第2章 “定常的な広域地殻活動”研究計画
1. 緒言
地震発生の全過程を理解するには,地震発生の場の性質を解明し,地殻内への応力の蓄積・再配分過程を明らかにしなければならない.このような認識に立ち,建議“地震予知のための新しい研究観測計画”においては,“地震発生に至る地殻活動の解明のための観測研究の推進”の主要な項目の一つとして“定常的な広域地殻活動”を掲げ,以下の3つの研究の指針が示されている.
・プレート境界部分におけるプレートの運動学的特性(位置,性質,変形速度等)の解明及びプレート間カップリングの空間的な非一様性の解明
・プレート内部の応力・歪蓄積過程を支配する不均質構造の解明.
・長期的な時間スケールでみた,地震の繰り返し発生の規則性及び複雑性の解明.
これらの指針を踏まえ,本部会では,前年度に引き続いて下記の主要課題を推進することとした.
(1)プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究.
(2)プレート内部の地殻活動及び構造不均質に関する研究.
(3)地震発生の繰り返しの規則性と複雑性に関する研究.
2.プレート境界域の地殻活動及び構造不均質に関する研究
プレート境界域の地震の発生メカニズムを解明しその予測モデル構築に貢献するには,まずプレート境界の位置や形状を正確に把握し,プレート境界の物性定数の空間的なゆらぎ(不均質構造)を明らかにする必要がある.このような知見を踏まえ,実際の地殻活動との関連性を明らかにすることにより,プレート境界域の地震活動を支配している物理学的メカニズムに迫ることができると考える.
プレート境界域の地震の殆どは海域で発生していることから,上記課題を達成するには海底諸観測が極めて重要である.更に,陸域の定常的且つ高精度の観測と組み合わせることによりプレート境界で進行している物理現象を解明できると思われる.更に,プレート境界で発生した大地震のアスペリティー分布の研究が進み,断層面の不均質構造と合わせることによって,プレート境界の地震発生のメカニズム解明が進んだことが,大きな成果と言える.
一方,陸域においては,大学及び基盤的調査観測網に基づく地震観測点が整備されつつあり,列島域の地震活動様式の精度が向上しつつある.また,1999年以来,大学と海洋科学技術センターとの共同研究の形をとり,北海道,西南日本及び東海・中部日本において海陸統合地殻構造探査が実施されるようになった.このような状況により,陸域観測から,列島下に沈み込むプレートの形状やプレート内の応力状態に関しての知見が集積されるようになった.
2.1. 海底地震観測によるプレート境界の地震学的構造
プレート境界の持つ物理化学的な性質がプレート境界の地震発生に大きく関与していることは疑いがない.プレート間が強くカップリングしている場所ではプレート境界が強く固着し,プレート境界の上下で地震波速度は大きなコントラストを示さないだろう.それに対しプレート境界のカップリングが弱い場所では,スラブの沈み込みがスムーズに進行し(常時あるいは間欠的にすべりが進行し),大きな地震発生域となりにくいだろう.力学的に弱い物質は音響インピーダンスも小さく,プレート境界面で地震波速度の大きな不連続は見られないと考えられる.この様なプレート境界面の性質はアスペリティーと非アスペリティー域からなるプレートカップリングの不均質的性を作っているに違いない.
プレート境界における力学的プレートカップリングの不均質性を明らかにするため1996年以降海底地震計と制御震源を用いた観測を行ってきた.三陸沖は,日本周辺の沈み込み帯の中でも過去の地震の起こり方や微小地震の分布などについての情報が最も多い場所である.また,南海トラフに比べ大地震発生間隔も短く,モデルとそれに基づく予測の検証という観点からも最適である.
三陸沖北緯38゜40´N〜39゜Nにかけては東西に約100kmの長さの,数十年にわたって地震が極めて低い領域がある.この場所が将来大地震を起こす能力のある地震空白域なのか,それとも絶えずひずみを放出することにより大地震発生域とはなり得ない領域なのか,この区別を明らかにすることはきわめて重要である.この違いを明らかにするために,この場所で1996年度海底地震観測を実施した.その結果地震空白域直下から強い地震反射波が返ってくることがわかった(藤江他,2000;Fujie et al., 2002).走時トモグラフィーを用いて39゜N,143゜Eを交点とする東西方向,南北方向の地殻構造も同時に求め(藤江,1999,藤江ほか,2000),この地震反射波に対する反射面がプレート境界付近であることの結論を得た.
地震活動空白域であること,プレート境界付近から強い反射波が戻ってくることから,プレート境界付近に力学的に弱い物質がある可能性がある(藤江ほか,2000,Hino et al., 2000b).力学的に弱い物質は低いP波速度あるいは大きなVp/Vs比によって特徴づけられるため,こうした構造の特徴を反映して固着が弱いプレート境界からは顕著な地震反射波が観測されるのであろう.プレート境界に水を多量に含んだ粘土か,水によって変成岩化した海洋地殻がある深さで脱水分解し,プレート境界付近に水を出すことによって生じた水そのものか,あるいはマントルウエッジで含水化により生じた蛇紋岩が,弱い力学物質に相当すると考えられる(Kasahara et al., 2001,笠原・上村,2002).三陸沖に類似して,伊豆小笠原海溝ではプレート境界に蛇紋岩が存在し,それがプレート境界のカップリングを弱くして大地震の発生を押さえていると考えられる (上村ほか,2000;Kamimura et al., 2001, 2002).
さらに詳細を知るため,1996年度の観測のうちで未処理であった海底地震計のデータを処理した.その結果,39゜Nの北に位置するやや低地震活動の場所もその北側,南側に比べ地震波反射強度が大きいことがわかった(図1).この図で地震計25と26の間〜地震計06に相当する部分が39゜15´Nに存在する低い地震活動域である.矢印はこの部分でのプレート境界からの地震波反射強度が強いことを示している.プレート境界の深さを0kmとした.この結果は,それ以前の結果と調和的である.
1996年度の観測では,南北測線おいて地震反射波の強弱を観測したが,それが東西方向でどう変化しているかは明らかではなかった.この三陸釜石沖においてわかった地震空白域と地震反射強度の分布の相関を面的にマッピングし,それからこの場所における非アスペリティー域の2次元的広がりを明らかにすることを目的として2001年度の観測を行った.2001年8月〜10月にかけ三陸釜石沖(38゜30´N〜39゜30´N;143゜00´E〜143゜40´Eの領域(図2))において海底地震計・エアガンを用いた人工地震探査を行った.地震計の設置と回収は地震研用船により,エアガンによる調査は東大白鳳丸共同利用(KH01-02)を利用した.エアガンの総容量は57リットルである.海底地震計は30km x 50kmの範囲に格子状に設置した(図2丸印).
得られた結果は現在まだ解析の途中であるが,暫定的な結果の一部を示す.測線は南北に7本あるが,そのうちで測線3は平成8年度の測線と南北測線とほぼ同じである.藤江ほか(2000)によって得られた構造を用いることにより,測線3上で観測された波群がどこを通過してきた波であるかを明らかにできる.図3はその一例である.その結果,反射波と考えられる波群がプレート境界からの反射波であることがわかった.
図4,5,6は得られた波形の一部である.地震計21,20,19は測線4上にあり,測線3より約10km西よりの測線である.図4は地震計21に対する波形断面であり,東側の測線(Line-1)から西側の測線(Line-7)上のエアガン発振を測線4上の地震計21により記録したものである.左が西,右が東の測線7から1を示し,上下が地震計から北,南への距離を表す.たとえば,測線5のショットを測線4上にある地震計12で受けると,扇状シューテイングになり,単純化すると,観測された反射波は測線4と5の中間で,かつ距離は地震計とショットとの1/2にある.矢印で示したものがプレート境界からの反射波と考えられる.これから海底地震計21をはさんで南北約10〜25kmの距離の反射面で反射強度が強いことがわかる.また,東西に約30kmの幅を持っていることがわかる.これらの結果は平成8年度に得られた結果と調和的である.この観測点より北側の20(図5),19(図6)では反射波は著しく不明瞭になり,プレート境界面の性質が南北で変化していることがわかる.
