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第2章 「定常的な広域地殻活動」研究計画
1. はじめに 地震発生の全過程を理解するには,地震発生の場の性質を解明し,地殻内への応力の蓄積・再配分過程を明らかにしなければならない.このような認識に立ち,「地震予知のための新たな観測研究計画」では,「地震発生に至る地殻活動の解明のための観測研究の推進」の主要な項目の一つとして「定常的な広域地殻活動」を掲げ,研究の指針が示されている. 「定常的な広域地殻活動」計画推進部会では,この建議の指針に準じて以下の3つの主要課題を設定した. (1)プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究 (2)プレート内部の地殻活動及び構造不均質に関する研究 (3)地震発生の繰り返しの規則性と複雑性に関する研究 この中で(1)及び(2)は,地震発生場の空間的な非一様性に焦点をあてたものである.即ち(1)は,海域におけるプレート間カップリングの解明の上で必須のものであり,(2)は特にプレート内(陸域)における応力・歪の蓄積過程を理解する上で重要な地殻内不均質構造を解明し,地殻の動的特性を反映している地殻活動との関連性を研究するものである.一方,(3)の課題は,時間軸を導入して地震活動の規則性,或いは定常運動からのずれ等に焦点をあてたものである. 地殻及び上部マントルには,様々なスケールの構造不均質性があり,この階層的な不均質性が地殻内への応力蓄積過程や地殻活動を支配する重要な要因である.従って,建議で求められている「構造不均質」の研究は,島弧スケール(数10-数100 km)における場の性質を解明し,地殻活動予測モデル構築のための基本情報を提供するともに,地震発生のメカニズムや島弧の変形(地殻のダイナミクス)解明のために,地殻スケール(数100m-数10km)の構造とその不均質性及び動的特性を明らかにすることである.この中で,地殻スケールは,「準備過程における地殻活動」の研究対象でもあるが,構造不均質性の階層構造は明確に分離できるものではなく,各プロジェクトが密接な連携のもとで実施されるべきである.したがって,「定常的な広域地殻活動」の研究としては,数100m-数100kmまでの波長の構造の空間的変化の解明を目指すものとした. 島弧スケールの構造不均質については,海域・及び陸域の共同探査が不可欠である.海洋科学技術センターは,プレート沈み込み領域の上部マントルまでの構造解明を精力的に推進している.大スケールの構造研究に関しては,このような関係機関とも密接な連携をとって進めていくべきであろう. 以下に報告する平成11年度成果は2つの分類される.即ち,2節で述べる平成10年度以前から実施され平成11年度にも継続して行われたデータ処理や解析等の研究と,3節で述べる平成11年度から観測・調査が実施された研究である.前者としては,平成9-10年度に行われた東北日本弧の総合調査を重点的に取り上げた.「地震予知のための新たな観測研究計画」の実施以前にすでに研究の取り組み方について活発な議論がなされ,この総合実験は,本観測研究計画とほぼ同様の問題意識と研究体制で行われたものである.特に,東北日本弧という“共通”のフィールドを設定し,様々な観測・調査から多面的にこの島弧の構造と地殻活動の解明を目指したことが,大きな特徴である. 2.平成11年度におけるデータ解析により重要な成果が得られた研究 2-1 東北日本弧及びその周辺海域における総合的観測研究 平成8-10年度には,東北日本弧及びその周辺海域において,幾つかの大規模な観測・実験が実施された(長谷川・平田,1999,図1).これらの実験は, ・日本海溝-東北日本弧-日本海からなる沈み込み帯の大局的な構造及びその変化, ・日本海溝及び陸側斜面下の不均質構造とプレート間カップリング, ・東北日本弧脊梁部における詳細な地震活動, ・東北日本弧脊梁部の深部活断層系のマッピング, ・日本海東縁の地殻構造(特に日本海生成に伴う構造的改変), ・GPS観測に基づく東北日本弧の変動場の解明 等を明らかにし,東北日本弧の地殻変形過程の解明を目指すものであった. この調査・観測の大きな特徴は,主要な観測・実験が密接な連携のもとに行われたことである.特に平成7年度には,日本海溝から東北日本弧を経て日本海東縁までの屈折法地震探査が行われ,これまでの男鹿-気仙沼における島弧断面(Yoshii
and Asano, 1972)に代わる新しい断面を提出することを目指した. 2-1-1 三陸沖のプレート境界の構造 三陸沖においては,平成8年度に,プレート沈み込みの様子のイメージングと地震活動度の地域差と地震活動を支配するプレート境界の物理化学的性質との関係を明らかにすることを目的として,東大地震研,東北大理,東大海洋研,千葉大が共同で,海底地震計と制御震源を使った地震探査観測を行った(図2).観測では東西方向の沈み込みの様子をイメージングするために東西測線と,南北方向の地震活動度と内部構造の関連性を解明するために南北測線を設定した.南北測線に対する速度構造を図3に示す.構造の両端では解像度が低いが,速度値はモホ面を越えてマントル上部まで高い解像度で求められた.その結果,海洋性地殻(プレート境界面からモホ面まで)の厚さが9kmと非常に厚くなっていること,プレート境界面やモホ面が北側ほど浅くなっていることなどが明らかになった(藤江他,1999;藤江,2000;藤江他,2000). 図4は39゜N付近を通る測線にそった速度構造断面である.図3の速度構造断面とは観測点7で交差している(図2).沈み込む海洋性地殻の厚さが9kmと非常に厚い.三陸沖における東西方向の構造解析結果から海洋性プレートの沈み込み角度は,143度30分付近を境に急激に大きくなっている.つまり,南北測線付近はプレートが折れ曲がっている位置に近い.従って,その影響でプレートのバックリング,たわみなどの現象により厚くなっている可能性が考えられる. プレート境界面付近から明瞭な反射波が観測されており,地震活動度が低い場所からは強い反射波が返ってくるという傾向が見られる(図5).振幅計算によれば,海洋性プレートの上面には部分的に数百メートル程度の非常に薄くて遅い(3〜4km/s程度)層が存在していると考えられる.一般に速度の遅い層は軟らかいと考えられ,そのために応力が蓄積しにくく地震が少ないと考えれば,この仮説は地震活動度分布をもよく説明できる.この低速度層が何であるのかを,本研究のデータから確定的に語ることはできないが,一つの可能性として含水鉱物などの形で水が関係していることが考えられる.今回の結果は,強くカップリングしている領域(アスペリティ)とそうでない領域が反射探査から区別できる可能性を示している。この傾向が他の地域においても検証されれば,アスペリティの推定の上で重要な手段となりうる。 2-1-2 東北日本弧の不均質構造と地殻活動 平成9年度には,東北日本弧及び日本海東縁の構造の解明のため,海陸合同の大規模屈折法地震探査が行われた(岩崎他,1999).また,東北脊梁山地においては深部反射法地震探査が実施された.これは,脊梁山地の地震活動及び地形形成に重要な役割を果たしている北上低地帯西縁断層及び千屋断層の深部構造の解明とともに,屈折法地震探査では解明できない中部・下部地殻の不均質構造mappingを目的としている(平田他,1999b;
