ウェブサイト立ち上げ: 2010年1月13日
最終更新日: 2010年3月8日
2010年1月13日午前6時53分(日本時間,現地時間では12日16時53分),ハイチ南部でM7.0(USGS)の地震がありました.USGSによる震源速報では,北緯18.457度,西経72.533度,震源の深さは13kmとなっています.マグニチュードが大きく,震源が浅い地殻内の地震のため,大きな被害が出ています.
この地震についての情報を随時お知らせいたします.(アウトリーチ推進室)
【更新情報】
- 「遠地実体波による震源過程インバージョン」を追加.(2月1日)
- 「この地域の歴史地震」を追加.(1月21日)
- 「テクトニクス背景」の図を差し替え.(1月17日)
- 「Wフェーズによる震源メカニズム解析結果」を掲載.(1月15日)
- 「よくあるご質問」を掲載.(1月13日)
- 「テクトニクス背景」を掲載.(1月13日)
- リンクへ
【よくあるご質問】
- このあたりでは地震はよく起きるのですか?
- はい.カリブ海の周辺には地震が起きる「プレート境界」があります.
- 今回の地震はどのプレートとどのプレートの境界付近で起きたのでしょうか?
- 「北米プレート」(北側)と「カリブプレート」(南側)になります.
- プレート境界地震ですか?地殻内地震(いわゆる直下型地震)ですか?
- 地殻内地震と言えます.北米プレートとのプレート境界となっている沈み込み帯の断層とは別の,南側(内陸側)に位置するEnriquillo断層で起きた地震になります.
- 何型の地震(メカニズム)と言えますか?
- 横ずれタイプの地震です.左横ずれのメカニズムをもつ地震でした.
- (横ずれ以外には,2種類の縦ずれ;逆断層型と正断層型とがあります.)
- 過去にここで起きた地震はありますか?
- 同じEnriquillo断層では,1751年と1770年に地震があったといわれています.ここ数十年は被害の出るような地震はなかったようです.
- 現地の揺れはどれほどのものだったのでしょうか?
- 阪神・淡路大震災を想像していただければと思います.震源の深さが浅いこと,マグニチュード7.0前後(Global CMT Projectによれば7.1,兵庫県南部地震は6.9)であること,横ずれのメカニズムであること,地殻内(いわゆる直下型)の地震であること,そして都市部を襲ったことを考えると,阪神・淡路大震災を引き起こした1995年兵庫県南部地震と比較することができます.
- 今回の地震はエンリキロ断層の全長に渡って起きたのですか?
- 一部だけです.エンリキロ断層は前長およそ250kmの横ずれ断層ですが,今回はその東端の40kmで破壊が生じました.地震を起こした断層のことを「震源断層」と言います.
【テクトニクス背景】
今回の地震はカリブプレートと北米プレートとの境界付近で発生した.北米プレートはカリブプレートの下に,西南西の方向に沈み込んでいる(20mm/年).(あるいは,カリブプレートは北米プレートに,年間20mmの速度で東北東方向に乗り上げている.)

P. BirdによるPB2002モデルより.(Bird, P. (2003) An updated digital model of plate boundaries, Geochemistry Geophysics Geosystems, 4(3), 1027, doi:10.1029/2001GC000252).赤で囲った部分の拡大図が下図.
Manaker et al., 2008 によると,北米プレートとカリブプレートとの境界となっている断層の南側(内陸側)にあるHispaniola島には,北側にSeptentrional断層,南側にEnriquillo断層がそれぞれ東西に走っている(下図参照).いずれも横ずれ断層である.過去には,1751年,1770年にこの断層で地震が起きており,それ以降ひずみがたまっていると言及されている.
今回の地震は南側のEnriquillo断層(移動速度8mm/年)で起きた,左横ずれのメカニズムを持つ地震と考えられる.
この地震により,隣国のドミニカ共和国の首都,サント・ドミンゴで12cmの津波が観測された.
参考文献
- Manaker, D.M. et al., 2008. Interseismic Plate coupling and strain partitioning in the Northeastern Caribbean, Geophys. J. Int., 174, 889–903.
【遠地実体波による震源過程インバージョン】
January 12, 2010 Haiti Earthquake
【Wフェーズによる震源メカニズム解析結果】
(詳細は図をクリックしてください.PDFで表示されます.)
- Mw(モーメントマグニチュード): 7.06
- 断層パラメータ: 走向 246.6,傾き: 62.6,すべり角 10.8
(地震火山災害部門 横田裕輔氏による)
【この地域の歴史地震】
ハイチにおける18世紀以降の地震について,Scherer (1911)は当時の人々による手記などを元に,”Great Earthquakes in the Island of Haiti” としてまとめている.これを元に,Kelleher et al, (1973) は震源域を推定した(下図).
これによると,Enriquillo断層においては,1751年,1770年,1860年に被害地震が起きている.
Enriquillo断層から西へジャマイカまで続くPlantain Garden断層で起きた1907年の地震と併せて,震源が西へ移動していく,と考察している文献(Mann et al., 1984)もあるが詳細は定かではない.
2010年1月20日20時4分ごろ(日本時間,現地時間では20日午前6時4分ごろ)にM5.9(USGSによる)の地震が,13日の地震の震源の西側で発生したが,震源メカニズムが横ずれ型ではなく逆断層型であることなど,今回の地震との関連については調査の必要がある.
参考文献
- Scherer, J., Great earthquakes in the island of Haiti, Bull. Seismol. Soc. Amer., 2, 161, 1912
- Kellerher, J., L. Sykes, and J. Oliver, Possible Criteria for Predicting Earthquake Locations and Their Application to Major Plate Boundaries of the Pacific and the Caribbean, Journal of Geophysical Research, 78, 2547-2585
- Mann, P., K. Burke, and T. Matumoto, Neotectonics of Hispaniola: Plate motion, sedimentation, and seismicity at a restraining bend, Earth Planet. Sci. Lett., 70, 311 – 324, 1984.
【リンク】
- USGS; “M 7.0 Haiti Region”
- 名古屋大学 山中准教授による解析
- 建築研究所 国際地震工学センター
- 日本地震学会 災害調査委員会 ”2010年1月12日 ハイチ共和国の地震に関する情報 ”
- IRIS Teachable Moments
- 筑波大学 八木准教授による解析
- 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
- 国土地理院
2010年1月12日ハイチ共和国の地震に伴う地殻変動 「合成開口レーダー(SAR)解析による地殻変動と断層」
- 衛星測地データによる解析 Supersites
- The MW 7.0 Haiti earthquake of January 12, 2010;