1999年度行った三陸八戸沖の海底地震計による構造調査は1994年三陸はるか沖地震のアスペリティーの南端に相当する40゜10´Nを境にし,地殻の厚さとP波速度が大きく変わることを示した(笠原ほか,2002;Hayakawa et al., 2001,2002).スラブ内の特に海洋性地殻は水を大量に含むと考えられるが,そうしたスラブが深さ40km付近で脱水し,その水の分布が観測された上盤側地震波速度構造の異常の原因である可能性がある.
自然地震の観測から,1994年三陸はるか沖地震の本震・余震域の観測からも新たな結果が得られた(米島ほか,2000;桑野ほか,2001).2000年度は40゜N〜14゜Nの海溝陸側斜面を東西に150km x 幅100kmほどの帯状の場所において,地震計20台を用い,10月〜11月末の40日間,自然地震の観測と小規模の人工地震観測を行った.この観測の主要な目的は,海溝斜面のプレート境界のデカップリング帯とカップリング帯の境界において震源の深さを正確に決め,大地震の開始点を見つけることであった.求まった震源は海溝斜面上2000m〜3000mでクラスターを作っていた(図7).1994年の余震活動(Hino et al., 2000a)と比べると震源分布はほぼ一致する(図8).最東端は1994年の破壊開始点に一致するとともに,定常活動もある.海溝軸に近い堆積物ウエッジ内の地震活動は無いと考えられる.
1994年三陸はるか沖地震の本震に注目すると,1994年の余震活動も今回の震源分布も本震の破壊開始点付近の地震活動は著しく低く,そこが地震空白域になっていることがわかった.さらに,1994年の本震発生以前も,この領域での地震活動は低調であった.この地震の震源域中央部の本震破壊時に最大のモーメントを放出した領域(たとえば,永井・他,2001)は通常強く固着したアスペリティーと考えられ,そこでの地震活動も震央付近と同様にやはり余震時と2000年の海底観測時点を通じて低調であることがわかっている.従って,破壊開始点付近にも同様の固着域が存在している可能性がある.しかし,破壊開始点付近における本震時のすべり量は,震源域中央のアスペリティーと比較してあまり大きくなく,本震震源周辺における低い地震活動は,そこが定常的すべりの卓越した領域に相当する可能性を示唆するものかもしれない.破壊の開始点そのもので定常的にすべりが発生しているとは考えにくいが,定常的なすべり域内で孤立した非常に小さなアスペリティーが巨大地震の破壊の開始点になったと解釈することは可能である.従って,構造探査によってこの領域のプレート境界から地震波反射効率を明らかにすることや,本震の震源の再検討などが今後の重要な研究課題である.
2.2. 海陸統合構造探査によるフィリピン海プレートの構造
2.2.1 四国下におけるフィリピン海プレート構造
1999年に実施した南海トラフから四国東部・中国地方を横断する海陸統合地殻構造探査については既に解析が進み,その詳細な構造が提出された(蔵下他,2002, Kodaita et al., 2002).この探査の陸上観測点において,フィリピン海プレート境界面からの明瞭な広角反射波が観測された. 観測された広角反射波に対し,AVO (amplitude versus offset)解析に基づいたプレート境界面上の物理特性把握が試みられた(蔵下他,2002).その結果,観測された広角反射波は一枚の境界面からの反射波ではなく,プレート上面にP波速度が周囲より遅くなる薄い低速度層(P波速度:4.0km/s ,厚さ:約200m)が存在し,その層の上面と下面からの反射波の重ね合わせとか解釈されることがわかった.即ち,四国東部地域下に沈み込むプレート上面に薄い低速度層が存在している可能性が高い.沈み込むフィリピン海プレートからの強い反射波は,紀伊半島(爆破地震動研究グループ,1992)や東海地方(爆破地震動研究グループ,1989;Matsuura et al., 1991; 東海・中部地域地震探査研究グループ,2002; 飯高他,2003)でも確認されている.このような反射波の特性及びその地域性を明らかにすることは,単にプレートの形状を明らかにする目的だけでなく,プレート境界の物性及びその空間的変化を解明する上で,極めて重要である.また,得られた構造と地震活動の比較によれば,プレート境界とほぼ平行に分布する地震面は,プレート境界に較べて系統的に約10kmほど深い.更に,このグループに属する地震は,マントルウェッジより北側(島弧側)では殆ど発生していない.この結果は,震源決定精度まで含めた詳細な検討が必要であるが,沈み込むプレート内の応力状態を反映している可能性があり,重要である.
2.2.2東海・中部地域における海陸合同地殻構造探査
東海沖から中部地方にかけてのフィリピン海プレート沈み込み構造及び中部日本を構成する島弧地殻・上部マントル構造を解明するための大規模な海陸合同構造探査が,2001年8月に実施された(東海・中部地域地震探査研究グループ,2002; 飯高他,2002).この探査の海域部については海洋科学技術センターが担当し,70台の海底地震計とエアガンショットによる反射法・屈折法地震探査を実施した.一方,陸域部探査は全国の大学・関係諸機関が共同して行い,全長約262kmの測線に391の観測点を設けた(図9).人工震源としてダイナマイトを使用し,発震点を5点に設けた.それぞれのショットの薬量は500kgである.この測線上には,391台のレコーダを設置した.記録の一例として,測線南端部のショット記録(J5)を示す(図10).この図からわかる通り,2つの後続波を確認することができる.特に2番目の波は,震央距離20-160 kmにおいて極めて優勢である.
図11は,これまでの解析から得られた速度構造モデルである.上部地殻構造については,測線の北部を除いて大きな構造変化は見られず,比較的平坦な構造をしている.表層下に1‐2kmの厚さの堆積層が存在し,その下に厚さ5kmまでの速度5.0‐5.5km/sの層が存在する.測線北側の砺波平野下では,厚さ2km程度の厚い堆積層の下には,速度5.8‐6.1km/sの層が5‐15km程度の厚さで存在していると考えられる.また,その下の層は6.3‐6.5km/s程度の速度であろう.また,測線の中部・北部のショットでは,地殻内反射面が確認されており,今後の解析の進展によって島弧側の地殻下部の詳細な構造が明らかになると期待される.
図10で示した極めて優勢な後続波は,その沈み込むフィリピン海プレート上面からの反射波と考えられる.また,この反射波よりやや早い走時で到達している後続波は,プレートからの反射波よりも見かけ速度が大きく,深さ10kmから20kmに存在する30度程度の北向き傾斜の面からの反射波と考えられる.後述のように,この反射面は,東海地域の付加体内部の速度不連続面に対応するものであろう.今後は,これらの反射波の振幅データなどをもとに境界面での速度コントラストなどを推定し,それらのデータをもとに反射面の性質を求めていく必要がある.
この実験においては,測線南部において稠密アレーによる低重合反射法地震探査を行い,この地域における地殻内反射面及びプレート境界の精密なマッピングを試みた(佐藤他,2002).この測線は,上述の屈折法測線にほぼ含まれ,中部日本の外帯の帯状構造に直交する方向で中央構造線の北側に設定した.即ちこの反射法測線の北端が発破点J4で,南端が中規模発破T6(薬量100kg)となる.32 kmの測線上には,デジタルテレメトリー方式の有線記録システム(300チャンネル)を及びoffLine型のReftek 125型レコーダー100チャネルを設置した.総計400チャンネルで収録した波形記録は,反射法地震探査法による定常処理が施された. NMO補正を施したJ-4, T-6,J-5のショット記録を重合させた断面を図12に示した.重合断面において,南端往復走時9秒から北端の12秒まで,北傾斜の反射イベントが顕著である.これは沈み込むフィリピン海プレートの上面と,スラブ内からの反射を示していると判断される.一方,北端8秒から中央部で9秒に位置するやや南に傾斜した反射層が見られる.これは下部地殻の地殻内反射層と判断される.また,南端で5秒,中央部で8秒まで北に傾斜する顕著な反射層がある.この顕著な反射層は四万十帯の南帯と北帯の境界である可能性が高い.また,ショット点J4からT6の往復走時4秒から6秒の間は反射層に富む傾向がある.これはJ4とT6の間の浅層部には領家帯の花崗岩類が分布することを考慮すると,反射層の多い層は三波川帯に対比される可能性が強い.したがって,中央構造線の形状は,往復走時4秒(地下12km)から急激に立ち上がるものと推定される.こうした設楽地域の地殻深部反射層の解釈に基づいた地質構造断面を図13に示した.下部地殻と三波川変成岩の底部がそれぞれ鰐口状に分かれ,その中に付加堆積物がくさび状に突入している形状が明らかになった.プロファイルの地質学的な解釈にもとづけば,本州側の地殻がその中部でデラミネーションを生じてきた可能性が高い.地殻下部は沈み込み運動によって構造性の侵食をうけ,古い島弧地殻中・上部は,地殻中部にくさび型衝上断層によってもぐりこんだ付加物質によって,めくりあげられた変形を示している.このような付加作用と平行して進行する構造性侵食により,白亜紀以降地殻の総量は増加していないと推定される.
