図1.システム構成図.
本観測システムの構成(図1)は,1)海底で連続して地震観測を行い収録する海底部,2)海底部と水中音響通信し陸上との衛星通信を行う係留ブイ部,3)これらの制御と観測記録の受信を行う陸上部,からなっている.海底部では,広帯域高精度3成分加速度計と圧力計の計測値が容量16GBのハードディスクに連続(100Hz, 24bit)で記録される.時刻は高精度の水晶発振器と係留ブイ部のGPSによる時間差測定により,必要充分な精度が確保される.海底部と係留ブイ部の間では電波が使えないため,水中音響通信による高速データ伝送(〜13200bps)を行う.係留ブイ部には陸上部と衛星通信するための船舶用NTT衛星電話装置及び時刻とブイの位置を知るためのGPS等を装備している.海上のブイは動揺が大きいため,信号追尾型アンテナを静止衛星の方向へ保持する専用の2軸ジンバル機構も組み込まれている.海底部・係留ブイ部ともに電源は大容量のリチウム電池で賄われる.陸上部との衛星データ通信は最高4800bpsの伝送速度がある.陸上部では,地震記録の受信だけでなく海底部・係留ブイ部のほぼ全ての設定を制御可能である.受信した地震記録は陸上観測ネットワークと併合し直ちに解析される.地震記録の信号はデータ量が多く,本システムの通信速度では完全なリアルタイム観測を行うことは電源容量の点からも困難である.そのため,通常は陸上部から指示した時間窓のデータのみを海底部にある連続記録から抜き出して受け取る仕組みとなっている.
試験観測は1998年12月に駿河湾北東部の江梨沖(水深100m)で実施した.この際は,陸上部の代わりに作業船上の衛星電話装置を利用し,係留ブイ部との通信を行った.本試験では,海中雑音の測定・音響通信出力の調整によって水中音響通信の能力を確認した.その結果,本システムは水深4000mまで実用的な信号対雑音比を確保可能であることが分かった.
2000年6月末に始まった三宅島噴火活動では,地震活動が新島・神津島近海へと海域に広がったため,多数の自己浮上型海底地震計による短期間繰り返し観測を実施したが,群発地震活動の推移をリアルタイムに把握するために本システムを8月に水深300mの地点に設置した(図2).島にある陸上観測点だけでは海域の震源域での震源の深さが正確に得られなかったが,この1観測点の地震記録が加わることで震源が浅く分布していることを準リアルタイムに把握できた(図3).この観測により,本システムの有用性を明確に示すことが出来た.
図2.新島沖に設置された本システム.
図3.本システムにより改良された震源分布と観測点配置図(右下).観測点は陸上が三角,本システムが星印.震源は丸(殆ど初期値の深さ)から三角の位置へ改良された.