10.2.4 SP2009Rを支える研究所の運営方針

研究所を取り巻く状況としては,国の厳しい財政事情と限られた学術研究支援の下,研究所の設立目的達成に向けて効率的かつ集中的取組みが必要となっている.同時に,東北地方太平洋沖地震以降,設立目的である地震・火山現象の研究およびこれらの現象に伴う災害軽減に向けた研究に対する期待が高く,地震・火山現象を理解するというチャレンジングな科学的問題に対して大学の附置研究所として取り組むためには,将来の人材育成を含む長期的展望および科学・技術発展の全貌を見渡す広い視野が必要である.中でも,大学における教育や研究プロジェクトの国際化は,大きな時代の流れであるとともに喫緊の課題としてその対応が望まれている.地震研究所に直接関連する学術分野においても,2011年東北地方太平洋沖地震のような低頻度巨大災害をもたらす自然現象を実証的に理解するために,フィールドを海外まで広げ,グローバルな視点で多様な現象を整理し,より一般的な理解に導く研究が不可欠となっている.その一方で,共同利用・共同研究拠点である地震研究所は,研究者コミュニティから生まれる多様な研究成果を統合し,新たな学術創成に向けた一つの潮流をつくる責務がある.これらの役割を果たすことを目的として,2010年度には若手人材育成,共同利用・共同研究,国際化等,幅広い課題に対応する組織を作るべく改組を行った.今回の外部評価では,これまでの体制を盤石なものとしつつ,その後の科学技術の発展や東北地方太平洋沖地震の発生を考慮して策定されたSP2009Rを遂行するため,図1に示したような「地震火山噴火の最新の知見に基づく課題解決型プロジェクトの推進」,「世界に向けた発展」,「未来に向けた潮流作り」をもたらす運営方針を提案したい.以下では,予算等の裏付けに基づいて,この運営方針の概要を説明する.

地震研究所は,大学の附置研究所であると同時に,全国の共同利用.共同研究拠点としての役割を果たす.即ち,図1の幹の部分で表したように,大学運営費(年間約10億円規模)による大学附置研究所としての研究・教育活動に加え,共同利用・共同研究拠点としての研究活動によって設立目的の達成を目指している.特に重要な取り組みとして,地震・火山噴火予知研究協議会などを通じて研究者コミュニティの意見および学術動向を把握し,年間約4億円規模の全国的プロジェクト「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を,地震研究所が中心となって実施する.このボトムアップの共同研究プロジェクトは,これまでも「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」として地震研究所が中心となって推進してきたものであり,2011年に発生した霧島火山新燃岳噴火,東北地方太平洋沖地震などの突発災害の際にも迅速な共同研究体制を作り,分野全体が機会を逃すことなく研究を進める母体となっている.また,この共同研究プロジェクトは,年間約十数億円規模の大型プロジェクト(受託研究等)へと発展し,それが地震や火山噴火に関わる防災・減災の課題解決に繋がっている.この「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」は,2014年度より5カ年の研究計画が日本国政府に建議され,これまでの観測研究を主体とする研究計画をより災害の軽減に結び付ける内容に軌道修正された.SP2009Rは,この軌道修正に対応する内容となっている.特に,SP2009Rの中で強調された「コミュニティモデル」の構築は,全国規模の地震火山観測研究を統合化する基盤として,地震研究所がリーダーシップをとって進めてゆくべき研究課題である.

地震研究所は,これらの全国規模の共同研究を企画・立案・実施してゆくことに加え,共同利用・共同研究拠点制度経費(約0.26億円)を効果的に用いることによって,萌芽的研究や新しい方向性をもつ研究を全国的な共同研究に発展させてゆくこと,さらに,以下に述べるように,研究者コミュニティ全体の発展に資する国際化・学際化に対して積極的に取り組んでゆく.

地震研究所では,これまでも「国際地震・火山研究推進室(国際室)」の予算(年間約0.3億円)等を活用した海外客員教員の招聘や国際研究集会の開催を通じて,研究者コミュニティの国際化の窓口の役割を果たしてきた.これらの国際的な研究交流は,日本全体の関連分野の研究レベルを世界のトップレベルに引き上げることに大きく貢献している.前述したように,東北地方太平洋沖地震以降,数百年に一度の低頻度地震・火山現象を理解するために,緊密な国際連携のもと世界中のプレート沈み込み帯を比較分類するなど,新たな学術体系を再構築することが喫緊の課題となっている.このことに対応して,現在,2つの方向で国際室機能強化を行う計画を進めつつある.第一に,地震・火山現象が集中するアジア・太平洋地域からの大学院留学生受入体制を強化する.これらの国々から留学生を多数受け入れ,地震・津波・火山噴火現象のメカニズムに関する教育を施し,それぞれの国で現在の日本と同レベルの観測体制を長期的に維持できる人材を育成することは,地球全体の観測研究の高度化に直結する.また,この人材育成は,各国の防災対策を推進する上でも大きな貢献となる.第二の方向性は,これまでの主に単年度の共同研究を目的とした外国人特任教員招聘制度を発展させて,同一教員を毎年定期的に招聘する.これによって,大学院生の継続的指導を含む,より充実した研究教育プログラムの実現が可能になり,本学大学院生の国際的研究レベル向上だけでなく,国内外大学院生・若手研究者間の交流を通じた地球科学分野全体の活性化が期待される.これらの機能強化によって,低頻度巨大災害をもたらす現象の一般的理解に向けて,短期的な共同観測研究プロジェクトを進めるだけでなく,大学附置研究所として,長期的国際的人材育成を視野に入れた研究・教育体制を整えてゆく予定である.

地震研究所では,共同利用・共同研究拠点という特質を活かして,理工学・計算科学・社会科学・歴史学と連携した学際的プロジェクトを進めるとともに,大型科研費などの外部資金(年間合計数億円から4億円)を用いて固体地球科学全体のレベルアップに繋がる共同研究を推進し,「未来に向けた潮流づくり」を進める.特に,新たな学術創成に繋がる分野に対しては,新たなセンターを設置するなど,集中的な投資と所全体からのバックアップを行う方針である.次に述べる「高エネルギー素粒子地球物理学研究センター」および「巨大地震津波災害予測研究センター」は,この「未来に向けた潮流づくり」の一環として設置されたものである.