2018年インドネシア・クラカタウ火山噴火・津波


updated on 15 January 2019

English version is here.



はじめに

 2018年12月22日(現地時間21時頃, UTC14時頃),インドネシア・ジャワ島とスマトラ島に挟まれるスンダ海峡において津波が発生し,クラカタウに近い沿岸域において大きな災害が生じた。噴火活動を続けているアナク・クラカタウ島の南西側が大きく崩壊している様子が明らかになったことから,津波はこの火山島の山体崩壊に伴い発生したと考えられている(PVMBG*1)。
 アナク・クラカタウ島では現在も噴火活動が続いており,その推移が注目される中,今回の崩壊イベントにおける崩壊量や崩壊プロセス,沿岸への津波の伝搬過程,さらにこれらと噴火活動との関係は,日本国内の類似事例の理解を進めるためにも早急に解明する必要があろう。そこで,アナク・クラカタウ島の崩壊と周辺への津波伝搬のシミュレーションを行ったので,その暫定的な結果について報告する。アナク・クラカタウ島は,1883年の巨大噴火で形成されたクラカタウ・カルデラの北東縁に成長した新しい火山島である(Figs. 1, 2)。 崩壊前は,東西2.1 km,南北2.3 kmの大きさで,標高300 mを超える中央火砕丘と山麓にかけて広がる溶岩流からなる島であった(Fig. 3)。山体南西斜面は水深約270 mのカルデラ底まで続き,急峻な地形をなしていた。今回の崩壊はこの南西側で発生し,山頂を含む島の約半分が失われたと考えられる。

Fig.1. スンダ海峡とクラカタウ・カルデラの位置図。(Maeno and Imamura, 2011のFig. 1を改変)

Fig.2. クラカタウ火山の崩壊前の地形。中央の島がアナク・クラカタウ島。

Fig. 3. 崩壊前のアナク・クラカタウ火山。東西2.1 km,南北2.3 km。中央火砕丘は標高300 mを超える。(左)東側より。背後にSertung島がわずかに見える。(右)北西側より。いずれも2014年9月撮影。


アナク・クラカタウ火山の崩壊・津波シミュレーション

 数値計算は,重力流(火砕流や岩屑なだれなど)が海に流入することにより発生する津波を対象として開発されてきた,非線形長波理論にもとづく二層流モデルの有限差分法にる解析手法*2, 3 に従い行った。 海底地形データは,Maeno and Imamura (2011)*2と同様で,ETOPO1および文献資料*4をもとに再構成したものを用いた。計算領域は広域では250 mグリッド,波源近傍ではその 1/3 のグリッドを用いて接続している。下記3通りの崩壊量(Table 1)について調べた。


Table 1 Initial condition of collapse
Volume (km3)
Case 10.16
Case 20.21
Case 30.26

重力流の底面摩擦係数については陸上域,水域ともに0.1,重力流―海水二層の界面抵抗係数は0.2とした。


[数値シミュレーション結果の例]

# Case 2(動画へのリンク)

# Case 3(動画へのリンク)


[津波の最大波高分布]



Case 1。
Case 2。
Case 3。
Fig. 4. 津波の最大波高分布。どのケースでも波源近傍では最大20 m 以上に達するが,クラカタウから離れると急速に減衰する。しかしジャワ島西岸ではとくに南部での波高は高く,Case 3では地域によっては3 m以上の津波が到達する。また,スマトラ島でも,クラカタウ北方のKalianda付近で波高が高くなる。


[津波到達時間分布]

Fig. 5. 津波到達時間の分布。単位は分。大きな被害が出たジャワ島西岸Carita付近へは38分で到達する。


[ジャワ島西岸における津波の特徴]
Fig. 6a ジャワ島西岸Carita付近の出力波形。第1波のピークは約40分で到着する。最大で1 m を超える津波が複数回到達する。 Fig. 6b ジャワ島西岸Anjer付近の出力波形。第1波のピークは約36分で到着する。1 mに満たない津波が複数回到達する。
Fig. 6c ジャワ島西部 Prinsen Eiland付近の出力波形。第1波のピークは約29分で到着する。Case 3では波高 3.5 mを超える。 Fig. 6d スマトラ島東岸 Kalianda付近の出力波形。第1波は弱いが後続の波は,Case 2やCase 3では1.5 mを超える。


考察・まとめ

 PVMBGにより,検潮計が観測した津波到達時間と波高が報告されている。それによると,Bulakan(Caritaの12 km北)のJambu stationでは 21:27(local time)に第1波を1.4 mと記録している。第1波で1 mを超える津波を発生するためには,上記のCase 3かそれを上回る崩壊量が想定される。しかし,他の地点との整合性は良くない。例えば,Anjurの北東8 km Ciwandan にある Banten stationでは,21:40に第1波を0.27 mと記録しており,この地域の波高は Case 1や2で説明できそうである。シミュレーションでは,ジャワ島西岸南部では総じて波高が高くなる (Fig. 4)。これは給源での崩壊が南西向きであることと,海底地形の影響により,クラカタウ南側では主な津波の伝播方向が次第に南〜南東向きに変わっていくことによると考えられる。
 いまのところ崩壊量を厳密に決定することは難しいが,津波が山体崩壊のみに起因すると仮定した場合,少なくとも0.2 km3前後の規模の崩壊が起こったと考えるのが妥当であろう。Giachetti et al. (2012) は,アナク・クラカタウ火山の崩壊を想定し,今回と同様のシミュレーションを行っている。彼らは崩壊量を0.28 km3と仮定し,Caritaでの波高を約3 mと推定している。
 一方,Bulakanやその他の場所での津波到達時間をもとにすると,20:50-21:00頃(local time)に津波発生イベントが起きたと推定されるが,詳細な発生時刻の推定には,沿岸での津波波高の正確な把握と崩壊モデルの妥当性についての検討が必要である。
 ひまわり8号による赤外画像からは,20:50頃から比較的規模の大きな噴煙が,アナク・クラカタウ島から生じたことを把握できる。島の崩壊と噴火開始との関係については,今後より詳しい調査,解析が必要である。



参考文献
*1 Pusat Vulkanologi dan Mitigasi Bencana Geologi
*2 Maeno, F. and Imaumra, F. (2011) Tsunami generation by a rapid entrance of a pyroclastic flow into the sea during the 1883 Krakatau eruption, Indonesia. Journal of Geophysical Research, 116, B09205, doi:10.1029/2011JB008253.
*3 Kawamata, K., Takaoka, K., Ban, K., Imamura, F., Yamaki, S and Kobayashi, E. (2005) Model of tsunami generation by collapse of volcanic eruption: the 1741 Oshima-Oshima tsunami. In Tsunamis: cases studies and recent development (Satake, K., ed.), Springer, p79-96.
*4 Sigurdsson et al. (1991) Pyroclastic flows of the 1883 Krakatau eruption, Eos Trans, AGU, 72(36), 377-392.
*5 Giachetti et al. (2012) Tsunami hazard related to a flank collapse of Anak Krakatau Volcano, Sunda Strait, Indonesia. Geological Society, London, Special Publications, 361, 79-90.