新たな研究分野の参画② 社会科学分野 地震・火山観測研究成果の見える化により社会実装に貢献

防災科学技術研究所理事長
林 春男(はやし はるお)

地震予知研究は、阪神・淡路大震災が発生し、防災を意識した予知研究の必要性が高まってきたことから大きく方向転換し、地震災害や火山災害の軽減を進めるための計画に変わってきました。具体的には、これまでの研究に歴史地震と社会科学を加えて互いに連携することを目指しています。観測をベースにした質の高い地震防災の実現は、まさに国是と言えるほど重要なものです。

これからの地震・火山学が目指していくべきことは、社会に対して質の高いリスクコミュニケーションを行うことだと思います。下の図では、リスクコミュニケーションを「観測」「モデル化」「可視化」「配信」「行動」という五つの構成要素に分けています。それぞれの処理能力を上げるという考え方が望ましいでしょう。

出発点となる「観測」で地殻のいろいろな動きを精度良く観測し、それを「モデル化」によって理解する。その理解を皆さんに分かりやすい情報プロダクツとして「可視化」します。次に様々な方法でユーザーに情報を「配信」し、最後は住民の皆さんに適切な「行動」を起こしてもらうということです。

これら五つの要素がきちんと機能することによって、最初の観測値が速やかに行動につながる道筋をつくる必要があります。ここで情報をプロダクツと呼んでいるのは、各人がそれぞれの考えで発信するのではなく、明確な目的に対して誰もが同様の形式で発信できる、規格化された情報を出す必要があると考えたからです。その質を担保するのが地震学、火山学の研究者ですから、発表する情報プロダクツには責任を持つ必要があります。

今世紀と22世紀の双方の防災を見据えた研究を推進

現在の地震予知研究における最大のニーズは、次の南海トラフ地震にどう備えるかということです。この災害はおよそ100年に1回の割合で日本を襲っていて、前回は1940年代に発生しました。この時発生した地震は予知研究を進めるための大きなチャンスでしたが、ちょうど太平洋戦争という国家の非常事態下にあったため十分に研究できず、100年に1回の機会を逃してしまったのです。

近い将来に発生が予想される南海トラフ地震について、何が起こり、どのような破壊につながるのかを知るための研究をサポートしていきたいと思います。22世紀には今世紀以上に巨大地震災害が発生する恐れがあると予測されています。私たちは比較的平穏であるとされる今世紀に詳細な観測を行い、その成果を22世紀の防災に役立てることが最大の使命です。

もちろん、今世紀の被害を最小限に抑えることも重要な使命ですので、双方を満たすようなメリハリのある研究が進められることを願っています。そして、本当の意味で防災に役立つ地震、火山研究をどう実現するかという課題の解決に協力することが、私たちの役割だと考えています。

地震・火山予知研究に貢献する社会科学の役割

新潟大学危機管理室教授
田村 圭子(たむら けいこ)

「地震・火山研究」と「社会の要請」とは必ずしも合致しません。しかし、効果的な災害対応を実現するためには、理学の知見を科学的根拠として、防災施策展開を実施することが、防災・減災対策には必須です。リスクコミュニケーション技術で、地震・火山研究コミュニティーと社会を結びます。

質の高いリスクコミュニケーションの構成要素