2.4. 今後の研究課題と展望
太平洋プレートが東北日本弧下に沈み込む三陸沖では,様々な観測によってプレート間カップリングの空間的不均質性が明らかになってきた.即ち,地震を起こすアスペリティーの位置は空間的にほぼ決まっており,そこでの応力集中はアスペリティー周辺の非地震性すべりによって引き起こされるという,地震発生の大局的なシナリオが明らかになりつつある.これは,プレート境界での応力集中過程の解明にとって,大きな進展である.これまでの海域制御震源地震探査及び自然地震観測によれば,地震活動が周囲と比較して低い領域に低地震波速度異常が存在することが明らかとなってきた.例えば,38゜40´〜39゜に存在する地震空白域においてプレート境界での地震反射波強度が大きく,その場所におけるプレート境界がデカップルし,ずるずる滑ることにより沈み込みにともなうひずみを解消しているとの結論に至った.この研究結果を三陸沖の他の地域へ応用し,地震反射強度の面的分布を明らかにすることにより,非アスペリティー領域とアスペリティーの分布を明らかにすることができるだろう.また,1994年三陸はるか沖地震の本震に注目すると,1994年の余震活動も2000年観測結果も本震の破壊開始点付近の地震活動は著しく低く,そこが地震空白域になっていることがわかった.定常的なすべり域内で孤立した非常に小さなアスペリティーが巨大地震の破壊の開始点になったと解釈することは可能である.従って,構造探査によってこの領域のプレート境界から地震波反射効率を明らかにすることや,本震の震源の再検討などが今後の重要な研究課題である.
これら三陸沖においてわかったプレート境界面の反射特性,アスペリティー分布とすべり域の相補的関係は日向灘や房総沖においても成立するのかどうか検証する必要がある.地震学的観測からプレート境界の物性,さらに物質とその状態の特定は非常に難しい課題であるが,実験岩石学の結果と地震学的結果の総合的解釈が必要となろう.
一方,西南日本におけるフィリピン海プレートの沈み込み構造については,海洋科学技術センターの精力的な海底地震探査によって大きく進展した.1999年以来,同センターと大学の間で海陸共同探査が実施されており,その結果として海域から西南日本南部下までのプレート沈み込み構造が明らかになってきた.特筆すべきことは,陸域の観測点においてプレート境界殻の非常に強い反射波が観測されたことである.過去のデータも考慮すると,このような反射波は,東海地域,紀伊半島及び四国下でも見られる.これらの反射面(反射点)がプレート境界のどの部分に分布しているのか(例えば地震破壊領域か定常的すべり領域か)を明らかにすることは重要である.即ちプレートの沈み込み方向に対する構造変化の解明は,プレート境界の摩擦構成則に対する重要な拘束条件を与えると考える.更に,相異なる震源域における構造の差を明らかにすることは,個々の地震の破壊過程やアスペリティーの特徴,隣接するアスペリティー間の相互作用を考察する上での拘束条件となろう.東海地域においては,反射面と2001-2002年に進行したと考えられる異常すべり域の位置関係についても,注目されるところである.以上の点から考えて西南日本南部は,陸域からもプレート境界の研究が可能な格好のフィールドと言える.地震・地殻変動を組み合わせた研究を実施することによって,単にプレートの形態だけでなく,プレート境界の応力蓄積過程に向けての研究を進展させることができると考える.さらに,これまでの海底地震探査では抜けている沿岸部の探査も重要であろう.
3. プレート内部の地殻活動及び構造不均質に関する研究
日本列島下の内陸地震の発生過程を理解するためには,地震を引き起こす断層系の地下深部までの物性を明らかにするとともに,その周辺の地殻不均質を様々な観測から解明し,地殻内部における応力の蓄積・集中過程の解明を目指さなければならない. 1997年以降,屈折法・反射法を主体とする制御震源探査と高感度地震計による稠密集中観測が密接な連携のもとで実施されるようになった. 1999-2000年は,北海道日高地域で,大規模研究観測が行われた.この地域は,西進する千島弧と東北日本弧の衝突が進行しており,更に太平洋プレートは南側から沈み込むという極めて複雑な地質学的環境にある.この衝突に伴う地殻の変形過程を明らかにすることは,北海道地域の地震発生様式の物理機構を解明する上で重要である.
2000年鳥取県西部地震については,稠密地震観測,高密度アレー観測などが実施された.これらの観測は,主に余震を利用して,大地震発生地域の構造不均質など諸特性を明らかにするために実施されたものである.鳥取県西部で実施された観測は大地震発生域で実施されたものでは最も高密度,大規模のものであり,データは解析中であるが,内陸地震の発生メカニズム解明に資するものと思われる.
3.1 北海道日高衝突帯における総合的観測研究
プレート内(島弧内)の構造的不均質を解明し,地震活動・地殻変動等の地殻活動との関連性を明らかにする目的で,1999年から2カ年にわたって北海道日高山脈を中心とする地域で大規模合同実験観測を実施した(図14).この実験観測は,制御震源探査(屈折法地震探査・深部反射法地震探査・浅層反射法地震探査),稠密自然地震観測,海底地震観測から構成される.
3.1.1 制御震源探査による地震学的構造
1999年は北海道をほぼ東西に横切る227 kmの屈折法地震探査及び日高山脈東山麓から十勝平野までの反射法地震探査が行われた.前者は,千島前弧から衝突帯を経て東北日本弧までの大局的な構造の解明を目指したものである(爆破地震動研究グループ,2002a).一方反射法地震探査は,千島弧側の衝突様式のマッピングを目的とした(1999-2000北海道日高衝突帯構造探査研究グループ,2002). 2000年度は,日高山脈西山麓から石狩・苫小牧低地帯の褶曲断層帯下の深部構造の解明を目指した(爆破地震動研究グループ,2002b;図14).
今年度は,反射法のデータに対して屈折法的解析を組み合わせることによって,より詳細な構造を出すことを目指した.この解析によれば,衝突の境界と考えられる日高衝上断層の東側の速度が5.9-6.1 km/sであり,その周囲と比べて0.1-0.2km/sほど有意に速い(図15).更に,この高速度の領域は,高Vp/Vs(1.8-1.9)である.また,日高衝上断層につながると見られる明瞭な西上がりの反射面が深さ17-10kmの範囲に確認された.これは,以前提出された屈折法モデルによる十勝平野下の反射面の西側延長であると考えられる.これらの結果は,千島弧側地殻の一部が衝上していることをより強く裏付けるものとなった.また,日高衝上断層の東側の部分が千島弧を構成する中・下部地殻であるという岩石学的な観測事実と矛盾しない.一方,日高山脈中央から西部では,深さ10-15kmに東上がりの反射面が発見された.これは,東北日本弧の地殻内反射面であると考えられる.
