6-1) 地球流動破壊部門

本部門では,地震・火山に関連した現象を,地球内部の流動・破壊現象としてとらえる視点にたって,観測,実験,および理論的研究をおこなっている.最近の主な研究を紹介する.

 

部分溶融層内の液体の流れ

火山の深部やマントル最下部,中心核には固体と液体の混合状態である部分溶融層が拡がっている.この中の液体の動きはマグマの発生や内部構造,化学的分化プロセスを支配している重要な素過程である.砂の中を水が流れる現象と類似の「浸透流」が部分溶融層内の液体の動きとして従来から研究されてきたが,砂と異なり高温の部分溶融状態では固体層の変形しやすさが流れの特徴を決める重要な要因となっている.図1に示すように固体相が容易に変形する系では,均質な浸透流が固体相の変形によって短なタイムスケールで空間的に集中したチャンネル流へと変っていくことが明らかになった.チャンネル流の形成はマグマ発生を引き起こす固液分離を支配する重要な要因である.

 

1.柔らかなゲルと粘性流体の混合層(透明部分,液体の体積分率40%)に上部より重い液体(緑色部分)を注入後の様子.

初期には粒子間を浸透流として流れるが,固体相の変形・流動のために流れは中央部に集中し,チャンネル流が形成される.

 

 

固液複合系の力学的性質

岩石の流動・破壊現象や火山現象には,水やメルトなどの流体相が重要な役割を果たしている.地震波を用いた構造探査により,火山深部や地震発生域に存在する流体を検出しその状態を調べることができる.我々は固液複合系の力学的性質を理論および室内実験により研究し,地震波探査で得られる速度構造や減衰構造から地下に存在する流体の量や性質を推定する手法の開発を行なっている.本物の岩石を用いる溶融実験は千度C以上の高温を必要とする非常に難しい実験であるが,地球物質に良く似た性質を持つ有機物のアナログ物質を用いることで実験を簡単化することに成功し,弾性波速度や減衰,差応力下での流動特性などを調べる精度の良い実験を行なっている.

 

揮発性元素による惑星物質科学

 揮発性元素のひとつである希ガスは, 化学的に不活性なため物理的プロセスを探求するのに有用なトレーサーである. 地球および地球外物質中の希ガス濃度・同位体組成を質量分析計により測定し, マグマ活動における物質移動や熱史に関する制約,地表における浸食レートの推定, 小惑星や火星上での火成活動史や地球外物質の起源の解明,などの研究を進めている.また,K-Ar年代やPu-Xe年代を通して火山活動や惑星形成に関する年代学的研究も行っている.

 

長周期大気音波の検出

最近,我々を含めたいくつかのグループによって,大きな地震が起きていない期間においても地球が常に自由振動している事実が発見された.色々な地動の観測事実から,大気の対流活動が自由振動を励起していると考えられている.さらに常時地球自由振動の励起振幅を詳しく解析してみると,大気音波との共鳴周波数(周期270秒,230)で地球自由振動と超長周期大気音波とが音響共鳴を起こしている事が分かってきた.観測された共鳴振動は,長周期大気音波の存在を示唆しているが,直接の観測例はない.そこで長周期大気音波の検出を試みるために平成14年度,東京大学千葉演習林に微気圧計の十字アレーを設置し観測を始めた.その結果,しばしば周期50秒程度の音波が励起されている事が分かってきた.現在,より長周期の音波の検出を目指し観測を進めている.

 

2.設置した気圧計の写真

 

 

断層進展問題

断層進展挙動の支配メカニズム解明を目指して,物質内部での応力場を非接触・非破壊で計測する手法を開発中である.この手法を用いてモデル実験を行い,断層において不安定かつ三次元的に成長する破壊過程を解析する.現在までに計測データから応力場を得るための解析手法の開発を終え,高精度計測を行うための装置を開発中である.

 

破壊現象を再現・予測する数値シミュレーション

破壊現象の解析は,破壊=不連続性を扱うことが難しいため,既存の手法では限界があることが認識されている.従来の解析理論を改善し,物体をバネ−マス系で厳密にモデル化することで,破壊に伴う不連続性をバネの切断として簡単に扱える理論を構築した.バネ−マス系のモデルは既に提案されていたが,バネ定数の設定が経験的であり,あまり実用的ではなかった.構築された理論ではバネ定数を材料特性から厳密に決めることができる.現在,この理論に基づくシミュレーション手法を開発しつつあり,複雑な亀裂の進展を追えることが確認されている.

 

地震・火山活動予測と変動検出

地震および火山活動の経過を力学的な視点や確率過程としての視点から分析し,2000年伊豆諸島の地震の活動予測や鳥取県西部地震の余震頻度の予測を試みるなど,活動を予測する方法について検討している.また,必要に応じて時間差実体視法を利用した地殻変動検出にも努め,2000年有珠山噴火では,西側山麓における顕著な隆起をいち早く明らかにした.

 

地震発生の長期予測

同一震源域から同一タイプでほぼ同じ規模の大地震が,繰り返し発生している.繰り返し発生の規則性と不規則性とを定量化することによって,大地震の長期予測が可能となってきた.南海地震と東南海地震については,地震時のずれの量を様々な手法で推定し,時間予測モデルを適用することにより,次の地震の発生時の予測を試みた.


 

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