5-10. 島弧地殻の変形過程に関する総合的集中観測

 

 地震研究所は,全国の研究者との共同研究により,人工地震及び自然地震の合同観測・実験を行ってきた. 1950年に始まった大規模な人工地震による地下構造調査は,わが国の地球科学における大型共同研究の代表的なものとして知られており,当初から地震研究所がその世話役を務めてきた.

 内陸に発生する地震の発生機構を解明するには,プレート間相互作用による応力が島弧地殻にどのように蓄積して地殻を変形させ,さらにその地殻変形によって,どのようにして応力が特定の断層に集中して破壊に至るのかを解明しなければならない.地震研究所では,地殻内の不均質構造と地殻活動との関連性を明らかにする目的で,1997年から“島弧地殻の変形過程”を発足させた.このプロジェクトは,これまでに行われてきた屈折法地震探査,稠密自然地震観測の他に反射法地震探査を加え,これらを密接に連携させたものである.

 1997−1998年には東北日本で,大規模観測・実験を実施したこの探査により,日本海拡大に伴って著しく変形を受けた東北日本弧の詳細な地殻構造断面が明らかとなった.1999-2000年には,北海道日高地域を中心とした観測・実験を実施した(図1).この地域は,千島前弧と東北日本弧の衝突が進行している興味深い地域である.全長227kmの屈折法探査によれば,千島弧側には,西上がりの幾つかの広角反射面o及びほぼ水平或いはやや西傾斜の反射面が見られ,東北日本弧側の地殻が楔のような形状を示している.これは,衝突に伴う千島弧側地殻の剥離現象を直接的に示しているものと思われる.一方,日高山脈の西側の構造は極めて複雑で,低速度帯の存在が指摘されている.また,日高山脈東側で行われた反射法地震探査では,東傾斜の反射面が明瞭な形でイメージングされ,この探査領域の地殻の剥離過程は,日高衝突帯南端部に較べて複雑であることがわかってきた.

 2001-2002年は,海洋科学技術センターと共同で,東海地方及び西南日本を横断する大規模な屈折・広角反射法地震探査を実施した.東海地域及び四国域においては,沈み込むフィリピン海からの明瞭な反射波が観測され,プレート境界の構造と物性に関する知見が集積しつつある(ハイライト研究を参照のこと).更に,中国地方を中心とする西南日本においては,衛星テレメータ方式による大規模臨時地震観測アレーが展開された.この観測により,同地域の上部マントルまでの深部構造とともに,2000年鳥取県西部地震震源域を中心とする内陸地殻の不均質構造の研究が進展するであろう.

1. 1999-2000年北海道日高衝突帯の総合的集中観測

 

2. 屈折・広角反射法探査から求められた地殻構造断面.

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