2010年10月 インドネシア・ムンタワイ諸島の地震

ウェブサイト立ち上げ:2010年11月5日
ウェブサイト更新:2010年11月10日

2010年10月25日,午後11時42分(現地時刻では午後9時42分),インドネシアのスマトラ島西部にあるムンタワイ諸島でマグニチュード7.7の地震が発生しました(USGSによる).翌日になって,特に津波による被害が甚大であったことがわかり,11月5日現在,少なくとも449名の死者が確認されています(CNNによる).


更新情報


基本的な情報(USGS,Global CMT Projectによる)

  • 地震発生日時:2010年10月25日 23時42分(日本時間,現地時間では同日午後9時42分)
  • 震源の位置:南緯3.48°,東経100.11°,深さ21km
  • マグニチュード:7.8(モーメントマグニチュード Mw
  • 地震のタイプ:プレート境界地震(逆断層型),津波地震か?(津波地震とは参照)
  • 関連するプレート:オーストラリアプレート・ユーラシアプレート

W-phaseによる震源メカニズム

  • 震源の位置: 南緯3.66°,東経99.98°,深さ20km
  • マグニチュード: Mw7.7

USGSによるW-phase解の周辺を緯度経度0.1度ずつ±0.5度まで,深さ1kmずつで±10kmまで,グリッドサーチして求めた.傾きが非常に浅い(8°程度)の低角逆断層と考えられる.

W-phaseによる震源メカニズム.左はグリッドサーチで求めた解,右はUSGSの発表によるW-phase解.

災害科学系部門 博士課程1年 横田裕輔による


震源過程インバージョン

IRISの遠地P波データを利用し,Kikuchi and Kanamori (1991)の方法で解析した.東経100°,南緯-3.2°,深さ18kmに求められた.また,断層の走向は311°,傾斜角5°,すべり角89°となった(下図左).またP波データをインバージョンすることで震源過程を求めたところ,断層破壊は破壊開始点★から進展し,最大すべり量が1.3mとなった(下図右).また,破壊伝播速度は2.0km/sと遅めに求まり,津波地震だった可能性が示唆される.

災害科学系部門 博士課程1年 横田裕輔氏,修士課程1年 川添安之氏による

有限断層モデルによるインバージョン結果(すべり分布)

P波解析による震源メカニズム


背景にあるテクトニクス

インドネシアの主部であるス マトラ島,ジャワ島は南からオーストラリアプレートが沈み込んでおり,日本とよく似たテクトニックな 背景を持っています(図1).

プレートテクトニクス

図1:世界のプレート分布図.『謎解き地震学 No.1』参照.(../../charade/platetectonics/)

島弧の形状からスマトラ島では海溝に対して斜め沈み込みになっており,ジャワ島ではほぼ直交方向に沈み込んでいます.また, スマトラ島にはスマトラ断層と呼ばれる巨大な活断層が走っているほか,両島には火山も多数存在します.2004年12月26日にはスマトラ島北部からアン ダマン諸島にかけての領域でM9を超える巨大な地震が発生,インド洋周辺に大きな津波を引き起こし,インド洋周辺諸国で20万人を超える犠牲者を出しまし た.その後,スマトラ島を中心とする地域では地殻活動が活発になり,2005年3月ニアス島地震,2006年7月パンガンダラン地震,2007年9月ベン クル地震など海溝沿いの巨大地震がつづけて発生したほか,2006年5月に6000人以上の犠牲者を出したジョクジャカルタ近傍の地震などの内陸地震も起きています(図2,3).現在はジャワ島中部のメラピ火山でも活発な噴火活動が続いており,11月5日現在,71,000名以上が避難をしており,113名の死者が確認されています.

図2: インドネシアとその周辺の大地震と活火山の分布

図3:インドネシア周辺の震源分布.1973年から2010年10月までののPDE震源カタログを使用した.(クリックで拡大)

下 の図4はインドネシアとその周辺で1991年から2001年にかけて実施されたGPS観測の結果です(Bock et al., 2003).この図をみて気がつくことは,スマトラ島とジャワ島では変位の方向がかなり異なることです.スマトラ島の南西部は沈み込むオーストラリアプ レートの影響を受けて北東方向に変位していますが,ジャワ島では変位はプレートの沈み込みの影響が見られず,東向きに変位しています.このことはジャワ島 では沈み込むプレートが陸側プレートに強く固着していないことを示唆します.実際,ジャワ島南方沖では1994年や2006年に,地震のマグニチュードか ら想定されるよりも大きな津波が発生する,いわゆる津波地震が発生しています.今回はスマトラ島西部での地震ですが,この津波地震だったのではないか,と 検討され始めています.

ジャワ島の東向きの動きは北方のボルネオ島やマレーシア半島からスマトラ島 北東沿岸などでも同様に見られ,安定した剛体的運動を示しています.図には示されていませんがインドシナ半島も同様の動きを示しています.このことから, この地域はスンダブロックなどとも呼ばれています.

図4: インドネシアとその周辺のGPS変位速度場(ITRF2000準拠)(Bock et al., JGR, 2003)

広報アウトリーチ室による


津波地震とは

津波は,特に震源が浅く海底で起きた地震のときに,断層のずれのために海底が大きく変形することで発生する.海底での変形によって,海水が大きく持ち上げられたり沈降したりするためである.このような海水の変動は,海底のゆっくりした動きに反応しやすいので,ゆっくりとずれる地震で発生しやすい.断層のずれがゆっくりと起きれば,放射される地震波には短波長成分が長波長成分よりずっと少なくなる.したがって,このような地震が海底直下で起これば,体に感じる揺れはあまり大きくないが,津波は想像以上に大きいということになる.このような津波を起こす地震を津波地震という.日本では,1896年(明治29年)6月15日に起きた明治三陸地震が有名で,推定される地震動(地震による揺れ)は震度2か3程度だったが,津波は史上最大級のものとなり,大船渡市では38mを越えたほか,三陸海岸のいくつもの集落が全滅した.他にも,1992年ニカラグア地震,2006年インドネシア・ジャワ東南方沖地震などがある.(『地震・津波と火山の事典』より)

今回のムンタワイ諸島の地震はこの津波地震であった可能性が,インドネシアJICA専門家・北海道大学名誉教授の笠原稔先生によって指摘されている.

広報アウトリーチ室による


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