更に,反射法データの再解析によって,西上がり反射面の下の深さ25kmに,ほぼ水平の強い反射面のあることがわかった(図16).この面からの反射波は極めて顕著である.このような観測事実を説明するには,西上がりの面と水平な面に挟まれた領域の速度が極端に低下しているか,或いは,水平の反射面が構造を持っている(例えばlamination構造)と考える必要があろう.この処理にあたっては,図15で述べた屈折法結果を静補正及び速度解析に反映させ,migrationを行った.これらの結果から,この実験の行われた日高衝突帯の北部においても少なくとも地殻の上部(厚さ23-25km)の部分が剥離して衝上していることは明らかと考える.しかしながら,地殻下部がどのような変形を受けているのかは,未解決である.現在までの結果によれば,衝突帯南端で見られたような顕著な楔型の剥離現象とは異なっている可能性が高く,衝突様式に地域性があるのかもしれない.特に,千島弧側中・下部地殻に求まった反射面の形状は,後述のように,剥離現象を説明する鍵となるかもしれない.
3.1.2 日高衝突帯前縁における浅層反射法地震探査
北海道中軸帯の西側には南北方向の褶曲・断層帯が形成され,地震活動やそのフロントに形成されている活構造から,東西方向の短縮変形が進行していることが知られている.日高山脈西部の断層-衝上断層帯の先端部(図17)において,浅層反射法地震探査と既存データの解釈も含めた総合的な地質構造の解析を行い,伏在する主衝上断層のスリップレートを検討した.
浅層反射断面・馬追2000において既存の試錐資料との対比によれば,後期中新世から鮮新世の荷菜層より上位の層が堆積時中に丘陵が成長したことを示すgrowth strataを構成している.よって,馬追丘陵は遅くとも荷菜層堆積後(3.5Ma以降)成長を開始したことが推定される.また,馬追丘陵と石狩低地帯の荷菜層の比高約990mを馬追丘陵の成長の垂直成分とみなし,この成長が3.5Maから定常的に継続したと仮定した場合,馬追丘陵の成長速度の最低値は0.3mm/年となる(図17).さらに,断面図により浸食された部分を外挿して成長速度の最大値を求めると,0.6mm/年となる.この値を用いて断面図における主衝上断層の角度(約10゜)をもとに水平短縮速度を求めると3.5mm/年(最大値)となる.
馬追丘陵は東から西へ移動する3条の衝上断層の運動によって形成されている.バランス断面における総水平短縮量は10kmと算定される(図17).最も早く活動した断層は東側の由仁衝上断層であり,この断層は約10.5Maに相当する珪藻化石を産出する地層を変位させている.したがって,衝上断層群の活動時期を10.5Maとして,水平短縮速度の最低値を求めると約1.0mm/年となる.
馬追2000の測線上での道路公団による浅層ボーリングから第四紀後期の本郷層・厚真層もgrowth strataを構成している.泥炭層を含む本郷層の基底の年代(8万年)と比高(50m)から算定した第四紀後期における馬追丘陵の成長速度の最低値は約0.6mm/年である.馬追丘陵西翼の地形面の傾動の他,東翼の地形面においても傾動が認められた.この傾動から東縁における馬追丘陵の成長速度を求めると,0.2〜0.4mm/年となる.
第四紀後期の馬追丘陵の隆起速度は,3.5Ma以降の値と同程度もしくはそれ以上であり,北海道中軸帯における短縮変形が第四紀後期においても継続していることを示す.さらに,推定される主衝上断層の水平短縮速度は1〜3.5mm/年となり,Seno et al(1996)により見積もられたプレート収束成分の10〜50%を北海道中軸帯で消費している可能性を示唆する.尚,成長層基底の推定年代が若くなる可能性,短縮変形が日高山脈西翼の褶曲-断層帯の間で広く消費されていることも想定され,北海道中軸帯での収束成分はさらに大きくなる可能性がある.
3.1.3 地震活動及び地震波トモグラフィーによる不均質構造
2001年度は,1999〜2000年度に北海道日高衝突帯で取得された陸域(勝俣・他,1999;勝俣・他,2000;勝俣・他,2002)および海域臨時高感度地震観測データを基に各種の地震学的解析を行った.
まず陸域テレメータ観測点と海底地震観測点のデータを同時に用いて3次元P波速度構造を推定した(村井・他,2001;Murai et al., 2002,図18).海域に観測点が配置されたため陸域の観測点のみを使用していた従来の研究よりも高い信頼度で構造をイメージングすることができた.その結果,西進する千島島弧の下部地殻が剥離して上部マントル内に貫入し,浦河沖に達している様子が明らかとなった.この貫入した下部地殻の先端付近では定常的に微小地震活動が活発であり,1982年には浦河沖地震(M7.1)が発生している.これらの地震活動は貫入した下部地殻の圧縮応力によって引き起こされていると考えられる.
また,陸域の観測データのみを用いて3次元P波・S波速度構造を推定し,この3次元速度構造を用いて震源の再決定を行った.さらにこの震源分布から太平洋プレート内二重深発地震面の形状を推定した(図19)[勝俣・他,2001a;勝俣・他,2001b;Katsumata et al., 2002].その結果,二重深発地震面の上面の傾斜角は十勝平野より西側では約30度,東側では約40度と急変することが分かった.傾斜角が急変する付近には上面の地震と下面の地震をつなぐように地震が分布していることが明らかとなった.このような分布は定常観測網を用いた従来の研究でも捉えられていたが,深さ方向の震源決定精度が悪いための見かけ上の分布なのか,それとも真の分布なのか区別することが出来なかった.しかし今回は観測点を稠密に配置したため震源決定精度が向上し,十分な信頼度で区別ができるようになった.この面の上端の深さは50km付近,走向は千島海溝軸に垂直,傾斜角は東落ち80度,大きさは走向方向に100km,傾斜方向に50kmである.この面を十勝沖断裂帯と呼ぶことにする.
更に,自然地震を用いた応力場推定の研究も行われた.応力テンソルインバージョンの結果によると,日高山脈周辺の深さ50〜100kmでは圧縮軸が水平となる場所が多いが,十勝沖断裂帯では張力軸が水平となり,周辺部とは明らかに応力状態が異なる.十勝沖断裂帯では太平洋プレートの沈み込み角度の急変により,プレート内部を引き裂くような伸張応力が働いていると考えられ,プレート内大規模地震の震源域となる可能性もある.
3.2日本列島下の電磁気学的不均質構造
3.2.1. はじめに
比抵抗(あるいは電気伝導度)は,特に温度や間隙高電気伝導物質(水,メルト,炭素皮膜)の存在,そのつながり方に敏感であり,桁で変化し得る物理量である.スラブの沈み込みによって日本列島下にもたらされる水は,第一に,日本列島の火山活動を規定している.また,室内岩石破壊実験により,地殻内に存在する水が地震活動と深い関わりを持つことが明らかになりつつある.
本観測研究においては,島孤スケールの上部マントルに至る大局的な比抵抗構造決定と,特定の地震断層などの地殻活動地域スケールの比抵抗精密構造決定をめざす.大局構造の決定のためにネットワークMT法(NMT)観測を実施し,精密構造決定のために広帯域MT法(WBMT)観測を実施する.比抵抗構造は地震学的な構造とは独立な情報を持っているので,比抵抗構造と各種の地質学的,地球物理学的情報をあわせて総合的に解釈することにより,地殻活動シュミレーションモデルを構築する際の物質や場の条件により良い制約が与えられるものと期待される.
3.2.2. ネットワークMT法(NMT)観測
NMT観測においては,NTT通信用回線を用いて面的な長基線地電位差観測を行い,数100から10⁵秒の帯域で固定点磁場変動に対する各地電位差変動の応答関数を決定し,その応答関数から列島スケールの上部マントルに至る大局的な比抵抗構造を推定する.長基線で地電位差観測を行うため,小スケールの複雑な表層不均質の影響を無視し得る,S/N比が増大する,効率的に面的な観測が行える,などの特長を有する(Uyeshima et al., 2001a).
