4-6. 三宅島の噴火活動

 20008月までに山頂部の陥没を伴う噴火を引き起こした三宅島では,同年9月から多量の火山ガス放出し始め,その量を減少しながらも2003年初頭まで継続している.山頂陥没に平行して起こったと考えられる神津島方向への地下マグマの移動は818日に停止したものと考えられるが,それ以降も,地震活動は三宅島や神津近海では低くなりながらも発生し続けた.地震研究所では,噴火当初に連絡本部を設置して以来,全国の大学の研究者で総合観測班を組織し,噴火活動の推移を科学的視点で捉えるために,地震,地殻変動,電磁気,重力,地質などの連続観測に基づく研究を続けてきた.特に,20009月以降の全島避難中の観測継続には,東京都,気象庁,東京消防庁,警察,海上保安庁などの支援に依存するところが大きい.観測の成果の一部を地震研究所ホームページに公開し続けた.

 

地質観測 

 地質班では上空からヘリコプターによる火口観測を20009月以来連続的に行うと共に,地上の噴出物調査を実施してきた.それによると噴煙の量や勢いが時間と共に弱まり,陥没カルデラの中にある火口の底が見えるまでになってきた(図1).堆積物として後に残るような規模の噴火は2000年以降起こらなくなった.また,火口縁の崩落頻度も時間と共に少なくなってきた.堆積物調査からは,2000818日噴火で放出された玄武岩質岩塊が,高温で堆積したことが確認され,古地磁気学的にも裏付けられた.この結果,627日の海底噴火した安山岩と合わせて,2000年噴火では別々に存在していた組成の異なる2つのマグマが関与していたと考えられる.斜長石斑晶中のメルト包有物の分析結果からは玄武岩マグマと安山岩マグマとではもともと存在した硫黄濃度に違いがないこと,安山岩マグマには塩素濃度の異なるマグマの混合があったことが判明した.再計算された総噴出量は1500m3であり,山頂陥没量約6m32.5%に相当する.また,多くの噴火イベントの噴出物は多量の古い岩石の岩塊や 破片を60%以上含むマグマ水蒸気爆発であった(818日のみは約40%).粒度特性からは,これまでの三宅島で起きていた噴火の産物とは異なり,分散度の割に破砕度が大きいことが特徴である.これは地下の陥没に伴って,地下の熱水が噴火に関与しやすい環境が整ったためにマグマ水蒸気爆発が起こったためであると考えられる.

図1 北側から見た三宅島山頂カルデラ.多量の二酸化硫黄を含む火山ガスを放出する火口が奥に見える.カルデラは約1.6km径.20021016日吉本充宏撮影.

 

三宅島・神津島近海の地震活動の推移

 

 三宅島から始まった地震活動は,すぐに三宅島の北西海域に移動し,M6級の地震5 個を含む活発な活動が三宅島・神津島近海およびその周辺部で発生した.これらの地 震活動は海域で発生したため,自己浮上型の海底地震計とテレメータブイ方式の海底 地震計を設置して詳細な震源分布を求めた(図2,).その結果,震源は深部で薄い板状 の分布になっていることが明らかになった。さらに、その震源分布の移動や上昇が明 らかになり,地下のマグマの貫入や移動を示唆する重要な情報になっている.

 三宅島・神津島・新島・式根島での機動強震観測によって得られた減衰(Q1)トモグラフィもマグマの移動を示唆する減衰帯の存在を示す(図4).

 

 

2a.震央分布図(626日〜1231日)と主な地震のメカニズム解.

 

2b.震源の移動(626日〜930日).

 

350度回転して南西から見た深さ断面図(精度の良いものだけ).

 

4.強震データの解析による減衰トモグラフィ.

 

長周期地震波の発生源

 

 7月8日の山頂陥没に伴う噴火の後,同月11日ごろから長周期の地震波パルスが観測された.地震波パルスの発生は防災科学技術研究所の設置した傾斜計で観測された山上がりの傾斜ステップと完全に対応している.地震研究所が島内に設置した地震計の速度記録によると,振幅はパルス毎に異なるものの,パルス幅は4050秒とほぼ一定している(図5).発生頻度は,初めは1日に23回であったが,次第に12日に1度の発生となり,8月18日の噴火以降は発生していない.震源位置は山頂火口の南〜南西方向1km,深さは23km程度と推定されている.この地震波パルスの多くは,モーメントマグニチュードMwで5に達し,日本中の広帯域地震計で観測された.波形解析からは,107m3に達する体積膨張を伴うメカニズムが得られている.長周期パルスの震源モデルについては,直径数百m,長さ23kmのピストン状の岩塊が火道内を間欠的に滑り落ちていき,降下時にピストンがマグマ溜りに押し込まれることにより膨張パルスが発生するという「ピストン降下モデル」(図6)や,大量の地下水がマグマの熱で急激に加熱され膨張してパルスを発生させるという「地下水急膨張モデル」(図7)が提案されている.

5.長周期地震波パルス.最上段は三宅島内の広帯域地震計の記録,下2段は本州の広帯域地震計(防災科技研)の記録.

 

6.ピストン降下モデル:(1) マグマの流出によりマグマ溜り圧が徐々に下がるが,火道との摩擦で支えられてピストンは動かない.(2) 更なるマグマの流出で火道の摩擦がピストンを支えられなくなり,降下を開始.マグマ溜りへのピストンの突入に伴い,長周期地震波が発生する.

