5-9. GPSによる総合観測研究 

 

 プレートの変形を実測し,地殻の変形過程を追跡する手段として,GPS(全地球測位システム)は最有力の武器である.しかも,手軽に高精度の地殻変動計測ができるので,近年急速にその利用範囲が広まってきた.地震研究所地震予知研究推進センターには全国の大学の地殻変動研究者で組織する「GPS大学連合」の本部・事務局がおかれ,地震予知計画において本研究課題により各種の国内・国際共同研究の企画・調整・推進を行っている.研究活動は次の3項目が主たる内容である.1)日本を含む西太平洋周辺地域にGPS連続観測網を設置して日本周辺のプレート運動やプレート内変形の観測調査を実施し,日本列島へのひずみ蓄積の境界条件を明らかにする(本項目は海半球計画(4-3)参照)と共同で実施).2)日本列島内陸部の震源近傍や活断層近傍においてGPS稠密アレイ観測を実施し,地震の余効変動やすべり分布の解明を通じて地震の発生過程の研究を行う.3)移動体測位を応用した海底地殻変動観測や仮想基準点方式,あるいはGPS気象学プロジェクトへの参加を通じてGPS測位精度向上などの基礎的研究を推進する.こうした研究活動を推進するため各種シンポジウムや集会を開催している.

 また,最近では地理院の全国GPS連続観測網(GEONET)データに基づく各種逆解析手法などの数値シミュレーションを通じて地殻内応力の推定やスローイベントの解明を実施しつつある.図1はGEONETデータに新しい応力逆解析手法を適用して推定した日本列島の最近3年間の応力変化(最大ずり応力)である.この応力変化量から地殻の剛性不均質を知ることができ,地殻内地震の発生領域とのよい相関が明らかにされた.このように,GPS大学連合では本研究課題に基づき観測と解析の両面から地殻活動予測システムの構築を試みている.

1:GEONETデータに基づいて推定された日本列島の最大ずり応力変化率.

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