佐藤他,1999).また,これらの断層の最浅部においては浅層反射探査も行われ,断層帯全体の構造が明らかにされつつある(蔵下他,1999;
佐藤他,1999). 屈折法地震探査では,東北日本弧の東部(北上山地)と西部(北上低地帯以西)で浅部構造に著しい地域差があることが示された(図6).北上山地下では,構造が非常に単純で,上部地殻の速度は6km/sを越える.一方,西部では,厚さ1.5-4kmの第三紀堆積層が激しい変形を受けている.これは,日本海生成時の伸張応力場のもとでの地殻改変を示しているのであろう.また,上部地殻の速度は,5.7-5.9km/sであり,東部に比べて有意に遅い.これは,伸張応力場のもとでのcrack生成による速度低下或いは火成活動による温度場の上昇に起因するのであろう.一方,中部・深部地殻においては,速度が6.2-6.3km/sの層が測線全体に存在すること,下部地殻の速度が,海域のショットから精度よく6.6km/sと求められたことが特徴として挙げられる.測線東部においては,下部地殻が反射的である(reflective
lower crust).このような下部地殻反射群は,脊梁山地下でも確認できるが,それより西側では明瞭ではない.モホ面の深さは,北上低地帯下で32-35kmであり,東西に向かって浅くなる. 東北日本弧では脊梁山地を境にして東部と西部で,GPS観測による変位速度が著しく異なっている(例えば,国土地理院,1999).この変位速度の違いは沈み込むプレートの引きずりだけでは説明が難しく,脊梁付近の不均質構造に起因していると考えられる.そしてそれは速度構造(弾性定数)の差だけでは説明できず,おそらくは,レオロジーや滑り面の動的特性の違いを反映している可能性が高いため,モデリングを含んだ総合的な研究を行うことが必要不可欠である. 一方,地殻スケールの不均質構造については,東北脊梁山地の両側の断層系深部のmappingに成功し,V字形の断層面の鮮明な像を得ることができた(図7).特に千屋断層は,東方向に徐々に緩傾斜となり,反射的下部地殻上面付近でほぼ水平となる.この深さは地震発生層の下限とほぼ一致しており,所謂デタッチメントを形成している可能性がある.また,稠密自然地震観測によれば,脊梁部及びその周辺には多数のS波反射体が確認された(浅野他,1999;
堀他1999).反射法記録の振幅の解析によれば,千屋断層面に対応する部分は,厚さが1km以下で速度5-5.5km/s程度の低速度体となっているらしい(図7).自然地震によるトモグラフィの結果でも,ほぼ同じ場所に,低速度体が求められている(平田他,1999a,図8).更に,電磁気学的探査によれば,千屋断層に沿って低比抵抗体が分布していることが判明した(1998年電磁気共同観測MTデータ整理委員会他1999).これは,多面的な観測の大きな成果であり,これらの互いの独立の結果を総合的に解釈することによって,断層帯の物性について,重要な拘束条件を提供することができると考える. 2-1-3 日本海溝-東北日本弧-日本海の大局的な構造変化 この実験の構造探査データについては,統合的解析が進行中であり,特に東北日本弧から日本海東縁にかけては,水平方向の構造的変化がほぼ明らかになった.図9-10には,西坂他(1999)による日本海東縁部の構造を示した.また,図11には,これまでの解析結果に基づく,日本海溝から日本海東縁までの構造断面を示した.前節でも述べた様に,日本海の生成に伴う,島弧から日本海にかけての地殻の薄化も顕著に見られる.即ち,地殻の厚さは32-35kmであるのに対し,日本海の海岸下で27km,大和海盆では,17-18kmとなる.この地殻の薄化は,一様ではない.特に島弧側では,下部地殻は西に向かって一様な厚さで推移するのに対し,上部地殻の厚さは半減する.このような下部地殻の変形様式には,日本海生成にともなうある時期に,simple
shearモードの変形が関与した可能性がある.また,脊梁山地から東側での火成活動の影響も無視できないであろう. また,Pn波速度は,日本海下では8.0km/sあるのに対し,島弧下では,7.6-7.7
km/sである.このPn波速度の遷移領域は,日本海の海岸線近くに存在し,その幅は数10km程度であろう.今後さらに詳しく調べ,日本海東縁のプレート境界の性質を明らかにしていくことが,広域の応力場の生成原因を解明するうえで極めて重要である. 2-2 海底地震による伊豆・小笠原海域の観測研究(伊豆・小笠原の蛇紋岩の役割) 平成10年秋に伊豆・小笠原海溝,陸側斜面域において海底地震計と制御震源を用いた実験を行った(東京大学地震研究所[課題番号:0101],図12).南北測線はいくつかの海底谷を横切るようにし,東西測線はサーペンテインダイアピルの直上(観測点11)を通過するようにした.両測線ともにほぼ130kmの長さである.南北・東西各測線に12台の海底地震計を設置した(1台は南北・東西の交点).南北測線とも火薬,エアガンのショットを行った. 図13にこれまでに得られた東西測線の結果を示す.このモデルによると,低速度の物質がサーペンテインダイアピルの直下から西にシル状に存在し,徐々に厚みと速度を増してマントルウェッジにつながっているように見える.その最上部の速度は海溝軸から陸側へ約110kmのところで7.3km/sである.海洋性スラブの沈み込みの角度は海溝軸から陸側(西)へ約100kmまではきわめて低角(約3度)であるが,その後西側で急に沈み込みが急になり50°となる.図14は観測点11の観測波形(火薬発破)と速度構造から波線追跡して計算した走時を重ねたものである.観測点11は直上の観測点である.11の観測波形では西半分の反射・屈折波がよく見えていない.ダイアピルの東山麓に設置した観測点12でも西半分の反射・屈折波がよく見えていない.また図15は観測点1の記録であり,ダイアピルに相当する東端のところで地震波の減衰が激しい.他の観測点でも同じ現象が確認された.図10の速度構造ではサーペンテインダイアピル下の幅10kmの範囲で速度が周囲と異なっている.頂上では薄く遅い層,その下に上から3.3-3.8