 

7.地下水急膨張モデル:(1) 高温部に向かって地下水が流入し,微小地震が多発する.(2) 急激に熱せられた水蒸気の圧力が一定値を超え山体が膨張し,長周期パルスを発生する.(3) 水蒸気が水に戻る過程で山体はゆっくり収縮する.

 

稠密GPS観測が捉えたマグマの活動

 

 三宅島では,地下浅部に上昇してくるマグマの動きを捉えるために,1995年からGPSによる観測が行われてきた.観測は毎年行われ,観測点は約45点に及ぶ.20006月に始まった一連の火山活動の期間中にもGPSによって地殻変動が観測された.626日に始まった群発地震活動前後の地殻変動からは(図8),山頂直下に存在していたマグマが三宅島中心部から海の方へ西北西方向に貫入していたことが推定された.山頂カルデラが形成されるとともに活発な噴火が観測された78日から8月末までは,地殻変動からは島全体が収縮すると同時に,貫入した開口割れ目がしぼむ様子がみられた.20009月に入り山頂火口から激しい火山性ガスの噴出が始まったが,地殻変動は山頂カルデラのやや南を中心としたほぼ等方的な収縮を示した(図9).特に,20009月から20011月までのデータ解析によれば,地殻変動源は山頂カルデラのやや南側で深さ約5kmにあり,体積収縮率は3.8x106m3/monthであった.マグマからガス成分が抜けた場合の体積収縮率と実際の火山性ガス放出量から推定されるマグマ溜まりの体積収縮率(2.5x1066.0x106m3/month)とほぼ一致することより,マグマ溜まり中のマグマの量に変化はなく,マグマ溜まりからガスとして抜けて山頂カルデラから放出された火山性ガス成分の量に対応してマグマ溜まりが縮んでいるというモデルが考えられている.

8. GPS測量から明らかにされた2000626日の群発地震発生前後の地殻変動.矢印は水平変動,色およびコンターは上下変動を表す.

 

9. GPS測量から明らかにされた20009月始めから20011月までの地殻変動.矢印は水平変動率(m/月),色およびコンターは上下変動率(m/月)を表す.

 

絶対重力連続観測

 

 20006月以降の三宅島火山活動については,活動開始から高頻度(10-30日に1度)で繰り返し測定を実施した.これまでに,活動開始直後に生じたマグマのダイク状の貫入,陥没直前に山頂直下に生成した空洞の発見,陥没期におけるマグマの水平流出の証拠など,驚くべき成果を続々と発見してきた.20015月以降,島内での商用電源供給が順次再開されたのを受けて,20017月より三宅島絶対重力計の連日観測を開始した.このような火山地域における連続運転は世界的に見ても例がない.観測自体は自動で行なわれているが,週に一度の割合でヘリコプターにより渡島して機材の点検調整をおこなっている.その結果,火映現象が観測された200111月中旬ごろにむけて,絶対重力値が緩やかに増加することが認められた(10).これを火口温度の上昇や二酸化硫黄放出量の急増と勘案すると,マグマ頭位の上昇を示すものとして注目される.2002年以降の漸増傾向は,水位の上昇によって説明できそうである.

 

10.三宅島測候所(島内北部)における絶対重力変化.単位はマイクロガル(1マイクロガルは,およそ10億分の1 cm/s**2)

 

火山を透視する電磁気観測

 

 三宅島においては,1995年以降,全磁力,自然電位,比抵抗の3種類の電磁気観測を,全国大学およびフランスLGO-OPGC,アメリカUSGSの研究者達と共同で実施してきた.その結果,2000年の三宅島噴火の機構を知る上で重要な多くの情報が得られた.たとえば,1996年7月頃から2年間,山頂カルデラの南縁直下700mあたりで,温度上昇が起こっていたことを示す全磁力変化が捉えられた(図11).また,2000年7月8日の水蒸気爆発に伴う最初の山頂陥没は,磁化消失領域(空洞)が,山頂の直下2kmあたりから次第に上昇して行ったこと,陥没そのものは,わずか4分間で完了したことが全磁力観測から確認された.7月8日以降に発生するようになった傾斜ステップに伴い,広帯域地震計の速度波形とそっくりな自然電位の変化が長基線電場に,また傾斜計(地震計変位)記録と同様な全磁力の段差状変化が,いずれも繰り返し観測された.このことは陥没に伴い,水蒸気あるいは水が膨張力源から周囲に,強制的に注入され拡散していることを強く示唆している.

 20009月以降,大量の火山ガス放出と泥流のため,電力,通信の確保が困難になったが,省電力の衛星通信テレメータにより全磁力観測を継続した.カルデラ直下の温度が20017月頃まで上昇し,20027月以降低下に転じたことなどを明らかにした(図12).現在は,気象庁と協力し,各6点の観測点を維持している.

11 三宅島火山の全磁力変化(199510月−20005月).柿岡(KAK)を基準とした単純差の5日平均.雄山(OYM)は山頂カルデラ内に,また大路池北(TRK)は雄山の南山腹に位置する.

 

12 三宅島山頂カルデラ南部における全磁力変化.20017月まで温度上昇が続いていたが,20027月以降温度は低下していると考えられる.

 

 

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