新たな研究分野の参画① 歴史地震分野 歴史学で過去のハザードと災害を知り、予知に貢献

東京大学名誉教授 保立道久東京大学名誉教授
保立 道久(ほたて みちひさ)

2011年の東日本大震災に際して、地震学はそれを予知できなかったかのように指弾されました。強い責任を感じている地震学者は言いづらいようですが、それは事実ではありません。例えば、2007年に刊行された『地震予知の科学』(日本地震学会)には津波堆積物の調査によって東北で500年に1度程度、超巨大地震が起きることが分かったと記されていました。

その他、地震学者は歴史史料を読んで、過去に日本で巨大地震が半ば周期的に発生していることを明らかにしてきました。例えば、下の図には13世紀の南海トラフ巨大地震が描かれていませんが、石橋克彦(神戸大学名誉教授)は1245年に起きた可能性を指摘しており、その蓋然性は高い(史学会編『災害・環境から戦争を読む』(山川出版社, 2015)所収の保立論文参照)。この種の研究課題がさらに多数あります。こうした「予知」は、何年何月という予測ではありません。このような史料から読み解ける知見を、社会の財産として、今後ますます「次の災害への備え」に活用することが重要です。

災害の様相を知りそれに備えるための歴史学

私もこのプロジェクトに参加する前には、歴史学と地震学との接点を深く考えてはきませんでした。今回のプロジェクトに関わる人々の多くは、早くから歴史災害の研究に取り組んできました。彼らの動きによって大きなうねりが生まれ、本プロジェクトを契機に、さらに歴史地震分野が観測計画の中で位置づけられるようになりました。本計画の中では次の3点の実施を目標にして、さらに展開をしていきます。

第一は過去の災害資料の収集と徹底的な校訂・解釈の仕事の積み重ねです。史料に記された地震や火山噴火を歴史学者が読み解き、地震学・火山学へ組織的に提供することが課題です。

第二に、地震・噴火などは自然現象ですが、それによって起こる災害は社会現象です。社会が災害に対して、どのような脆弱性を持っているか、それがなぜ生まれたかを歴史の中で一貫して研究する必要があります。そういう観点から歴史学は防災学・災害科学と協力していくことになるでしょう。

第三に大きいのは、このプロジェクトが地震学と歴史学の2分野(文献史学・考古学)の間で行われる文理融合研究であることです。このような例は少なく、歴史学にとって大変にありがたいことです。

今回の研究計画が、このような視野を持った若い研究者の成長の場となり、将来新たな研究組織をつくっていく基礎になることを期待しています。

史料・考古データから過去の地震・火山噴火を推定

大東文化大学文学部教授 宮瀧交二大東文化大学文学部教授
宮瀧 交二(みやたき こうじ)

地震や火山噴火の痕跡は考古学的な調査・研究でも見つかっています。これらの痕跡を古文書の内容と照らし合わせることによって、歴史的な地震や火山噴火をより詳しく知ることができれば、地震や火山噴火の予測の精度を改善することができます。

東海・南海地震と関東地震の時空間分布

  • 石橋克彦『南海トラフ巨大地震――歴史・科学・社会』(岩波書店,2014)の図2-22を転載。