9.1.3 研究者コミュニティの意見の反映と学術動向の把握に基づく拠点運営

幅広い研究領域に亘る共同利用・共同研究拠点としての機能を健全に保ち,さらに,その研究成果を,急速に展開する学術の発展に結び付けるため,地震研究所では以下の4つのルートを用いて研究者コミュニティの意見収集と学術動向の把握を行っている.

(1) 東京大学地震研究所協議会

本協議会は,地震研究所の共同利用・共同研究に関する運営の大綱について研究所長の諮問に応じて意見を述べることを目的とし,年1回開催されている.協議員(19名以内)の半数以上は学外者によって構成され,多岐にわたる分野から選出されている.学内委員は,理事,関連する研究科長・研究所長等によって構成され,全学の学術研究戦略の動向についても的確に把握するように努めている.2012年度から,日本学術会議から推薦された学外委員を招き,固体地球科学分野のみならず理工学,防災科学全体の学術的動向を把握する体制を強化した.次に述べる共同利用委員会と予知協議会の活動が研究コミュニティの意見を十分に反映しているかについても本協議会で審議される.

(2) 共同利用委員会

地震研究所の共同利用・共同研究拠点としての運営に研究コミュニティの意見を反映させることを目的として,学外委員を半数以上含む共同利用委員会を設置している.共同利用・共同研究拠点経費に基づく公募研究課題の審査・採択は本委員会において行なう.また,本委員会は,予知研究に関わる公募研究や,拠点経費を用いない客員教員招聘の審査にも携わる.このシステムにより,既存の全国的プロジェクトへの参加者を研究者コミュニティ全体に広げることや,共同研究課題をより大規模なプロジェクトに発展させること等,コミュニティの研究活動の活性化促進に加え,共同利用・共同研究に関する公募が,研究コミュニティ全体に資するように適切に運営されているかを確認することも可能としている.

本委員会は,共同利用・共同研究に関する運営の具体的な改善策についての議論を行い,実践する.たとえば,利用者の利便性の向上と手続きの簡素化を目的として,共同利用・共同研究への申請や報告の簡素化を進め,2012年度より,押印が必要となる承諾書を除くすべての申請・報告書類を WEB投稿により提出するシステムを導入した.その後もシステムの利便性を更に高めるとともに,設備・施設・観測機器に関する情報へのアクセスをより容易にするため,WEB公開情報を充実させる作業を行っている.また、研究活動の活性化,特に,萌芽的研究から将来的なプロジェクト化を目指す特定共同研究Bと研究集会の活性化を目指し,採択において国際性・学際性の強い研究テーマに配慮する仕組みを導入するとともに,2012年度より一件当たりの申請上限額を200万円に増額した.この取り組みが応募数の増加に効果があることが確認できたため,今後も同様の方針を継続する予定である.

(3) 地震・火山噴火予知研究協議会

地震研究所の共同研究では予知研究が最も大きな割合を占めている.これらのプロジェクトに関わる予算の取りまとめと配分は,共同利用・共同研究活動全般の運営を視野に入れ,企画・立案を行った予知協議会と前述の共同利用委員会で審議・決定されている.

(4) 関連学会等

地震研究所は,地球惑星科学連合を含む12関連学術学会から要望書を得て,共同利用・共同研究拠点認定申請を行った.これらの学会員は,拠点における共同利用・共同研究に積極的に参画している.また,これらの学会には多数の地震研究所教職員が理事や各種委員として積極的に参加しており,各学会の運営に貢献するとともに,研究者コミュニティの意見や学術動向の把握を行っている(表8).特に関連が深い日本地震学会,日本火山学会,日本測地学会,地球電磁気・地球惑星圏学会においては,地震研究所の現職の教員が学会長などの重要な役職を務めているほか,学会将来構想案の策定メンバー,サマースクールの主催代表者として,将来に向けた中核的な活動を行っている.

学会を通した取り組みに加え,地震研究所は,様々な形で研究者コミュニティの要望に基づく学術連携の企画を立案し,実施している.例えば,日本学術会議IASPEI小委員会の依頼により,国際地震学センター(ISC,本部英国)のメンバーとして2009 年度から年約125万円の分担金を拠出し,日本国内の大学がISCのデータを自由に使える体制を整えている.また, 国立天文台所有の江刺地球潮汐観測施設の地殻歪連続観測を継続するという全国の地殻変動研究者の意向を受けて,予知協議会の要請の下,2008年に地震研究所と国立天文台との間で共同研究協定が締結された.