km/s層,4.0-5.0km/s層,5.5-6.0km/s層があり,最下部には6.5km/s層がレンズ状に存在している(上村他,1999;上村他,2000;笠原他,1999).この結果はプレート境界付近でマントル物質が蛇紋岩化していることを示唆しており,伊豆小笠原海溝沿いでプレート境界型大地震が発生しない理由を構造探査から示した重要な成果である. 2-3 日本列島における電磁気学的構造研究 日本列島における電磁気学的構造研究は,全国規模の大学間の共同研究の形を取って,精力的に実施されてきた.これにより,列島規模の構造とともに,断層に代表される詳細な地殻内構造的不均質についての知見が集積しつつある. 2-3-1 ネットワークMT(Magnetotelluric)法(NMT)観測 1989年に最初のNMT観測が北海道中東部において行われて以来,1994-1998年度における第7次地震予知計画で日本全国的に観測が展開され地電位差データが蓄積された(図16).1999年度においてはネットワークMT解析ワーキンググループを組織し,時系列解析法の改善,応答関数決定の一次的解析,統一的なコンパイルの促進を図った.その作業は現在も継続中であるが,例えば東北日本において,地電位差の変動方向が磁場の変動方向にかかわらず海岸線に直交する傾向があり日本周辺の海陸分布・海底地形分布が観測量に多大な影響を及ぼしていること,島弧の走向に沿って周期103秒以上の長周期側で背弧側に位相の高まりが見られることなどが確認された(図17).高位相値は,深い方向に相対的に低比抵抗物質が存在することを示唆する.北海道東部における2次元解析(上嶋ほか,1992)から,この周期帯が100km程度以深のマントルウェッジ部分に感度があるとされていたので,さらに解析を進め,沈み込みに伴う温度構造,水の移動のモデリング結果や,地震波速度構造との比較(Iwamori
and Zhao, 2000)を行っていくことで,日本列島下にもたらされる大局的な水の移動に関して,制約が与えられるものと期待される. NMTの比抵抗構造モデリングに関しては,まず,従来の2次元解析(例えばUtada et al., 1996, Ogawa and Uchida, 1996)を適用して,順解析や逆解析が北海道東部,四国中国地方東部で行われた.このうち,北海道東部の解析では,WBMT観測結果とのジョイントインヴァージョンを行っている.この結果,北海道において火山フロントの背弧側,下部地殻内に10-40Ωmの顕著な低比抵抗層が認められた(佐藤ほか, 1999)のに対して,中国地方の背弧側の地殻は,大局的には1kΩm以上の高比抵抗であること(塩崎ほか, 1999)が示された.背弧側の下部地殻に存在する低比抵抗層は,1981,1982年にそれぞれ東北日本,中部日本で行われた電磁気共同観測の解析結果(Utada et al., 1996)においても見出されており,その有無とGPS観測から得られる表層変形速度との関連が議論されている(飯尾ほか, 2000).また,中国地方東部日本海沿岸部においては,モホ付近にくさび状に盛り上がる数10Ωmの低比抵抗領域が示され,鳥取地震(M=7.2)の地震断層である鹿野・吉岡断層を含む活発な地震活動帯との関連が示唆されている(塩崎ほか, 1999).一方,四国東部のNMT観測の2次元解析からは,沈み込むフィリピン海プレートが5k-15kΩmと高比抵抗であり,その上面に130Sのコンダクタンスを持った傾いた薄い低比抵抗層が検出された(Yamaguchi et al., 1999).この低比抵抗薄層は,スラブの上面に沿って水を含んだ岩石が沈み込む様子を表していると解釈され,前述の東北,中部地方における2次元断面においても同等のコンダクタンスを持つ層として検知されている(Utada et al., 1996). 以上のように,2次元解析からいくつかの興味深い構造が明らかになってきたが,先に述べたように観測量が日本周辺の海陸分布や大スケールの表層不均質の影響を受けて3次元性を示すことが示された.そこで,まず第一歩として昨年度から開発を進めてきた日本周辺の海陸分布のみを考慮した3次元フォーワードモデリング(上嶋,1999)によって,東日本においてコンパイルされた応答関数について海陸分布の影響が見積もられた.その結果,海陸モデルによって地電位差変動の異方的ふるまいは説明されたが,例えば,長周期における背弧側の高位相は説明できなかった(図17).位相のコントラストは,地下深部の比抵抗の不均質を示しているものと思われる. 2-3-2 広帯域MT法(WBMT)観測 平成10年度には,全国の大学,国立機関の研究者からなる地殻比抵抗研究グループによる電磁気共同観測により,千屋断層周辺域(横手盆地)から北上西縁断層周辺域(花巻)に至る東北地方脊梁山地を横切る測線上でWBMT観測が実施され(図18),千屋断層周辺域において自然電位(SP)分布調査が行われた(地殻比抵抗研究グループ,1999a;村上ほか,1999).観測終了後,電磁気共同観測MTデータ解析ワーキンググループを組織し,データのコンパイルや解析の促進を図ったが,その解析は1999年度にまたがって実施された.Ogawa and Uchida(1996)の2次元インヴァージョン手法を用いて,まずTMモード(電場が2次元走向に直交するモード)応答関数を用いた解析が行われ,千屋断層および北上西縁断層の破砕帯と思われる数-数10Ωmの傾いた低比抵抗異常がそれぞれ深度7-8km,5-6kmまで続いていること,測線中央部の上部下部地殻境界あたりの深度で下部地殻物質を示すと思われる100Ωm程度の低比抵抗層が盛り上がっていることなどが明らかとなった(1998年電磁気共同観測MTデータ整理委員会,1999a;地殻比抵抗研究グループ, 1999b).これらの構造は,上部地殻については反射法地震探査による構造とよい対応関係が見られ,下部地殻の盛り上がりに対応する部分には地震波散乱体が推定され,自然地震が上部地殻内の数100-1kΩmの高比抵抗部で起こっていて高比抵抗の下面(低比抵抗の上面)が地震発生層の底に対応するなど,活構造,地震発生域や地震波構造との間に密接な関連が見出された(1998年電磁気共同観測MTデータ整理委員会,1999b). 3. 平成11年度に実施された観測・調査に基づく研究 3-1プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究 3-1-1 研究の目的 「地震予知のための新たな観測研究計画」では,プレート境界域におけるカップリングの時空間的な非一様性が取り上げられており,この課題解明にむけて多くの提案が出された.「定常的な広域地殻活動」計画推進部会では,その最重要項目として,東北沖の太平洋プレートの沈み込みに関連する一連の研究を取り上げた.日本列島に沿ったプレートの沈み込みは,関東・東北・北海道地域の太平洋プレートと関東以西のフィリピン海プレートの沈み込みに代表される.日本海溝沿いの平均的なseismic couplingは数10%程度と見積もられており,ほぼ100%のcouplingである西南日本と著しい対照をなしている.また,プレート境界は幾つかのsegmentに分けられ,それぞれのsegmentでの地殻活動は,その場所の応力蓄積過程に支配されていると考える.東北沖のプレート沈み込みの特性を解明することは,東北日本弧周辺の変形や太平洋プレート境界地震発生の場の解明におおいに貢献するものである.より具体的には,震源過程が詳しく求まっている三陸はるか沖地震域においてプレート境界の形状と物性の関連を調べるための観測を行い,また震源過程と比べることによって,形状・物性と震源過程の関係を明らかにすることを最終の目標として掲げることとした. 