6-4) 地震火山災害部門

 

耐震工

 耐震工学の目的は,地震災害,特に構造物の被害,を防止または軽減することである.構造物や地盤の耐震設計,補修,補強技術等に応用するために,1)設計用地震動,2)地震時挙動,3)耐震性能評価,4)被災度判定,5)被害想定,等に関する理論的研究あるいは実用的研究を行っている.具体的な研究手法として,1)地震被害調査,2)強震記録の収集,3)実構造物の計測,4)動的破壊実験(図1,図2),5) 静的破壊実験,6)数理解析,7)物理・統計理論,等がある.

 

161/3スケール鉄筋コンクリート壁フレームピロティ構造の震動実験(20007).(a・左図) 加震前の6層ピロティ試験体,(b・下図) 最大入力Takatori 135 kine 相当に対する全体と1層の層間変形の応答.

 
  

 

      

22層偏心ピロティ構造の震動実験による鉄筋コンクリ−ト柱の軸崩壊過程の解明およびポリエステル補強(SRF補強)の性能確認(200111)

(a・左上図) 加震前の2層偏心ピロティ試験体.(b・上図) 同じ地震入力による鉄筋コンクリ−ト柱とSRF補強柱の損傷の比較. (c・左下図) RC()とSRF補強柱()の復元力特性の比較.

 

 

地震動の破壊力

 地震災害を減らすには,地震動および構造物に関する研究に加えて,その両者をむすびつけて,地震動の破壊力,即ち,どのような地震動が構造物に大きな被害をもたらすか,について検討しなければならない.地震動の破壊力,即ち,地震被害は,地震動と構造物の強さの相対関係によって決まるので,その両者を把握する必要がある.その成果の一部は,例えば,計測震度のような,地震動の破壊力を表現する指標として還元される.そのような指標は,1995年兵庫県南部地震の場合でもわかるように,どの位の被害が生じているかを迅速かつ正確に把握し,震災直後の素早い対応をするために不可欠なものである.しかしながら,そのような検討には,同じ構造物条件下で多くの強震記録が得られることが必要で,今までは充分な検討が難しかった.

 1999年台湾集集地震では,同じ構造物条件下で多くの強震記録が得られ,実際の被害の大きさも様々で,地震動の破壊力指標について実際の被害から検討することが初めて可能となった.実際の被害(周辺被災度)と既往の地震動の破壊力指標および,提案する1秒程度の弾性応答値の関係についてそれぞれ図34に示す.既往の地震動の破壊力の指標は,いずれも実際の被害との相関があまりよくない.これに対して,提案する1秒程度の弾性応答値は,実際の被害と相関がよく,地震動の破壊力指標として適していることが確認される.

 

3.地震動の破壊力指標と周辺被災度の関係

 

 

4.弾性応答(周期1秒(左)08秒(右),減衰5%)と周辺被災度の関係

 

 

強震動地震学

 強震動が生成される原因を探り,定量的評価に基づく強震動予測を実現することが地震防災・減災のための最も基礎的かつ重要な課題であり,具体的に以下の研究項目に取り組んでいる.

1)震源近傍での強震観測・強震記録の解析による震源スペクトル特性の把握:特に短周期地震動の発生源を把握し,強震動予測の精度向上を図る.

2)主として小地震記録をグリーン関数とした強震動シミュレーション:近年では1855年安政江戸地震の地震動再現と震源像の把握や1999年トルコ地震の震源域での地盤上での強震動の推定などに取り組んできた.

3)強震動のサイト特性による影響と構造物被害:ごく震源近傍でも建物被害が少なく,逆に遠方で大きな被害になった例が多い.地震基盤より上部の堆積層の物性(特にS波速度)や層厚に深く関係している.1999年トルコ地震の際の被害と地震動について検討を加えている.

4)サイト特性把握のためのS波速度構造の調査:地震動の増幅に最も影響を与えるのが地盤のS波速度構造であるが,やや深い構造までを他の手法より簡便に,少ない経費で調査できる微動のアレー観測手法の信頼性・適用性について検討を行っている.図5は反射法探査・音波検層結果と微動から求めた構造の比較であり,この構造を用いて地表の記録から基盤での観測(1300m)記録を推定し,実際の観測記録と比較してある(図6).

5)強震記録のデータベース:構造物の耐震安全性を検討するためには強震記録の活用が重要であり,蓄積されつつある強震記録のデータベース化に着手した.

 

5.反射法探査(左),ソニックログ(中),アレー微動観測(右)による構造調査結果の比較

 

6.微動による構造を用いて地表記録から基盤での地震動を求め,観測(1300m)と比較.求めた構造の妥当性を確認.