1989年に最初のNMT観測が北海道中東部において行われて以来,1994-1998年度における第7次地震予知計画,及びその後の「地震予知のための新たな観測研究計画」において日本全国的に観測が展開され地電位差データが蓄積された(図20).「新たな観測研究計画」開始以来,ネットワークMT解析ワーキンググループを組織し,時系列解析法の改善,応答関数決定の一次的解析,統一的なコンパイルの促進を図った.昨年度までの解析によって,東北日本(Uyeshima et al., 2001b)や九州において,共通して,島弧の走向に沿って周期1000秒程度より長い周期帯で背弧側に位相の高まりが見られることが確認された.これは,電場が島弧の走向に直交する場合について得られた結果であったが,平行である場合に位相値の高まりが顕著ではないことが明らかとなった(図21上).浅い比抵抗不均質の影響を除去するGroom-Bailey分解(Groom and Bailey, 1989)後の結果を見ても,この位相値の差が検出された(図21下).高位相値は,深い方向に相対的に低比抵抗物質が存在することを示唆し,北海道東部における2次元解析(上嶋ほか,1992,Uyeshima et al., 2001b)から,この周期帯が100km程度以深のマントルウェッジ部分に感度があることがわかっている.簡単な2次元モデルの考察から単純に解釈すれば,ウェッジ部分に大局的な比抵抗の異方性が存在し,電流の流れる方向が島弧に直交する場合に平行な場合より10-100倍程度比抵抗が低いことになる(Uyeshima et al., 2002).Mackwell and Kohlstedt (1990)によって,カンラン石が水を含む場合に結晶軸[100]の方向の比抵抗が他の方向に比べて10-100倍程度低い可能性が指摘されている.従って,比抵抗の異方性が上部マントルの流れの方向を示唆する可能性があり,今後吟味していくべき課題である.2001年度におけるNMT観測(図20)は,昨年度に引き続き,北海道と西日本の各大学研究者を中心として,道北地域,三重県各地において実施された.これらのデータについては,現在そのコンパイルが進行している段階である.
3.2.3. 広帯域MT法(WBMT)観測
WBMT観測においては,広帯域MT観測装置を用いて,数100Hzから数1000秒の帯域で電磁場観測を行い,各電磁場間応答関数から断層などの地殻活動域スケールの精密比抵抗構造を推定する.特に短周期を含む広帯域での連続的な応答関数が求められるため,上部下部地殻の詳細な比抵抗構造が推定し得るという特長を有する.
1998, 1999年にわたって,全国の大学,国立機関の研究者からなる地殻比抵抗研究グループによる電磁気共同観測により,東北地方を東西に横切る測線(奥羽脊梁山地および出羽丘陵)でWBMT観測が実施され(図20),最終的な2次元解析結果をOgawa et al., 2001に掲載した.上部地殻内の微小地震はその低比抵抗体とその上部の高比抵抗体との境界近くに発生していることが明らかとなった.この結果は,低比抵抗が水の存在によるものと仮定して,微小地震の発生にその水が関与していることを示唆する.下部地殻内にも高低比抵抗の分布が見られるが,奥羽脊梁山地の直下の相対的に低比抵抗な領域に地震波の反射面や散乱体が分布するなど,活構造,地震発生域や地震波構造との間に密接な関連が見出された.
2001年度においては,昨年度に引き続いて日高衝突帯の構造解明を目指し,衝突帯西部の大滝村から穂別町にかけてのWBMT電磁気合同観測を行った.2000年度との観測をあわせ,大滝村から浦幌町に至る東西約200kmの測線上(総観測点数のべ35点)での観測が行われたことになる(図20).プレリミナリーな結果ではあるがインヴァージョンによる2次元比抵抗断面が得られ(図22),石狩低地帯下や網走−池田構造線下に低比抵抗部の存在することや,深部での東西方向の比抵抗コントラストが描き出された.
更に,鳥取県西部地震震源域(鳥取県米子市から岡山県神郷町に至る南北約40km)でのべ12点でのWBMT電磁気合同観測を行った(図20).周期1秒から長周期側のデータが人工ノイズに著しく汚染されていたため,人工ノイズ部分を目で判定し統計的にその部分の時系列を補間するという手法でこの解決を試みた.十分ではないが,応答関数の改善が認められ,2次元解析が可能となった.プレリミナリーな解析から,鳥取地震やその余震帯が低高比抵抗の境界近く,低比抵抗体の上側の相対的に高比抵抗部分に位置することが推定された.これは,上述の東北地方と似た描像であるが,今後,さらにノイズ除去法の洗練化や人工電流源を用いた観測を行うことで結果を確固なものにしていく必要がある.
3.3 2000年鳥取県西部地震震源域における合同余震観測
2000年鳥取県西部地震(M7.3)について,京都大学防災研究所および東京大学地震研究所地震予知研究協議会企画部が中心となって,全国大学等で合同地震観測を実施した.本震発生の約1週間後,10月13日から,震源域およびその周囲において70点余の高感度短周期地震観測のデータが得られた(Joint Group for the Dense Aftershock Observation, 2001;2000年鳥取県西部地震合同稠密余震観測グループ,2001).観測は12月初旬まで約1ヶ月半続けられた.震源近傍の稠密観測データによって,詳細な発震機構の分布および3次元速度構造(図23)を得た.この地震の滑り分布は関口他(2002)によって提出されており,地震時の破壊過程と断層面及びその近傍の地震活動・不均質構造との直接的な対比が可能となった.まず,余震分布は,滑り分布の大きい部分に隣接しており,殆ど重なっていない.更に,震源域下部におけるパッチ状の高速度域が存在している.この高速度域は,滑り分布の大きい領域及び余震発生域を取り囲むような分布をしている.更に,この地震に先行した群発地震の発生域は,上述の滑り量分布の小さな場所に対応している(澁谷他,2001).これらの結果は,断層面上の強度不均質を示す重要な結果であり,今後の解析によっては,未だ殆どわかっていない内陸の地震断層における不均質構造とその動的破壊の様式の関係解明の緒を開くことになるかもしれない.また,大学,その他の期間が実施した反射法探査によって,震源域直下の地震波反射面が地域的に異なることが検出されており,上記の速度分布との関連が興味深い。このことに関しては,鳥取県が実施した人工地震による調査結果も公表される予定であり,その結果を加味することによって,更なる研究の進展が期待される.さらに,本震の震源近傍のモホ面付近で低周波地震の発生が検出されており(大見・他,2001),低周波地震,反射面,速度構造と本震発生の関係のより詳細な調査のためにも深部構造調査が必要だと思われる。
3.4 まとめと今後の展望
1997年度以降,各プロジェクトの連携が強まり,その結果,特に陸域については同一のフィールドにおいて多面的な研究が実施されるようになった.北海道における集中実験・観測に関しては,日高衝突帯直下の地震学的構造(足立,2002;足立他,2002),衝突帯前縁部のアクティブテクトニクスの研究について進展があった(加藤他,2002).前者の研究では,日高衝突帯北部においても,地殻剥離の進行を示唆する結果が得られた.千島側地殻が剥離するためには,必ずしもその地殻を構成している物質そのものの強度が低い必要はない.今回得られた結果では,剥離が起きている場所から東側(千島弧側)にほぼ同じ深さに反射面が追跡できる.即ち,千島弧側の地殻は,反射面(弱面?)を使って剥離が進行している可能性がある.また,1999年地震探査とほぼ同じ測線で電磁気学的探査(広帯域MT法観測)が実施されており,得られた比抵抗構造と地震学的構造の統一的な解釈が必要となろう.これにより,特に地殻内反射面の実体に関する知見が深まると期待される.一方,衝突帯前縁部では,衝突運動に関係した多くの地質学的データが集積しており,このようなデータの上に今回の結果が出された.この地域における制御震源データは,2枚の低速度層の存在を強く示唆しており,東北日本弧側地殻の折りたたまれている可能性がある.今後は,このような知見も加味して,より定量的・統一的な地殻変形(短縮変形)の見積もりが必要である.前縁部の変形過程は,日本海側プレート境界での収束運動にも大きく関係しており,北日本のテクトニクスの枠組みを再構築する必要があると思われる.即ち,この観測研究は,プレート内部の地殻変形のみならず,北日本のプレート境界及びプレート運動に関しても拘束条件を与えることになるであろう.