3-1-2 三陸はるか沖地震域におけるプレート境界の形状・物性と震源過程の比較研究(東京大学地震研究所(共同研究)[課題番号:0101]他) 三陸はるか沖地震の震源域をモデル地域としてプレート境界面付近の地震学的性質(反射強度と地震波速度)を求めることを目的とし,平成11年10月24日〜11月4日三陸はるか沖震源を含む三陸沖の39°N〜41°15’N,142゜30’Eにおいて海底地震計17台と制御震源(火薬,エアガン)を用いた地震探査を行った(東京大学地震研究所[課題番号:0101],東北大学[課題番号:0501.1],図19).現在データのフォーマット変換,距離の計算など必要な処理を終わり2次元モデルを作成中であるが,確定的な結果をまだ得ていない.プレリミナリーな結果によれば,図20,21に見られるように,観測点8〜10(40゜Nのすぐ南側)で深さ15km程度からの強い反射波がある.これは陸のモホ面からのPmPと考えられる.また,この場所は,1968年十勝沖,1994年三陸はるか沖の余震活動が極めて低い場所に相当するが,反射波の場所がプレート境界と一致しそうにないことから,地震発生との関係は今後の課題である. 陸域観測については,釜石鉱山における観測システムの構築,改良がなされ,平成12年1月よりデータ収集が始まった(東北大学[課題番号:0501.2]).さらに,釜石沖における自然地震発生様式についての研究がなされ,あるクラスターで固有地震的活動のあることが判明し,この領域がクリープ域である可能性が高まった.また,広帯域地震計等を用いた新しい観測もはじめられており(弘前大学[課題番号:0401],東北大学[課題番号:0501.2〜5]],海域における研究と連携をとりながら総合的な解釈をはかるべきであろう. 3-1-3関連する研究成果 (a) フィリピン海プレートの沈み込み形態に関する観測研究 平成11年度に海洋科学技術センターは,四国沖の南海トラフ周辺海域において大規模な海底地震探査を行った.その測線の陸域への延長部(四国・中国地域)において,大学は,93点のofflineレコーダを展開し,西南日本の付加体の構造,沈み込むフィリピン海プレートの形状・物性を明らかにするための観測を行った(東京大学地震研究所[課題番号:0105],京都大学防災研究所[課題番号:0202]).制御震源として,海域ではエアガン,陸域ではダイナマイトを用いている.記録は非常に良好であり,地殻内の深さ9qに反射面が存在することがわかった.また,モホ面からの屈折波(Pn波)を捉えることができた.さらに,深さ20qにも反射面が見いだされた.この反射面は,海域の結果と比較することにより,沈み込むフィリピン海プレート上面に対応すると考えられる.また,高知大学では,海洋科学技術センターの「海底地震総合観測システム」と連携して,海域と陸域の自然地震データの統合処理を行いつつある(高知大学[課題番号:1302]).これにより,四国沖の地殻活動及び構造に関する新しい知見の得られることが期待される. (b) 九州・琉球域の地殻構造及び地殻活動に関する観測研究 西南日本西部から九州,琉球列島にかけては,九州大学,鹿児島大学による観測研究が進行しつつある(九州大学[課題番号:1101〜2],鹿児島大学[課題番号:1201]).東シナ海(男女海盆)では,20台の海底地震計を用いた構造探査が行われた(九州大学[課題番号:1101]).また,九州大学と鹿児島大学の微小地震観測網によるデータを用いて,九州列島下へ沈み込むフィリピン海プレートの形状と発震機構解が精度よく求められた(九州大学[課題番号:1102]).その結果,九州北部と南部でスラブの形状と火山フロントとの対応関係が異なっていること,40-80kmの深さでは,スラブ等深線に平行の圧縮が卓越する地震のあることがなど,今までに精査されていなかった九州弧における沈み込みの特徴が明らかにされつつある.トカラ列島—奄美大島域の震源分布を明らかにするため,奄美大島内の4点で臨時地震観測が行われた(鹿児島大学[課題番号:1201]).これにより,同海域の稍深発地震面の形状,地殻内地震の発生様式等に新たな知見が得られつつある. (c) 北海道北部地域におけるプレート境界に関する観測研究 プレート境界域推定に関する研究として,北海道大学が,GPS観測と地殻構造推定(北海道大学[課題番号:0302,0303])を行うとともに,北海道積丹沖の海底地震計による地殻構造調査を実施した(北海道大学[課題番号:0306]). 3-2 プレート内部の地殻活動・構造不均質に関する研究 3-2-1 研究の目的 この研究課題においては,プレート内(島弧内)の構造的不均質を解明し,地震活動・地殻変動等の地殻活動との関連性を明らかにすることを目的とする.ここで言う構造不均質解明とは,島弧スケールの構造,即ち島弧地殻の上部・下部地殻及びモホ面の大局的な構造の不均質性とともに,地殻スケール,即ち深部断層系や地殻内反射体など数km程度の波長までの不均質構造を明らかにすることを意味する.前者は,島弧—海溝系全体の構造を求めることによって,地殻活動モデリングに必要な場の情報を提供することを目的とする.また,後者の不均質構造は特に下部地殻内のレオロジーとも密接に関係し,地殻活動との関連性を明らかにすることによって,地殻の変形過程・応力蓄積過程に対して,重要な拘束条件を与えることを目指す.第7次地震予知計画までは,構造探査,高密度(臨時)微小地震観測,反射法地震探査,電磁気学的構造探査は,独立に行われてきた.しかし,上に述べた様に,数10kmから数kmまでのスケールの不均質構造を明らかにするには,単独の観測・実験手法では限界があり,幾つかの手法を有機的に組み合わせた総合的な実験・観測が必要である. 地震学的手法による構造研究と電磁気学的手法による構造研究は,相補的であり,特に後者は,特に水やメルト等の地殻内間隙流体の分布や物理的特性を明らかにする上で重要である.例えば,2-1節でのべた東北地方の探査のように,両方の手法を組み合わせることにより,断層近傍の物性に関する知見を深めることが可能である. 3-2-2 1999年北海道日高衝突帯大学合同地震観測ᬢ島弧地殻の変形過程と衝突帯テクトニクスの解明を目指してᬢ(東京大学地震研究所(共同研究)[課題番号:0105],北海道大学[課題番号:0301]他) 平成11年度に計画された日高衝突帯を中心とする北海道地域の観測・実験は,屈折法,反射法及び自然地震観測を密接な連携のもとに実施し,島弧・島弧衝突帯の構造不均質,特に日高山脈東側で進行している下部地殻の剥離現象の解明に焦点を当て,そこでの地震活動,応力状態を把握しようとするものであった.この観測・実験は,地震研究所の共同研究として一般研究者に参加の道を開いている.さらに各大学も予算を計上し,大学間の協力体制が確立されていた. 今回の観測実験は,屈折法地震探査,深部反射法地震探査,浅層反射法地震探査及び稠密自然地震観測を,密接な連携のもとに実施した(東京大学地震研究所[課題番号:0105],京都大学防災研究所[課題番号:0202],北海道大学[課題番号:0301],鳥取大学[課題番号:1001,1002],九州大学[課題番号:1103],図22).更に,日高沖には,北海道大学によって海底地震計も設置され,1982年浦河沖地震震源域を含むより広域の3次元的構造及び地震の発生様式の解明を目指した(北海道大学[課題番号:0305]).以下に,この総合観測を構成する重要項目の成果を概説する. (a) 屈折法地震探査 屈折法探査では,東北日本弧から日高山脈を経て千島前弧に至る全長227kmの測線上で行われた.この探査の目的は,衝突に伴う地殻の変形の大局的な様相を明らかにすることにある.この測線上には,297点の観測点が展開され,6発のshotが行われた.得られた記録によれば,日高山脈の両側では堆積層が厚く分布しており,初動走時が大きく乱れていることから,基盤が著しく変形しているものと思われる(図23).また,日高山脈の東側には,初動振幅に匹敵するような大振幅の後続波が確認された.これは,地殻内深部(深さ20-30km)からの広角反射波と考えられる.一方,日高山脈直下では,ほぼ6
