地震観測研究の歩み:これまでの流れ 豊かな国土を襲った東日本大震災—教訓に基づく新しい研究枠組み—

プレートテクトニクス理論という、今では高校の教科書にも載っている学説があります。地球上を覆っている十数枚の大きな岩盤であるプレートが、水平方向に動くことによって力を及ぼして山や海を作ったりする、というものです。この力が地下の岩石に加わり、それがずれるように破壊されることが地震です。この説が発表されたのは1960年ごろで、当時の日本では一部の研究者には理解されていたものの、広く受け入れられてはいませんでした。

1960年代に大きく進むきっかけがあった地震予知研究

この時代に地震予知研究が大きく進むきっかけがありました。1962年に地震学会の有志によって発表された「地震予知 現状と推進計画(通称「ブループリント」)」です。国内外に大きな影響を与え、測地学審議会が建議した「地震予知研究計画」が1965年から国家プロジェクトとして進められることになりました。そして1999年3月まで、第1次から第7次まで、5カ年ごとに続きました(第2次以降の名称は「地震予知計画」)。

第7次計画の間の1995年1月に発生したのが、阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震です。この地震のマグニチュードは7.3で、前兆現象は基本的に見られませんでした。

この地震の結果、二つのことが起きました。

一つは、地震発生からわずか5 カ月後の1995年6月に地震防災対策特別措置法が成立したことです。それに基づいて地震調査研究推進本部が発足し、国が地震防災に関する調査・研究を一元的にまとめるための組織となりました。予知をする、しないにかかわらず、地震に関する調査をして得られた知識を国として収集して、それを地震の防災に役立てていくということです。

もう一つは、もともと地震予知の研究をしてきた地震学という学術領域の動きです。結局よく分かったことは、地震の前兆現象だけを探していたのでは地震予知はできないので、もう一歩基礎研究に立ち戻ることにしたのです。つまり、そもそも地震はどういった過程を経て起きるのか、大きな地震が起きて次の地震が起きるまでの全過程を解明するという方針に変えたのです。

地震観測研究のこれまでの流れ

1960年
ごろ

プレートテクトニクス理論が提唱され始める。

1962年
1月

地震学会の有志によって「地震予知 現状と推進計画(通称「ブループリント」)」が発表される。

1965年
4月

「地震予知研究計画」が国家プロジェクトとして進められることに。以後1999年3月まで、第1次から第7次まで、5カ年ごとに実施される(第2次以降の名称は「地震予知計画」)。

1995年
6月

阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震の発生を受けて、地震防災対策特別措置法が成立。

2014年
4月

東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震の発生を受けて、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」ができる。

火山噴火予知研究と補完し合い連携して研究する体制に

東京大学地震研究所教授 森田裕一東京大学地震研究所教授 平田 直(ひらた なおし)

そうした動きのなか、第7次地震予知計画が見直され、名称が「地震予知のための新たな観測研究計画」に改められました。地震予知そのものから、それを実現するための観測と研究を行うということで、ある意味で一歩、基礎研究寄りになったわけです。それまでの地震予知計画では、地震予知を実現するためのロードマップを、振り返ってみれば「なんとなく」描いていました。しかし、兵庫県南部地震発生後、地震発生に至る過程について解明されていない部分がかなり多いことが分かりました。

そこで、前述のように地震発生直前の前兆現象だけでなく、地震発生の全過程、とりわけ地震発生に至る準備過程の研究が必要とされました。これは非常に多くの研究者の賛同を得て、1999年に新しい計画が進められることになったのです。これが「地震予知のための新たな観測研究計画」です。

2004年からは「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」が2009年まで続けられ、その後、火山噴火予知研究と統合された観測研究計画として、「地震及び火山噴火予知のための観測研究」が始まりました。これにより、地震予知研究と火山噴火予知研究が互いに補完し、連携して研究を進める体制となったのです。

「災害の軽減に貢献」が目標に据えられる

その後、2011年に東北地方太平洋沖地震が発生し、災害の軽減に貢献することを究極の目標として研究計画を立案することになり、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究」という計画ができました。

従来と大きく変わったのは、この計画名が示すように、災害の軽減を強く意識して、それに役立てるために地震や火山噴火による災害誘因の発生時期や規模を予測する研究を進めようということです。そこで、「地震・火山現象の理解」「地震・火山噴火の予測」「地震・火山噴火による災害誘因の予測」という、三つの研究の大きな柱を立てました。

災害誘因は、英語で言うハザードです。災害には、災害を起こす素因と誘因があります。災害素因は、人口や建物などがどれだけ集積しているかを示す曝露量、インフラや建造物の脆弱性(非耐震性)、そして災害からの社会の回復力の三つから構成されています。災害誘因は、災害をもたらす原因のことで、自然災害の誘因として地震動や火山噴出物などがあります。災害誘因の予測の研究と同時に、災害素因を見直して、災害に負けない社会にしようということです。

このような地震・火山観測研究が文部科学省科学技術・学術審議会で建議された計画に基づいて実施されていることは意義深いことです。本来、研究というものは研究者の自由な発想に基づいてなされることで大きく進むものです。しかし、同時に、「災害を軽減する」という社会的目標に向かって研究者の求心力を保持するためには、国の審議会が建議することは重要な仕掛けと言えます。

災害誘因と災害素因の関係