一方,北海道合同観測の自然地震データからは,衝突帯及び周辺域に詳細な構造が求められつつある(村井・他,2001;Murai et al., 2002).特に,既存定常観測網と稠密地震観測網を統合処理することによって,従来は見えていなかったプレート内の地震分布のパターンが明らかとなった(勝俣・他,1999;勝俣・他,2000;勝俣・他,2002).更に,これらのデータに応力テンソルインヴァージョンによって応力場を推定する研究も進められ,沈み込む太平洋プレート内の応力状態に関する知見が深まった.定常的観測網とより目的の明確な稠密臨時地震観測網を組み合わせた研究は,今後の自然地震観測の一つの方向性を示していると言える.また,これらの観測データから観測地域の応力場を推定する試みは,これまで十分に行われていなかった重要項目であり,手法の高度化を図りつつ,より推進すべきものと考える.
鳥取県西部地震震源域における余震観測・制御震源観測においては,断層近傍の不均質構造と地震破壊時のすべり量分布との関係が捉えられた.余震多発領域及び3次元トモグラフィーで得られた高速度域は,地震時のすべり量の比較的大きな領域を取り囲むように存在している.内陸震源断層において断層近傍の不均質構造と,その断層の破壊過程との関連性に関する知見が出されたことは重要であり,内陸震源断層の強度分布に関しての研究の進展が期待される.また,この震源域近傍のモホ面近くでは低周波地震が発生しており,地殻深部・上部マントルにおける流体の存在と地震発生の因果関係の解明も,今後の重要な課題と言える.
電磁気学的探査においては,データの一次的解析,コンパイルが進み,NMT観測からスラブの沈み込みに関連すると思われるいくつかの興味深い構造が明らかになってきた.また,WBMT観測からは,活構造,地震発生域や地震波構造との間に密接な関連を持った,地殻内の詳細な比抵抗不均質構造が得られるようになった(Ogawa et al., 2001).さらに,様々なテクトニック温度圧力条件を持った場で比抵抗構造を解明し,地震波速度構造,減衰構造,さらに,地震発生域や地震発生様式との比較,さらには岩石破壊室内実験からの制約などを総合することによって,地殻内流体の地震発生に及ぼす影響がより明らかになると期待される.今後,陸域での構造決定の精度向上のため,日本周辺海域における海底電磁気観測は非常に重要である.前弧側海域の地下は,まさに水を伴ったスラブが沈み込みを開始する場であり,背弧側海域の地下は,スラブからの脱水が継続(あるいは中止)する場であり,そこでの構造を直接求めることは,スラブの沈み込みによって日本列島下にもたらされる水の性質を調べる上で重要な意味を持つ.また,地震学的情報から非地震すべり領域と反射面との対応が議論されているが,電磁気的にそれがどのように捉えられるかも追求すべき課題であろう.
4. 地震発生の繰り返しの規則性と複雑性に関する研究
4.1 はじめに
地震の繰り返し発生の実態解明は,地震の長期予測,すなわち地震発生確率の推定や強震動予測を行うための基本である.大地震が繰り返し発生する間隔は,数百年から数千年に及ぶ場合が多く,大地震の繰り返しの実態を解明するには,地形・地質学的調査や史料地震調査が重要な役割を果たす.
現在,陸域大地震の長期予測のために,活動間隔や最終活動時期の推定を目的とする活断層調査が地方自治体や産業技術総合研究所によって行われている.しかし,その予測手法の吟味と,予測を単に時期だけでなく震源断層の物理的性質へ拡大することが,長期予測の信頼度を向上させ,的確な強震動予測を実施するために必要である.このため,活断層の地形・地質・地球物理学的調査によって,時期予測の精度および確度の向上や強震動予測に役立つ震源モデルの推定手法の開発を目指している.2001年度は地震時のずれの量の空間分布等について調査を行った.
一方,海域の大地震については系統的な調査体制がなく,地震系列の同定や新たなイベントの発見も重要となっている.歴史地震,津波痕跡,活断層等の調査研究によって,海域地震の発生時予測に貢献するとともに,予測手法の吟味や震源断層の物理的性質の予測へ近づくことを目指している.2001年度は南海地震,東南海地震の発生時予測や,東海地震の歴史時代から先史時代にわたる津波痕跡の調査等を行った.
4.2 地震時のずれの量の空間分布の推定
1999および2000年度の調査により地震時の横ずれ量の検出手法を確立したが,本計画で多数点の調査を行うことは実際上困難である.このため,別の手法を考案する,或いは地方自治体の調査などと協力する,等の必要がある.2001年度には,四国の中央構造線の活断層を対象として新たな手法を開発するとともに,大分県活断層調査研究委員会との協力によって別府湾海底活断層を調査した.
これまでの研究から四国の中央構造線活断層系の ほとんどの区間が中世以降に破壊したことが明らかとなっており,最新イベントに伴う地表の横ずれが畦の屈曲として残されている例がある.そこで,空中 写真の系統的な判読と現地調査・測量により,四国の中央構造線活断層系の最新イベ ントに伴う変位量を復元した(堤・後藤, 2002).まず空中写真判読によって,右ずれを示す段丘崖・河谷 などの地形指標および道路・畦などの人工指標の分布を明らかにした後,現地 でそれらの指標と断層変位地形との関係を検討し,巻き尺を用いた変位量の計測を行った(図24).空中写真判読で認定できた横ずれの最小値は約2mである.四国の中央構造線に沿う約40地点で,最新活動およびそれ以前の地震に伴う横ずれを記録している可能性の高い地形・人工指標を見出すことができた(図25).中央構造線の最新イベントに伴う横ずれの量は断層ごとに大きく異なり,四国東部の父尾断層で求められた約7mが最大で,最小値は四国西部の重信断層や伊予断層で求められた2〜3mである.
なお,2000年度に行った中央構造線活断層系畑野断層でのトレンチ掘削・地層抜き取り調査から,その最新活動時期を今年度検討した結果,歴年に較正すると,1σでAD1520-1630となることがわかった.これまで四国東部の中央構造線活断層系父尾断層では,最新活動が1596年慶長伏見地震にあたる可能性が指摘され,四国中央部から西に分布する断層については,13世紀〜17世紀の歴史時代に活動したとされていた.今回調査した畑野断層は四国中央部に位置するが,AD1520-1630という年代が得られたことから,四国東部から西部まで歴史時代に活動したことが明らかとなった(後藤他, 2002).
別府湾の海底活断層について,大分県地域活断層調査研究委員会と協力して音波探査および,ピストンコアリング調査を行った(東京大学地震研究所[課題番号:0116]).これまで調査結果とを合わせて,別府湾海底の活断層における地震発生の履歴(図26)が明らかとなりつつある.これまで調査が行われた全地点で放射性炭素年代の約800yb前後に最新の地震が発生したことがわかった.暦年補正の結果から,これは1596年慶長の地震(1596年9月1日)によるものと推定される.上下のずれの量は,断層中央部付近で最大となる場合が多いが,端に近いところが最大となる例もある.地震一回分のずれの量の推定には,地震発生履歴が必要で,履歴の確定を待って行う.断層からの距離をx,地震発生後の時間とtとすれば,erf {0.5x(Kt)-1/2 } の形で海底地形が変化するので,これを用いて地震発生時の上下ずれ量を推定することができる.
4.3 南海地震,東南海地震の発生時予測
南海地震の繰り返し発生については,過去の複数の研究から時間予測モデルが適用できるとされている.これらに使われているデータとともに,これまで用いられていなかったデータも含めて多数のデータに基づいて発生時予測を行うとともに,とりまとめの手法を開発した(島崎, 2001a, b).この手法では昭和南海地震発生時の予測誤差によって,採用するデータを選択し,またこの誤差に基づく重みによって,次の地震の発生時を予測する.ややはずれた予測値を除くと,2037.6年の平均値が得られる.東南海地震については十分なデータがないが,南海地震よりやや早めの予測値が得られた.
4.4 1999年台湾地震の地表地震断層の出現予測
台湾中部・車蘢埔断層の空中写真判読を実施し,既存の活断層トレースと1999年台湾地震の地表地震断層の位置を比較してきた(Ota et al., 2001a, b, c; 太田他, 2001).その結果,1999年台湾地震は,現在進めている活断層研究によって発生位置をほぼ予測可能なタイプの地震であったことことが明らかになった.また,地震断層が最も活動的と判断された活断層トレースに沿っては現れなかった例や,断層破壊が南部から進行する可能性が高いと判断される変位地形も確認した(渡辺他, 2002).地表地震断層と既存の活断層との位置が一致しない地域では,何らかの地質的条件(後期中新統の砂岩・頁岩の分布)が関与していると思われるが,これを特定するには至らなかった.