km/sの速度の物質が地表近くまで達しており,おそらく千島弧側の中部・下部地殻に対応するものであろう. (b) 深部反射法地震探査 深部反射法地震探査は,日高山脈の東側の十勝平野で実施された.探査測線長は43km,チャンネル数は870でこれまで日本で行われた探査の中で最高となった.さらにこの測線に西側延長上にoffline型レコーダ61台を150m間隔に設置した.それぞれのレコーダには,50m間隔毎に設置した3ch分のデータを収録した.また,1998年には,この測線の西側において,日高山脈を挟むように2本の測線(長さ9km及び15km)で反射法地震探査が行われた(岩崎他,1999).これらの実験データを総合的にmappingすることで,日高山脈北部の地殻内の不均質構造に新たな知見が得られるものと期待される.これまでに得られた暫定的な処理結果によれば,十勝平野下では,西上がりと水平ないしは西下がりの2つ比較的明瞭な反射面が確認され,日高最南部で見られた地殻剥離と同様の現象が,本実験領域でも進行している可能性が強い(図24). (c) 浅層反射法地震探査 北海道中軸部から日本海東縁の地域では,北米ないしオホーツクプレートと,ユーラシアプレートの境界部に相当し,ほぼ東西方向の短縮変形が進行している.北海道中軸部における地質時間帯域にわたる地殻の短縮変形速度を明らかにすることは,プレート境界から要請される短縮変形が島弧地殻内でどのように蓄積されているかを理解する上で重要である.北海道における第四紀後半の地殻変動は,主として日高衝上断層帯前縁と背後側の十勝平野東縁にて顕著である.平成11年度には十勝平野東縁部に位置する 十勝平野活断層系について,浅層反射法地震探査を実施しその浅層部の構造を明らかにするとともに,変動地形調査を実施し第四紀後期における地殻変動について定量的な解析を行った(図25).その結果,十勝平野活断層系による水平短縮速度が明らかになりつつある. 浅層反射法地震探査は帯広市南部の途別川から猿別川に至る約7.7kmで実施した.その結果,測線西端部では東側が隆起する撓曲構造が明らかになった(図 26).地形的には「途別川断層」に対応するが,変動地形学的に推定された撓曲構造よりも地下で幅の広い撓曲構造をなしていることが明瞭になった.測線東部で再び東側に急激に上がる撓曲が存在する.これは「以平断層」に対応し,地下での撓曲と地表での変形域はほぼ一致する.既存のボーリング資料(岡,
1986)によれば,「途別川断層」にともなう平均上下変位速度は約0.06−0.10mm/yrと推定され,地形面から推定される平均上下変形速度0.1−0.3mm/yrと比較するとやや小さい.同様に「以平断層」での平均上下変位速度は0.02-0.03mm/yrとなる.今後,バランス断面法により総短縮量を明らかにし,十勝平野東縁活断層系における地殻の平均短縮速度を算定する. (d) 稠密自然地震観測 自然地震観測においては,北海道大学及び気象庁の約50点の定常観測点に加えて,1999年7月に47点の臨時観測点が設置された.これらの観測点データは,衛星テレメータシステムによって,既に全国に配信されている.また,海底地震計は,北海道浦河沖に27台設置された. これらのデータは,地殻不均質構造と地殻活動の関連性を明らかにする上でも,また,対象領域のやや広域的な3次元構造を解明する上でも重要である.これまでの観測によれば,1999年7月から2000年1月までに,約1700個の震源が決定された.この内M5以上が16個,M4以上が130個,M3以上が597個,M2以上が1388個であった.更に,陸域の活断層に沿った地震や波形が相似な地震,顕著な反射波や変換波なども観測されている.現時点までの走時データを用いた予備的な3次元P波速度構造によると,十勝平野から日高山脈にかけて衝上する高速度層の存在が示唆される.今後さらに走時データの蓄積が進めばより高精度で広範囲のイメージングが期待される. 3-2-3電磁気的構造不均質の解明(東京大学地震研究所(共同研究)[課題番号:0105]他) 電磁気学的手法による構造不均質の研究は,地震学的手法を用いた構造研究と相補的であり,特に水やメルト等の地殻内間隙流体の分布や物理的特性を明らかにする上で重要である.電磁気的観測研究に関しても,地震学的観測研究の分野と同様に,全国の研究者との議論を踏まえて立案・実施されたもので,大学間の協力体制が確立されている (a) ネットワークMT法(NMT)観測 1999年度におけるNMT観測(図16)は,北海道の未観測域と中国四国地方西部の未観測域をうめるため,北海道と西日本の各大学研究者を中心として(東京大学地震研究所[課題番号:0105],鳥取大学[課題番号:0104〜6]),自作電極と市内線を用いた小規模NMT観測を道北の遠別から音標に至る測線で実施し(ネットワークMT北海道グループ,
2000),従来のNTT通信用アースと局間中継線を用いたNMT観測を北海道北部西部各地(稚内,名寄,深川,札幌,苫小牧,函館)と中国四国地方西部各地(松江,平田,出雲,石見太田,三次,安芸吉田,呉,広島,岩国,美祢,山口,松山,大洲,城川,宇和)で実施した(ネットワークMT西日本グループ,
2000).これらのデータについては,現在そのコンパイルが進行している段階である. (b) 広帯域MT法(WBMT)観測 東京海上各務記念財団から助成をうけて昨年度に観測が行われた奥羽脊梁山地で9点の補充観測を行い,電磁気共同観測としてその西側の出羽丘陵地域で13点のWBMT観測を実施した(地殻比抵抗研究グループ,
2000:図18).出羽丘陵の観測については,予察的な結果ではあるが,Ogawa
and Uchida(1996)の手法を用いたTMモード応答関数を用いた2次元インヴァージョンにより,出羽丘陵域の地殻内に東落ちに傾いた数〜10Ωmの低比抵抗域が認められた(図27).ただし,奥羽脊梁山地,出羽丘陵の両地域について,同じくTMモード応答関数を用い,Mackie
et al. (1997)の2次元インヴァージョンを用いた解析からは,若干異なるイメージが得られていて(高橋ほか,