 

 

応用地震学

地震災害を軽減することが地震学の社会的使命とすれば,地震発生時の地震動を正確に予測することは地震学の最重要課題のひとつである.本研究室はこの課題に関係するあらゆる問題に取り組んでおり,最近の研究テーマは次の通りである.

1)地震動の源となる震源断層のモデル化と破壊過程の解明(兵庫県南部地震の震源過程の解析など.図7).

2)地震動に大きな影響を与えるリソスフェアや堆積層の構造解析(沈み込み帯における3次元レイトレーシングや人工地震データのトモグラフィー解析など).

31)の断層モデルや2)の3次元不均質構造における地震動のシミュレーション(阪神淡路大震災「震災の帯」のシミュレーションなど.図8).

71995年兵庫県南部地震の断層モデル(下)とそのすべり量分布(上).

 

81995年兵庫県南部地震による地震動の数値シミュレーション.上は最大速度の分布,下はその時間推移.

 

 

強震動シミュレーション

 強震観測網(K-NET KiK-net)が日本列島に約1520kmの間隔で高密度に展開されたことにより,現在では大地震時の地震波の伝播の様子を直接見ることが可能になった.2000年鳥取県西部地震(Mw66)では,521観測点で地動の3成分記録が得られており,これを時間−空間的に補間することにより地震波動伝播のスナップショットを作成することができた(図9左).これより震源から地震波が放射される様子や,西南日本を伝播する特徴をよく見ることができる.鳥取県西部地震は浅い横ずれ断層であったことから,やや長い周期(8-10s)のLove波が強く放射され,約27km/s程度の速度で西南日本を伝播したことがわかる.次に観測された地震動を再現するために数値シミュレーションを実施した.計算には西南日本の詳細な地下構造モデルと震源モデルを組み込み,8台のLinix PCを高速ネットワークで結合した並列計算により実施した.計算から求められた波動伝播の様子は,不均質な地下構造を伝わる地震動の性質をよく再現している(図9).計算波形記録も観測結果とよく一致する.このことから,大規模計算に基づく強震動シミュレーションは,将来発生が予想される地震の地震動の評価に目的に十分活用できると考えられる.

 

92000年鳥取県西部地震の地震動.

()高密度アレイ観測から求められた地震動

()数値シミュレーション結果.地震発生からT=10 30 60秒後の地動を比較する.

 

 

古津波の検証研究

海岸線のすぐ近くにある潟湖の湖底では,ふだんはゆっくりと周辺の斜面から流れてくる泥・粘土の堆積層が形成されているが,津波の時だけ外洋から海岸砂を含んだ海水が流入して薄い砂の層が形成されることがある.このような,潟湖で,湖底堆積層の鉛直ピストンコアを採集すれば,この湖に過去に流入した津波の歴史をたどることができる(図10).

 

10. 潟湖の湖底コアサンプル採取作業用筏.

 

 

 ここには,三重県尾鷲市須賀利浦の大池の湖底堆積層の例を示す.OIK00-2と名付けられたコアサンプルには,9層の津波に由来すると考えられる海岸砂堆積層が検出された(図11).各砂層に含まれる植物片や貝殻を用いてC14法によって年代を測定すると,上から3枚は,それぞれ西暦1297年頃,1023年頃,695年頃という年代を示した.2番目の層は平安時代の1096年の嘉保東海地震,3番目の層は,日本書紀に記された白鳳南海地震(684年)とペアをなす東海地震によるものかと推定される.一番下の層は,紀元前6世紀ごろ起きた東海地震の津波であると推定される.高知大学岡村研究室との共同研究として推進している.

 

11.紀伊半島の尾鷲市大池の湖底堆積物のコアサンプルの例.黄色で示した薄い層が,津波によって形成された外洋砂の層で,歴史時代,および先史時代の東海地震によって形成されたものと推定される.

 

 

史料地震学

 わが国には,古代から1400年にもわたる地震の記録がある.史料地震学分野では19世紀までの主として古文書に記された地震史料を調査・収集・解読し,史料集『新収日本地震史料』全5巻(含別巻)・補遺(含別巻)・続補遺(含別巻)全2116812頁の刊行を行ってきた.それらの史料によって,過去の地震像を明らかにし,長い年月にわたる地震の法則性を解明しようとしている.その成果は地震の長期予測・災害・防災研究に生かされている(図12).

 最近の研究では,地質学的痕跡から立証されている3世紀前の北米太平洋沖の「カスケード沈み込み帯」の巨大地震が,岩手県宮古市・大槌,茨城県那珂湊,静岡県美保,和歌山県田辺市にある古文書の元禄12128日の遠地津波の記録の解析によって,170012621時頃(現地時間)に起こり,地震の規模はM=9であることを解明した.

 

12.「田辺町大帳」(和歌山県田辺市立図書館蔵)と「田辺町大帳」の津波の記事

 

       

 


 

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