地震被害では断層近傍の壊滅的な被害は突出している.被害が集中した地域は逆断層直上と上盤側の撓曲帯にほぼ一致しており,逆断層運動にともなう撓曲帯を明示することが非常に重要であることが明らかとなった.
4.5 歴史時代・先史時代の東海地震
1998, 11年の浜名湖,2000年の尾鷲市大池(Tsuji et al., 2001)の調査に加えて,2001年度には紀伊長島町諏訪池の調査を行った.その結果,BC500年以後今日までの約2500年間の東海地震の発生が鮮明に検証された.
紀伊半島の三重県紀伊長島町諏訪池の4点で,各長さ3mも湖底堆積層のピストンコア採取を行い,おのおの約9層ほどの津波による外洋砂の薄層を検出した.昨年の大池の結果と同様に,鎌倉時代の津波,平安時代の1096年嘉保東海地震,および684年白鳳南海地震にペアをなす東海地震のものとおぼしき津波痕跡のほか,BC3800年頃,BC500年ころの津波痕跡を検出した(都司他, 2002a).
4.6 北海道太平洋岸の津波痕跡調査
北海道十勝海岸において,海食崖上の海成砂層や段丘上の浅い谷筋の砂の堆積層,17世紀以後に生じた中規模の津波の痕跡と見られる,ラグーン(潟湖)と太平洋を分ける砂州に残された4層からなる砂層,アースハンモック(周氷河地形)が津波によってはぎとられ手形成された巨大泥偽礫から,過去の津波の痕跡が検証された(平川・原口, 2001; 平川・中村, 2001; Hirakawa et al., 2002).
また,北海道江差地方海岸について,寛保元年(1741)渡島大島の噴火にともなう津波の史料的調査を行い,成果をまとめた(都司他, 2002b).
4.7 歴史地震調査
内陸に発生した歴史地震の発生機構,活断層との関係,繰り返し周期性などを解明するため,史料収集および事象別の詳細データベースを構築することを目指している.2001年度は,近畿地方中部におきた1854年安政伊賀上野地震の事象別データベースを作成し,その地震を発生させた活断層について考察した(都司, 2002; 中村, 2001).1855年安政江戸地震,および宮城県沖地震系列の一連の歴史地震(都司, 2001)についても詳細震度分布を得た.また,史料の乏しい時代の地震記載の文献の性質や欠落時期の推定や被害の実態調査を行った(田中・小山, 2001; 中村・笠原, 2001; 西山, 2001; 都司・上田, 2001).
4.8 まとめと展望
地震一回分のずれの量の空間分布が明らかになりつつある.今後は統計処理を行って,トレンチ調査などによって得られるずれの量の解釈に利用する等の実用的な成果とともに,アスペリティーなどの強震動予測に必要な断層モデルの構築を目指す必要がある.また時間予測モデルの適用により南海地震,東南海地震の発生時予測が行われ,地震調査委員会の長期予測に貢献することができた.一方,東海地震については,過去の履歴が明らかになりつつある.また,北海道太平洋岸の津波痕跡についても調査が進んでいる.これらについては,多くの調査地から得られた結果を総合して,津波の発生履歴を明らかにする必要がある.さらに,台湾地震の調査からは逆断層による撓曲帯が被災域となる可能性が指摘された.地震史料調査は一部断片的ではあるものの,着実に進んでいる.
5. まとめと展望
定常的な広域地殻活動部会が推進してきたプレート境界域の地殻活動及び構造不均質については大きな進展が見られた.特に,三陸沖においては,アスペリティーの場所は空間的にほぼ固定されており,そこでの応力集中のメカニズムの解明(即ちアスペリティー周辺の非地震性すべりによる応力集中)が進展したことは大きな成果である.三陸沖プレート境界の反射強度と自然地震活動との間には負の相関があることが強く示唆されており,構造探査からプレート間カップリングの強度を推定できる可能性がより強くなった.更に,詳細な構造探査によって,流体が関与すると考えられる低速度体の存在も明らかになってきた.流体はカップリング強度を支配する重要な要因と考えられる.したがって,三陸沖の海底観測及び東北太平洋側のGPS,地震観測を組み合わせた研究形態は,プレート間カップリング解明に極めて効果的であったと言える.今後とも,構造探査によってこの領域のプレート境界から地震波反射効率を明らかにすることや,本震の震源の再検討などが今後の重要な研究課題である.また,三陸沖におけるプレート境界面の反射特性,アスペリティー分布とすべり域の相補的関係が,日向灘や房総沖においても成立するのかどうか検証する必要がある.地震学的観測からプレート境界の物性,さらに物質とその状態の特定は非常に難しい課題であるが,実験岩石学の結果と地震学的結果の総合的解釈が必要となろう.また,海底ケーブル式システムを含む長時間地震観測システムや海底地殻変動観測システムは,研究の進展に欠かせない.
また,西南日本におけるプレート境界不均質構造については,海域構造探査や海陸共同構造探査によって大きく進展した.特に,陸域側(東海地域・紀伊半島・四国)では,プレート境界からの強い反射波が観測されている.これらのデータを詳細に検討することによって,プレート境界の物性及びその空間的不均質性に関して新しい知見が得られるものと期待される.上記の領域は,島弧下に沈み込むプレート境界を研究する格好の場であることが判明した.適当な観測フィールドを設定し,地震・地殻変動を組み合わせた観測を行うことにより,単にプレート境界の構造だけでなく,そのすべり特性等についての理解が進展し,プレート境界の摩擦構成則に対する重要拘束条件を与える可能性がある.
一方,プレート内部の地殻活動及び構造不均質に関する研究においては,島弧下の様々な空間スケールの構造が求められた.日高衝突帯においては,島弧—島弧衝突による地殻変形様式が明らかになりつつある.千島弧側地殻の剥離に関しても,地殻内反射面が重要な役割(強度低下)を果たしている可能性が出てきた.また,屈折法・反射法を組み合わせた探査形態を取ることによって,衝突帯前縁部の詳細な構造が解明され,地質学的調査結果と合わせて,同地域の地殻圧縮のプロセスも明らかにされつつある.これは,北日本におけるプレート収束運動を考える上でも重要である.鳥取県西部震源域の余震観測により,余震分布・速度不均質構造と地震時のすべり量分布の関係に関して,新しい知見が得られた.即ち,余震の多発域・地震波高速度異常域では,地震時のすべり量が小さい.地震破壊過程が十分わかっている震源断層において,制御震源・自然地震観測を実施することは,その断層の強度分布を知る上で,有効な手段となると思われる.しかしながら,上記のような結果を総合し,島弧内に発生する内陸地震の発生様式を統一的に理解する道筋はまだ得られていない.
電磁気学的探査においては,スラブの沈み込みに関連する構造や,地殻内の詳細な比抵抗不均質構造が得られるようになった(Ogawa et al., 2001).今後も,様々なテクトニック温度圧力条件を持った場で比抵抗構造を解明し,地震波速度構造,減衰構造,さらに,地震発生域や地震発生様式との比較,さらには岩石破壊室内実験からの制約などを総合することによって,地殻内流体の地震発生に及ぼす影響がより明らかになると期待される.また,地震学的情報から非地震すべり領域と反射面との対応が議論されているが,電磁気的にそれがどのように捉えられるかも追求すべき課題であろう.
地震発生の繰り返しの規則性と複雑性に関する研究においては,地震一回分についてのずれの量の空間分布が明らかになりつつある.今後は統計処理を行って,トレンチ調査などによって得られるずれの量の解釈に利用する等の実用的な成果とともに,アスペリティーなどの強震動予測に必要な断層モデルの構築を目指す必要があろう.
以上述べたような成果は,プレート境界地震及び内陸地震の発生予測モデル構築において,想定断層面の形状や摩擦構成則,断層を取り巻く場の不均質性に関して重要な拘束条件を与えるものと考えられる.今後,このような予測モデル構築に大きく貢献するためには,以下の点が考慮されなければならない.