2000),今後さらにデータの吟味,解析を進める必要がある. (c) まとめと今後の展望 MT観測については,蓄積されてきたデータの一次的解析,コンパイルが進み,スラブの沈み込みに関連すると思われるいくつかの興味深い構造が明らかになってきた(2-3-1節参照).また,3次元解析の方策も検討されている.WBMT観測からは,活構造,地震発生域や地震波構造との間に密接な関連を持った,地殻内の詳細な比抵抗不均質構造が得られるようになった.更に,様々なテクトニック温度圧力条件を持った場で比抵抗構造を解明し,地震波速度構造,減衰構造,さらに,地震発生域や地震発生様式との比較,さらには岩石破壊室内実験からの制約などを総合することによって,地殻内流体の地震発生に及ぼす影響がより明らかになると期待される. 今後の課題として,陸域での構造決定の精度向上のため,日本周辺海域における海底電磁気観測は非常に重要である.前弧側海域の地下は,まさに水を伴ったスラブが沈み込みを開始する場であり,背弧側海域の地下は,スラブからの脱水が継続(あるいは中止)する場であり,そこでの構造を直接求めることは,スラブの沈み込みによって日本列島下にもたらされる水の性質を調べる上で重要な意味を持つ.また,著しい人工ノイズに耐え得る解析手法や観測手法の実用化が必要である.特に,直流電車からの漏れ電流ノイズが著しい,関東,中部,近畿,中国四国(特に瀬戸内海沿岸地域)各地域においてこの問題は重要である.このため,1999年度においても,かねてから実用化を目指してきた人工制御電流源を用いた時間領域電磁法(TEDM法)の観測を伊豆で実施した(高橋ほか,
2000). 3-3地震発生の繰り返しの規則性と複雑性の解明 3-3-1 研究の目的 長期的な時間スケールでみた,地震の繰り返し発生の規則性及び複雑性の解明,すなわち,地震サイクルの理論的背景となる地震発生の繰り返しの実態の解明は,建議にうたう重要な目標の一つである,地震発生長期確率の推定の基礎となるのはもちろん,地震発生の場における定常的運動及びその揺らぎを明らかにする意味でも重要である.特に,地震発生の繰り返しの間隔は数百年から数千年に及ぶ場合が多く,この目的を達成するには,地形・地質学的手法を取り入れた活断層調査及び津波痕跡調査,或いは史料地震調査に負うところが大きい.このような研究は,対象とした地震断層の物理的性質(震源の静的・動的パラメータ,破壊伝播様式,破壊強度分布等)の解明にも貢献するので,建議の強震動の項目とも関連している. 大学における研究は,単に活動間隔や最終活動時期を推定して今後の長期予測に役立てることのみが目的ではない.地震時のずれの量やその空間分布等をも推定して,長期予測の基礎である地震発生の繰り返しモデルを検討するとともに,将来発生する地震の震源モデルの推定手法を開発する等,予測の内容を広げることを目指している(中田他, 1998). 3-3-2 丹那断層における地層抜取り調査(東京大学地震研究所(共同研究)[課題番号:0104]) 陸域の活断層,特に中部〜西南日本の活断層には横ずれ断層が多い.縦ずれ断層の場合には,地表面がずれを検出する場合の基準面となるが,横ずれ断層の場合には,ずれを検出するための基準となるものが少なく,ずれの量を推定することは一般に困難である.単に地震の発生時期だけでなく,ずれの量をも合わせて地震の繰り返し発生モデルを検討するためには,横ずれ量の検出が隘路となっている.このため11年度は,横ずれ量の推定手法を確立することを目標として掲げた.調査対象としては,地震履歴がある程度判明している丹那断層を選び,静岡県函南町田代地区においてトレンチおよび地層抜取り調査を行い3次元的に断層周辺の地質構造を調べた.その結果,841年および1930年北伊豆地震の地震一回分の横ずれ量を推定することができた(遠田他,
2000). 得られた深部地質構造を図28に示す.約2,800年前に降下・堆積した砂沢スコリア層以降,1930年の北伊豆地震を含めて4回の地震イベントが見いだされた.これは,南の丹那盆地での過去のトレンチ調査結果(丹那断層発掘調査研究グループ,
1983)とおおむね整合的である.なお,この最近4回の地震による上下累積変位量は西落ち2.5m以上である.更に,平面観察で認められた断層は丹那断層全体のトレンドに対して時計回りに10°〜40°の走向を示し,ミ型に雁行配列していた(図29).チャネル状・トラフ状の礫層の復元により,1930年北伊豆地震の左横ずれ40−50cm,西落ち20−30cmを検出した.これは,地震当時の記載と整合的である.また,これに先行するイベントも含めた過去2回の左横ずれ変位量は80±10cmと推定された.841年と推定されるイベントのずれの量は1930年北伊豆地震によるものと同程度であった可能性が高い. 3-3-3津波痕跡調査(東京大学地震研究所(共同研究)[課題番号:0102])
(a) 浜名湖底の津波堆積物 浜名湖は静岡県西部の太平洋海岸線に位置する潟湖で,東海沖で海溝型巨大地震が起きるたびごとに湖は地盤沈下し,津波が外洋から湖内へと侵入した.浜名湖は1498年明応東海地震のときまで湖口は閉じていて淡水湖であったが,この地震の津波によって湖口が海に開かれ,塩水湖となったと記録されている.江戸時代には,宝永四年(1707年),安政元年(1854年)に東海地震の津波に襲われ,湖奥部まで津波が及んだと伝えられている.これらの文書記録が伝える津波の実態を,湖底堆積層の津波痕跡を調べることによって物的に検証し,さらに歴史時代以前の東海地震による津波痕跡を発掘することが本調査の目的である. これまでは湖口に近い深さ2m以浅の湖域で,長さ1m〜1.5mの6本のコアサンプルを収集した.そのなかに,1498年の津波痕跡に加えて平安時代の永長元年(1096)東海地震の津波痕跡を検出した.さらに古文献に対応しない13世紀ころの津波痕跡が見つかった(都司他,
1999).また,3420y.B.P.,3850y.B.P.の年代を示す2個の津波痕跡が検証された(都司他,
1998).今回はさらに,北半分の深さ10m〜13mの深い湖域で堆積物の調査を行った.音波探査記録には北側の湖域全体の湖底下約1mのところに津波堆積物の痕跡を示す明瞭な筋が見られた(図30).この津波層の厚さは少なくとも1m以上あり,大きな津波の運搬エネルギーが推定される.C14年代測定によりAD1415年から1535年前後の年代が得られ,これが1498年の明応地震の津波堆積物であることが検証された(岡村他,
2000). (b)北海道海岸の堆積物中の津波痕跡調査 北海道の太平洋岸は,千島-日本海溝沿いの巨大地震発生によりこれまで津波被害を受けてきた.しかし明治以前の史料がほとんどないため,津波堆積物を用いた調査が重要となっている.北海道十勝沿岸地域で過去2500-3000年に発生した巨大津波による堆積物が,5層認められた(図31の四角).広域火山噴出物を用いて,その年代を推定した結果,最上の層は慶長三陸津波(1611年)による可能性があり,それ以深の層は,それぞれ13世紀頃,6-7世紀頃,3世紀頃,紀元前3世紀頃となり,再来間隔は400-600年と考えられる(平川他,
