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5-2.火山噴火予知

5-2-1.火山の構造とマグマ供給システムの研究

 これまでに,霧島,雲仙,磐梯,阿蘇火山などを対象に火山体構造探査が実施された.これらの調査でマグマや熱水に対応すると思われる異常領域が捉えられ,地震や火山性微動,熱消磁などの噴火の前兆現象の発生との関係が注目されるようになってきた(6-8 火山体構造探査参照).また,地震波がマグマ溜りやその近傍を通る際に波形が乱されることを利用して地下構造を調べる方法を開発し,伊豆大島火山のカルデラの地下約5 kmおよび8〜10 km付近にマグマ溜りと解釈される領域を捉えることができた(8-8 火山噴火予知研究推進センター参照).

5-2-2.火口近傍観測とカルデラボーリング

 構造調査で捉えられる異常領域が噴火の前兆の発生とどのように関係しているかを知るには,異常現象を精確に観測することが不可欠である.より精確なデータを安全に得るため,アルゴス衛星システムを利用して,火口周辺での噴気温度や地磁気の高密度観測を開始している.三宅島火山では,2000年8月29日の火砕流発生直後に南西山腹にプロトン磁力計を設置した(図1).停電や火山ガスにより多くの観測が中断する中,このシステムは順調に全磁力データを送りつづけている(7-3 三宅島噴火参照).

 伊豆大島火山のカルデラ内に掘削した深さ1 kmのボーリング孔内に地震計,水中マイクロフォン,水質計,温度計などを多点設置し,地表の観測点とあわせて3次元的な観測を1999年以来行っている(図2).これは世界でも初めての試みである.これによって,噴火前後に火口直下で発生する地震や微動の震源を精密に決定すると同時に,火道を上昇してきたマグマや火山ガスがもたらすさまざまな現象を解明することができる.また,掘削孔を用いた検層や採取した岩石資料の地質岩石学的な分析によって,カルデラの構造と成因,噴火活動史とマグマ供給のしくみについて新たな知見が得られた.

図1.三宅島火山でのアルゴス衛星システムを用いた全磁力観測

図2.伊豆大島火山カルデラ内総合観測井.


5-2-3.噴火の中長期予測の研究

 数十年おきに噴火する火山で,噴火と噴火の間に地下で起こっている現象が解析されつつある.伊豆大島火山では,1986年噴火以降も山頂カルデラおよび北山腹を横断する測線の長さがすべてほぼ一定の速度で伸びている(図3).これは地下でマグマの蓄積が進んでいるために起こると解釈される.また,2000年6月26日以来活動を開始した三宅島火山でも,噴火前にマグマの蓄積に伴う山体膨張が起こっていることがGPS観測によって捉えられた(7-3 三宅島噴火参照).

 噴火の古記録が残っている火山でも,これまでの噴火と異なり,それを上回る規模で起こることがある.このような場合や,噴火の古記録が存在しない火山においては,火山成長史を地質学的に解析することによって,噴火予測に役立てることができる.火山毎に長期にわたる一定の溶岩噴出率があることを利用して,雲仙普賢岳では,5年近く続いた噴火活動の溶岩の供給停止が判定された(図4).また,火山の発達段階や噴火様式の違いで,噴出する溶岩の組成に差が見い出されることもある.そのため,本格的噴火に先立って放出されたマグマ物質の特徴から,引き続く噴火の様式を予測する研究も行っている.
 
 

図3.伊豆大島火山のカルデラおよび北山腹を横断する測線の距離の変化.

図4.雲仙普賢岳における積算噴出量と噴出年令を示す階段図.



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