋設する地震観測システムを利用して,海底で傾斜を計測するシステムの開発を行っている.まず,陸上において,広帯域地震計の振り子位置により,地球潮汐を明瞭に記録することができることを確認した.その後,海底下センサー埋設観測システムを改良し,実際の海底における試験観測を,2012年に実施した.その結果,海底面において傾斜変動観測の可能性を評価可能なデータが得られた.2013年からは,房総沖で長期観測を実施中である.