2000).これらは,標高5-6mの砂州を越えて堆積物をもたらすような津波であり,1611年?以後の津波堆積層は調査地域には見いだされない.1896年明治三陸津波を上回る規模の巨大津波であったと推定され,これまで知られていなかった巨大津波の存在が明らかになった.特に1611?年の津波堆積物は,比高12mまでの海食崖上のほぼすべてで認められる.最後の巨大津波から約400年経過しており,これまでの巨大津波の再来間隔に近づいている(平川他,
2000).このことは,この地域の地震発生の長期予測を行う上で重要と考えられる. 3-3-4 1854年伊賀上野地震の調査(東京大学地震研究所(共同研究)[課題番号:0103]) 1854年安政伊賀地震は,1854年安政東海地震および安政南海地震に約5カ月先行した.地質学的検証から京都府,奈良県,三重県伊賀地方の県境に平行して走る木津川断層の活動によるものであることが判明しているが,従来集められた古文書史料では,木津川断層直近の場所での史料が少なく,地震像について十分な知識が得られなかった.今回の研究で木津川断層に沿った,城陽町,加茂町,笠置町,南山城村,奈良県月ヶ瀬村,上野市などの地元史料が発掘され,上記の点の解明が進んだ(中西他,
1999b). 安政伊賀地震の本震(安政元年六月十五日(1854年7月9日))の震度7の地点の分布や,大規模な地変の発生状況から,本震が上野市北方三田集落を東端とし,京都府南山城村大河原付近を通って,京都府笠置町付近を西端とする木津川断層のずれによるものであることが明瞭に裏付けられた(中西他,
1999a).本震の2日前の13日の正午ごろ,および同日14時頃に顕著な前震活動があり,木津川断層の東半分の場所に位置する,大河原,奈良県月ヶ瀬村石打,上野市で被害を生じた.最大余震は本震発生の約5時間後に,木津川断層の西側端部,またはその西側延長上の奈良市付近に発生したと推定される.奈良盆地の奈良市,郡山市,天理市では最大余震のほうが本震より強い震度で,奈良盆地の多くの地点では,この最大余震でもっとも大きな家屋,人的被害を生じている.第2最大余震は,本震発生の6日後の21日20時頃起きたものであることが判明し,これも奈良市,郡山市で建物被害,死者を生じた. 今回の調査により,前震は木津川断層の東半分で発生し,本震は木津川断層全体が,最大余震,第2最大余震は西端付近で発生しており,地震発生場所の漸次西進が裏付けられた. 3-3-5まとめ 上記の調査研究の他に,日本最大級の縦ずれ活断層,養老断層の中央,南濃町志津菖蒲原における前年度のジオスライサー調査で得られた試料の年代測定を11年度に行った.その結果,1220−960y.B.P.と960y.B.P.以降の二度の活動で約5mの上下変位を生じたことが明かとなっている.図32に,東郷他(1999)の結果を示した. 以上のとおり,平成11年度の活断層調査では,地震一回分の横ずれ量を推定する手法を確立するために,丹那断層を対象とした調査が行われた.これは今後の年次計画で必要とされる調査手法を確立するために行われたもので,その目的は達成された.また,三陸〜十勝沖で巨大津波が400-600年程度で繰り返し発生していたことが初めて明らかにされるとともに,横ずれ断層のずれの量の検出が可能となった.また,1498年東海地震の津波堆積物が浜名湖全域にわたるほど分布していることが解明され,1854年安政伊賀地震が木津川断層の活動によることが確認された.三陸〜十勝沖の巨大津波の発見は,この地域の長期的地震予測への重要な貢献である. 活断層調査に関しては,地質調査所や自治体によって多数の調査が行われているが,これらは特に,活動間隔や最終活動時期を推定して今後の長期予測に役立てようとするものである.大学では,単に時間ではなく,地震時のずれの量やその空間分布等を推定して,地震発生の繰り返しモデルの検討や,強震動予測に役立つ震源モデルの推定手法の開発等が重要と考える. 4. 全体のまとめ ここでは平成11年度成果を2つに分類して報告した.即ち,平成10年度以前から実施され平成11年度にも継続してデータ処理や解析が行われたもの(2節)と,平成11年度から実施されたもの(3節)である.前者を実施する段階においては,現在の地震予知研究計画について活発な議論がなされており,その基本的考え方が,研究の中にすでに盛り込まれているものもあった.第7次地震予知計画までは,個々の観測・研究が殆ど独立して行われており,相互の情報交換は十分でなかった.しかしながら,平成9年度以降,各プロジェクトの連携が強まり,その結果,同一のフィールドにおいて多面的な研究が実施され,一定の成果を上げていると思われる.このような連携は,今後とも一層密にする必要があるであろう. 一方,平成11年度から実施された観測・研究の結果は,まだ実施後間もないため,暫定的な結果にとどまっているものが多い.これらのデータは,今後精力的に解析・解釈されるべきである. また,ここで挙げた研究活動には,以下のような問題点が存在する,即ち, (1)個々の研究の成果が,現在の地震予知計画の中でどのような位置づけにあり,また,今後の予知に対してどのような貢献ができるかが,明確ではないものがある.例えば,東北日本弧の構造の解明には,進展を見たが,この結果が,同地域の応力蓄積にどのようにつながるのかが,まだ見えていない.今後出される最終的な結果においては,「地震予知のための新たな観測研究計画」で目指した目標にどのように貢献したか,明確にすべきであろう.また,応力蓄積過程を解明するために,シミュレーション研究とも連携し,互いの結果をフィードバックすることが重要である. (2)ここで挙げた研究は,「新たな計画」で述べられた研究項目に完全には対応していない.例えば,「日本列島規模の広域的な応力場」に関する研究は,少なくとも「定常的な広域地殻活動」の中には提案されていなかった.この研究は,日本列島の応力蓄積過程解明に直結しており,何らかの方策をとる必要がある.たとえば,広域の浅発地震の発震機構解をコンパイルし応力テンソルインバージョンによって応力の主軸の空間変化を調べ,GPSデータのコンパイルによるシミュレーションの結果と比較する等の手法が考えられる. (3)大学以外の機関が実施している類似のプロジェクトとの関係を明確にする必要がある.まず,大学が「新たな計画」の中で実施する研究の特徴,独自性を明らかにすべきであろう.さらに必要とあれば,連携や共同研究等の形態をとり,研究の効率化を図るべきであろう. 文献 第2-1節における文献 浅野陽一,海野徳仁,中村綾子,岡田知巳,堀修一郎,河野俊夫,仁田交市,佐藤俊也,長谷川昭,小菅正裕,長谷見晶子,奥羽脊梁山地およびその周辺域における地震波散乱体分布,月刊地球,
