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2013年度 オープンキャンパス / 一般公開
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素粒子で地球を透視する
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田中宏幸 高エネルギー素粒子地球物理学研究センター教授 |
物体を透かして見る技術として,私たちに馴染が深いのは,レントゲン撮影である。X線の正体
は波長の短い光であるが、現在では,コンピューターを使った断層撮影(CT)の技術が発達し,
人体だけでなく,工業製品の内部の欠陥などもX線で撮影することが可能となっている。しかし,
X線の透過能力では,火山の内部を透かして見ることはできない。
人類が素粒子と深い係わり合いを持つようになったのは,X線の発見以降である。1930年ごろ
から宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子の観測実験が開始されたが,これらの中には驚くほど貫通
力の強いものがあり,宇宙線の測定実験は地下深くへと場所を移していった。観測深度が深くなる
につれて,粒子が地中に吸収されるようになるため,観測される粒子の数が減る。
しかし,地下100mになっても,ミュオンだけはあまり数が減らなかった。
X線の透過力をはるかに超える新プローブの発見である。
1950年代には,地下にミュオン検出装置を置いて,その上にある岩盤の厚みを調べる実験が行
なわれた。地下でとらえられるミュオンの数の違いにより,岩盤の内部構造を推定しようというの
である。また,ミュオンの透過性を利用して,エジプトのピラミッドの「レントゲン写真」
(ミュオグラフィ)撮影を試みたのがアメリカの物理学者ルイ・アルバレである。
1967年,アルバレのグループはピラミッド内部に検出器を設置して,
ピラミッドの透視画像を得ることを試みた。
21世紀に入り,計算機の処理速度は加速度的に向上している。また,日々進化するチップの矮
小化は検出器の省エネ性,ポータブル性を向上させてきた。これらの技術が支える高エネルギー素
粒子測定についても同様に進化している。
最近、次世代型の素粒子検出器技術を使うことによって、
ミュオンを使った火山の内部構造のレントゲン写真(ミュオグラフィ)を撮ることができるように
なってきた。
本講演会では,さまざまな火山から得られたミュオグラフを紹介する。ミュオグラフィではよく
ミュオンが透過してくるところ,すなわち物質密度が相対的に低い部分とミュオンがあまり透過し
てこないところで,すなわち密度が相対的に高い部分を色分けで示すことができる。それを火山学
的知見と組み合わせて、火山の内部診断を行う。まさに X 線レントゲン写真と解剖学的知見を組み
合わせて医学的診断を行うのと同じである。北海道にある有珠山の昭和新山ではマグマの通り道が
空洞ではなく,固結したマグマで満たされていることが分かった。一方、九州の南端から 50km ほ
ど離れた,薩摩硫黄島の硫黄岳で行なったミュオグラフィ観測実験では,昭和新山とは逆に,ミュ
オンがよく透過してくる低密度の部分がマグマである。これはマグマが火山ガスの泡を大量に含ん
でいるために,相対的に密度が低くなるからである。硫黄島の観測ではマグマが浅い場所で大量の
火山ガスを放出している証拠を得ることに成功した。
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