10.2.1 SP2009策定までの経緯と改訂方針

地震研究所は設立以来,地震・火山現象を科学的に理解する事を通じて,これらの現象に伴う災害を軽減することを目的としてきた.この目的を達成するため,これらの現象解明への道を切り開くべく,観測固体地球科学分野において世界をリードする先端的研究を推進することを目指している.

上記の目標のもと,地震研究所では,これまでいくつかのサイエンスプランを掲げ研究を進めてきた.中でも全国共同利用研究所への改組に伴って1999年に策定した将来構想・サイエンスプラン(FP99),および,共同利用共同研究拠点に向けた改組に伴って2009 年に策定したサイエンスプラン(SP2009)は,1990年代以降,地震研究所が全国の共同研究拠点として大規模共同プロジェクトを積極的に推し進める上での基本方針として役割を果たして来た.これらのサイエンスプラン(FP99,SP2009)は,外部評価などを通じ,広く研究者コミュニティの声を汲み上げて策定されたものである.また,SP2009は,この間の固体地球科学を取り巻く様々な状況の変化(大学の法人化,地震・地殻変動基盤観測網の整備,海底観測技術の発展)を考慮し,共同利用・共同研究拠点設置に向けてFP99を徹底的にレビューしたうえで策定したものであり,FP99以来の基本理念を踏襲しつつ,それ以降の社会情勢の変化に対して一定の有効性をもって対応できているものと判断している.

SP2009では,重点的に取り組む分野・課題として
(1)地震現象の包括的理解と地震発生予測の高度化
(2)火山活動の統合的解明と噴火予測
(3)多元的・統合的アプローチによる地球内部活動の解明
(4)革新的観測技術開発
(5)災害予測科学の総合科学としての新展開

の5つの柱を掲げ,それぞれの柱について具体的研究項目と達成目標をたて,組織的かつ計画的に進めることとした.(1),(2)は,とりもなおさず,本所の主たる設置目的である地震・火山現象の理解を目標として掲げるものである.(3)は地震・火山現象を地球内部活動の地表における現れとして捉え,それらの現象を地球内部活動にまで遡って解明することを目指している.(4)においては,地震・火山現象の理解の突破口として,観測を重視し革新的アプローチに挑戦するという方針を打ち出すものである.(5)は,本所設立以来のもう一つの目的である「地震・火山現象の理解を如何にして自然災害の軽減に結び付けるか」という問題を扱うものである.

プレートテクトニクスを始めとする20世紀の固体地球物理学の成果によって,地震・火山現象を地球内部ダイナミクスの観点から総合的に理解するという道筋が確立した.また,最近のプレート境界等における様々な現象の発見からみて,今後も観測による実証的アプローチが地震・火山現象の理解を進める主要な推進力となり続けることは疑いない.従って,SP2009に掲げられた5つの柱は,地震研の設置目的を実現する方向性として,現在においても有効性を失っていない.一方で,上記(1)から(5)の中の個々の研究課題については,観測事例の蓄積,科学全般の進展,社会状況の変化に呼応して,継続的見直しを必要としている.本節においては,これらの5本の柱についてはそのまま踏襲しつつ,各項目についてこれまでの進捗状況についてレビューを行い,さらに,東北地方太平洋沖地震の発生を始めとするその後の状況の変化を考慮に入れて,SP2009に加えてどのような研究課題が必要となるのか検討する.