課題番号:1204
東北大学
地震波を用いた解析に基づく地殻構造と地震・火山活動の関係の解明
地震発生や火山形成過程を理解する上で重要である日本列島下の地殻について、地震波形を用いた解析により、モホ面などの地震波速度不連続面の形状や上部・下部地殻の三次元地震波速度構造に加え、短波長不均質構造の詳細な空間分布を高精度で推定する。得られた結果を基に、地震活動や火山分布と地殻不均質構造の関連性、および火山性流体の分布を明らかにする。
平成21年度は、ランダム媒質における短周期地震波動伝播の数理的基礎の構築、および東北日本・紀伊半島における地殻不均質構造の推定を行う。数理的基礎の構築では、1Hz以上の高周波数地震波のエンベロープに着目し、自由表面を持つランダム媒質におけるベクトル弾性波のエンベロープの理論導出、PS変換散乱を考慮した輻射伝達理論に基づく、強いランダム不均質媒質におけるエネルギー多重散乱モデルの構築、などを行う。また、日本列島の地殻内の三次元地震波速度構造を推定し、火山や地殻活動と地殻内不均質構造の関係を考察する。特に、和歌山県下の群発地震活動などの特異な地殻活動と不均質構造の関係を明らかにする。さらに、火山体における人工地震や自然地震の記録の収集および予備解析、地震波形記録の収集・処理などを行い次年度以降の解析のための手法およびデータセットを作成する。
平成22年度は、Hi-netデータの解析に基づき、短周期S波の散乱と内部減衰の地域性を明らかにする。また、地震波形からモホ面での反射波や変換波を見出し、直達波と反射波/変換波との走時差を読み取る。
平成23年度は、冪乗型スペクトルを持つランダム弾性媒質における最大振幅遅延・最大振幅減衰を統計パラメータのみで記述し、S波エンベロープの解析から日本列島における短波長不均質構造及び内部減衰構造の空間分布を推定するインバージョン手法を開発する。また、sP depth phaseを用いたトモグラフィを行い、太平洋下の速度構造の空間分解能を向上させる。モホ面での反射波/変換波の走時差データをインバージョンし、モホ面の形状を推定する。
平成24年度は、前年度に開発した手法を実データへ適用し、日本列島における不均質構造及び内部減衰構造の空間分布を明らかにする。また、火山体における人工地震や自然地震の記録を解析し、輻射伝達理論に基づく散乱係数を推定する。さらに、後続波の走時データを用いて、速度トモグラフィにより地殻(特に下部地殻)の詳細な速度構造を推定する。
平成25年度は、これまでに得られた結果を総合的に解釈し、日本列島における第四紀火山の分布や地震活動と地殻・最上部マントルの不均質構造の関係および火山体における不均質構造と火山性流体の分布・挙動との関係を明らかにする。
1. 微小地震S波波形の最大振幅遅延時間は周波数と伝播距離に依存するが,特に短波長ではランダム不均質構造による多重前方散乱の効果と考えることが出来る.Sato and Korn (2008)はランダム不均質媒質中のエンベロープ形成の数理論を構築した.
2. Takahashi et al. (2008)は,インバージョン解析によって速度不均質のスペクトルを逆推定するアルゴリズムを構築した.さらに,Takahashi et al. (2009)はこのインバージョン法を微小地震S波データに適用し,東北地方におけるランダムな速度不均質のスペクトルの地域性を明らかにした.得られた結果は,第四紀火山の下では特に散乱が強いことを示している(図1).
3. 短周期地震波の減衰は不均質構造による散乱と内部減衰に起因する.Hi-netで記録された浅い近地地震のS波をMLTWA法により解析し,日本全国の減衰分布図を作成した(図2)(Carcole and Sato, 2010). MLTWA法とは,不均質構造における多重等方散乱を仮定して,直達波のエネルギーとコーダ波部分のエネルギーとの分配比から散乱減衰と内部減衰を定量的に求める方法である.
4. 2006年度に実施された浅間山人工地震構造探査における稠密観測記録を用いて高周波エネルギーの時空間分布を解析し,散乱パラメータの定量化を行った(Yamamoto and Sato, 2010).人工震源からのP波エネルギーが火山浅部の短波長不均質によりS波エネルギーに変換され多重散乱していることを示している.火山下では不均質が強く,S波の平均自由行程は8-16Hz帯で約1kmと短い(図3).
5. 日本海下で発生した浅発地震145個からsP depth phase を読み取り,震源の深さを精度よく決定した.次いで,その地震を含む2,883個の地震を用いて,地震波速度トモグラフィにより詳細なP波速度構造を推定した(Huang et al., 2010).その結果,日本海沿岸の地殻と最上部マントルには顕著な低速度域が存在し,過去の大地震はその周囲多く発生していることが明らかになった(図4).
6. 基盤地震観測網で得られた多量かつ高品質の地震波形データを用いて,紀伊半島周辺の三次元地震波速度・減衰構造を推定した.和歌山群発地震直下から大阪湾にかけての下部~上部地殻に地震は低速度・高減衰域が存在し,群発地震はその上端付近で,大阪湾周辺の低周波地震はその下端で発生しているという特徴がある(図5).
7. 直達波に加え浅発地震のモホ面での反射波(PmP)の走時データを用いて,四国下の三次元地震波速度構造を推定した結果,中央構造線下の下部地殻に顕著な低速度域が見いだされた.
・ランダム不均質構造における短周期地震波動の伝播について統計数理的研究を行う.特に,自由表面,速度境界の与える影響を定量的に考察する.
・S波エンベロープのインバージョン解析に基づいて,西南日本や北部伊豆小笠原における不均質構造スペクトルの空間分布を推定し,速度構造や地震テクトニクスとの関連を解明する.
・火山体浅部不均質場における地震波エネルギー伝播の数値モデリングを行い,輻射伝達解との比較を行う.
・予備成果を得ている近畿地方の減衰構造を高度化し,和歌山群発地震や大阪湾の低周波地震の発生原因を考察する.
・三次元地震波速度構造を用いた震源決定により,日本列島下の地震発生層の下限のマップを作成する.
・中央構造線周辺の詳細な三次元地震波速度構図を推定する.
佐藤春夫・趙大鵬・西村太志・岡田知己・山本希・中島淳一・他
有
海洋研究開発機構:高橋努