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20, 47-57, 1972 第3節における文献 上村彩,笠原順三,篠原雅尚,日野亮太,他,伊豆・小笠原海溝陸側斜面における地殻構造探査(序報),2,1999年地惑関連合同学会,1999. 上村彩,笠原順三,日野亮太,篠原雅尚,塩原肇,金沢敏彦,プレート沈み込みにおける水の意義と伊豆・小笠原海溝のserpentineダイアピルを横切る速度構造,地学雑誌,109(4),2000. 第4節における文献 1998年電磁気共同観測MTデータ整理委員会,
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浜名湖の湖底堆積物のコアサンプル中に見いだされた津波痕跡,
地学雑誌, 108, 口絵3, 1999. <図の説明> 図 1.東北日本弧及びその周辺海域における総合的観測研究の観測点及び実験測線図. 図 2.三陸沖の測線と海底地震計の配置.南から北へ#1〜#17. 図 3. 南北測線の速度構造解析の結果.図上部の黒三角は海底地震計観測点を表す. 図 4. 東西測線の結果. 図 5. 測線直下の構造と観測された反射波強度(下図).太い線で表現してある部分からより強い反射波が観測されている.上図には同じ地震活動度分布を測線の周辺だけ取り出し,測線と合う様に回転して示してある.○印はOBSの設置位置. 図 6. 大規模屈折法地震探査から得られた東北日本弧の地殻構造(岩崎他,1999).稠密地震観測によって得られた震源分布も示した. 図 7.東北脊梁山地で行われた反射法地震探査の結果(平田他,1999b). 図 8.東北脊梁山地の自然地震トモグラフィーから求めた,速度不均質構造(平田他,1999a). 図 9.日本海東縁部,大和海盆から佐渡海嶺に至る地殻構造(西坂他,1999). 図 10.日本海東縁部の上部マントルまでの地殻構造(西坂他,1999). 図 11.日本海溝—東北日本弧—日本海東縁部の地殻・上部マントル構造断面. 図 12.1998年9月24日〜10月4日にかけて,伊豆・小笠原海溝,陸側斜面域において海底地震計・制御震源による実験を行った.実験は東大地震研,東北大,千葉大,東大海洋研,富山大,九州大の共同研究として行われた.図中の丸は海底地震計による観測点,四角は常設の海底ケーブル式地震計,星は火薬発破の位置である.観測点11と12はサーペンテイン(蛇紋岩)ダイアピルの直上及び斜面にある. 図13. 図12で示した直交する2つの測線のうち,東西測線に対してforward
modellingで得られた地震波速度構造モデル.速度コンターは0.25
km/s, 横軸の0kmは南北側線との交点.横軸の20km付近にサーペンテインダイアピルがある.伊豆・小笠原海溝軸は図には入らないが,距離60km付近に相当する.このモデルによると,低速度の物質がサーペンテインダイアピルの直下から西にシル状に存在し,徐々に厚みと速度を増してマントルウェッジにつながっているように見える.その最上部の速度は海溝軸から陸側に約110kmのところで速度7.3km/sである.海洋性スラブの沈み込みの角度は海溝軸から陸側(西)に約100kmまではきわめて低角(約3°)であるが,その後西側で急に沈み込みが急になり50°となる.またサーペンテインダイアピル下の速度は,周囲に比べ頂上付近は大きいが底部では小さい.サーペンテインダイアピルの底はプレート境界に達している. 図14. 観測点11での火薬発破に対する観測波形と図11の構造モデルから計算した理論走時(太線).横軸は距離,縦軸は8.0km/sに対する相対走時.観測点10では横軸の-70〜-105kmに大きな振幅の波群があるが,この図(観測点11)では極めて弱い. 図15.観測点1での火薬発破に対する観測波形と図11の構造モデルから計算した理論走時(太線).灰色で示した線はその中でもマントルウェッジを通った波線に対する走時.横軸は距離,縦軸は8.0km/sに対する相対走時. 図16.電磁気観測点分布.ネットワークMT法観測では,図の1本1本の線が電話線を用いた長基線電場ダイポールを示す. 図17.東北日本におけるコンパイルされたネットワークMT法インピーダンス位相(周期64分)観測値の分布(左)と,海陸分布のみを考慮した3次元モデルによって得られた位相計算値の分布(右).位相値が大きい程,地下に低比抵抗体が存在することを示し,濃く塗られている. 図18.広帯域MT法観測点分布図.各点において,電場2成分と磁場3成分(フェニックス社広帯域MT観測装置V5やMTU5を用いた場合),あるいは,電場2成分のみ(同社MTU2Eを用いた場合)の観測を行った. 図 19.平成11年度三陸沖観測配置図. 図 20.#8の記録例. 図 21.#10の記録例. 図 22.北海道日高衝突帯大学合同地震観測の地震観測点及び人工地震測線. 図 23.屈折法地震探査の記録例(L-6). 図 24.深部反射法地震探査の記録例. 図 25.浅層反射法探査の測線図. 図 26.浅層反射の時間断面図. 図27.出羽丘陵において実施された,広帯域MT法観測のTMモードインピーダンス2次元解析から得られたプレリミナリーな比抵抗断面.低比抵抗ほど濃く塗られている. 図 28.トレンチ調査と地層抜き取り調査により得られた丹那断層の浅部地質構造(遠田他,
2000)約2,800年前に堆積した砂沢スコリア層以降,1930年の北伊豆地震を含めて4回の地震イベントを明らかにした.それらの地震により,砂沢スコリア層を含む地層(地層番号7)は上下に約2.5m変位している. 図29. 調査地点における1930年北伊豆地震時の変位量
(遠田他, 2000)地震イベントにおける横ずれ,縦ずれ変位量を求めるため,大小多数の平面・断面を観察し,三次元的に断層周辺の地質構造を復元した.2,3条の断層(剪断面)がミ型に雁行し,幅1-2mの断層帯を形成している.断層を横切るチャネルを追跡することによって,北伊豆地震時の左横ずれ40-50cm,西落ち20-30cmの変位を明らかにした. 図30 浜名湖北部湖底の南北(挿入図AB間)音波探査断面図(都司,
私信)1498年明応津波痕跡の他,数層の津波堆積物が認められる.挿入図の黒丸は平成10年度ピストンコア採取点. 図 31.十勝沖沿岸地域の巨大津波の発生時期と再来間隔(平川他,
2000)テフラと土壌の堆積速度から推定した.将来的には14C年代測定によって津波発生時期を絞り込むことも可能である. 図32.養老断層のジオスライサー調査結果(縦スケールは横スケールの5倍;
東郷他, 1999)養老断層のほぼ中央,南濃町志津菖蒲原地での東西断面を示す.図の左の撓曲崖は赤色で示す泥炭層(Vc:厚さ0.5〜0.8m,1220~1650yB)やその上位の灰色〜青灰色粘土層(Va-b)の堆積後で,黄色で示す沖積層(下部は960yBP)堆積前に形成されたと推定される.また,この泥炭層(Vc)は東の地点21,16でも認められ,別の撓曲変形を被っている.これは960yBP以降の活動によると考えられるが,U層からなる沖積低地面は,津屋川以東の濃尾平野面より約2m高いので,この活動は960yBPよりかなり新しいかもしれない.なお,層Tはほぼ現世の河成堆積物である. |
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