(1)地殻活動の発生メカニズム及びその原因である地殻内応力の蓄積過程についての研究を,一層推進する必要がある.この点について,プレート境界においては,大きく進展した.プレート内部については,たとえば日高衝突帯において不均質構造と地殻変形過様式の関係が見え始め,また,特に沈み込む太平洋プレート内の応力状態についての知見が得られるようになった.また,鳥取県西部地震において,破壊過程と構造不均質の関係がわかってきた.
(2)定常的な広域地殻活動の研究成果をより効率的に地震発生モデルに結びつけるには,モデリング・シミュレーション分野の研究者グループとの連携体制を確立・強化する必要があろう.例えば,定常的な広域地殻活動分野として重要な成果をモデリンググループに提供するだけでなく,シミュレーションから期待される変動や活動を検証する研究,即ち,仮説検証型の研究があってよい.
(3)大学間・研究者間の連携を強化し,大規模実験・観測等についての共同研究の体制を充実・発展させる.共同研究の枠組みについては,分野(観測項目)間での調整を行い,より効率的で成果のあがる体制を作ることが必要である.このような共同研究と,各大学・機関が実施する研究の間の調整と連携も必要である.
(4)大学以外の機関が実施するプロジェクトとの関係を明確にする必要がある.まず,大学が本地震予知研究計画の中で実施する研究の特徴,独自性を明らかにする必要がある.また,一方で,研究の一層の進展と効率化を図るためには,他機関プロジェクトとの連携や共同研究等の可能性も検討すべきであろう.2001年度からは,海洋科学技術センターと大学の間での共同研究(連携研究)の体制ができ,海陸共同構造探査が実施された.
(5)大学の微小地震観測網はプレートの形状やその地震学的構造の解明に大きく貢献してきた.更にHinetによって定常的地震観測網が充実してきた.このような状況の下で,大学の観測網とHinetと組み合わせた研究や定常的観測網と機動的高密度観測を組み合わせた研究を推進することによって,本部会の推進する課題の解明に大きく貢献できると考える.
第2節の参考文献
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図の説明
図1.1996年に行った地震地震探査の続報.矢印で示した測線3に沿った反射面のマッピング.海底地震計06〜25と26の間の下にはプレート境界の反射面が認められ,そこ(39゜15´N付近)では地震活動が低い.
図2. 2001年度の地震計配置とエアガン測線.
図3.測線3上の海底地震計16に対する記録断面と藤江ほか(2000)の構造に対する理論走時.
図4.測線4上の地震計21に対し,測線1(左上)〜測線7(右下)上のエアガン爆破に対する記録断面.縦軸は8km/sで補正した走時.横軸は地震計からの距離.矢印はプレート境界からの反射と推定される波群.この場所では地震計に対し南北(-50km〜50km)に反射の強い場所がある.
図5.測線4上の地震計20に対し,測線1(左上)〜測線7(右下)上のエアガン爆破に対する記録断面.
図6.測線4上の地震計19に対し,測線1(左上)〜測線7(右下)上のエアガン爆破に対する記録断面.
図7. 2000年の観測結果.沈み込み境界面付近の地震活動が確認できるが,海洋プレート内か或いはプレート境界であるのか判断は難しい.星印は1994年の三陸はるか沖地震の本震位置.
図8. 1994年三陸はるか沖地震の余震域(Hino et al., 2001)と2000年の観測結果の比較.星印は1994年の三陸はるか沖地震の本震位置.この周辺の地震活動度は1994年,2000年とも低い.
図9.東海・中部日本構造探査測線図.
図10.測線南端部のショット(J5)の記録.
図11.これまでの解析から得られた地殻構造断面.
図12.低重合反射断面.
図13.東海地域深部地質解釈断面図.
図14. 1999-2000年北海道日高衝突帯における総合的観測研究における観測点配置図.1999年の屈折法探査は,L-1〜L-6間で,2000年の屈折法探査は,L-1~S-4間で実施された.一方,反射法地震探査は,1999年にL-4~M-5間で,2000年にS-2~S-4間で実施された.更に,1998年には,岩崎他(2001)によって,L-3~L-4間でも反射法地震探査が行われている.
図15.日高衝突帯直下の速度構造図.
図16.日高衝突帯における反射断面図(Migration後).
図17.日高衝突帯前縁における浅層反射法地震探査結果.(a)調査地域および反射法地震探査測線.(b)浅層反射法地震探査(馬追2000)深度変換断面.(c)馬追丘陵の隆起速度.丘陵軸部では地層が削剥されているため,数値に幅が生ずるが3.5Ma以降の平均では年0.3-0.6mm程度の隆起速度が推定される.道路公団の浅層ボーリング資料からは,8万年以降の最小値として0.6mm/年の値が得られる.(d)主衝上断層の水平短縮速度.バランス断面図による解析では,馬追丘陵は3条の衝上断層のスタックによって構成されており,約10kmの水平短縮が達成されている.地層の年代から推定した最も東側の断層の開始時期は10.5Ma以降であるから,最低約1mmの水平短縮が推定される.隆起速度と主断層の傾斜から推定される水平短縮速度は年3.5mmとなる.
図18.(a)観測点配置.陸域観測点(白抜き菱形),アナログ海底地震計(●),デジタル海底地震計(■).(b)深さ15kmにおけるP波速度.赤い領域ほど速度が遅く,青い領域ほど速度が速いことを示す.★は1982年浦河沖地震の震央,それを囲む実線は余震域である.1999〜2001年の臨時観測で決定された地震の震央(○)と圧縮軸の向きも示した.(c)図1(b)の線ABの断面.1982年浦河沖地震の震央(★)と余震域(灰色太線)を示した.深さ60km付近の黒実線は太平洋プレート上面の位置である.(d)AB断面の解釈図.
図19.(a) 1999年8月から2001年6月までに観測された深さ80〜95kmの地震の震央分布.A断面を(c)に,B断面を(d)に示す.(b)二重深発地震面までの深さを20km間隔の等深度線で示す.赤が上面,緑が下面.(c)図2(a)のAの線から両側に15kmの幅を取って作成した断面図.矢印が十勝沖断裂帯に沿う地震活動を示す.赤線と緑線は二重深発地震面の上面と下面を示す.(d)図2(a)のBの断面.幅はA断面と同じである.
図20.平成13年度における電磁気観測点の分布.三重,道北においてNMT移動観測を実施した.図では,今年度までに測定されたすべてのNMTダイポールを細線で示している.長四角で囲まれた測線は,WBMT観測測線を示し,平成13年度は,日高衝突帯西部および鳥取県西部地震断層域で観測が実施された.
図21.九州における電場が東西(上左),南北(上右)方向に変化するインピーダンス位相の分布.周期64分.暖色ほど,地下に低比抵抗体が存在することを示す.下には,インピーダンスをGB分解して得られた2次元主軸方向と,その方向の位相の値の分布を示す.薄く示されているのは分解を通じて2次元性が成立していないと判断されたもの.
図22.日高衝突帯広帯域MT観測データの解析によって得られた2次元比抵抗断面.暖色ほど低比抵抗を示す.
図23.断層面上のP波速度分布及び本震時の滑り量分布.
震源断層に沿う断面でのP 波速度の分布を示す(Shibutani et al. 2002).初期モデルにおける上部地殻のP 波速度は6.0〜6.1km/s であるから,震源断層近傍に数%の高速度異常域がパッチ状に分布しているのを見ることができる.図2 には,本震時のすべり分布(関口・岩田,2001)のコンターを重ねて示してある.大きなすべりがあった領域は,上述の高速度異常パッチの間に分布し(ており,本震時のすべりがこれらの高速度異常パッチにガイドされるように起こった可能性を示唆するものである.
図24.道路に見られる右横ずれ(堤・後藤, 2002)
図25.四国中央構造線活断層系における右横ずれ変位(上部:堤・後藤, 2002)と最新活動時期(後藤他, 2001)
図26.別府湾海底断層の地震履歴(暫定版)(岡村他,準備中).