課題番号:1213
東北大学
機動的多項目観測による火山爆発機構の研究
本研究課題では,繰り返し噴火を引き起こす火山において,地震,地殻変動,空気振動などの地球物理学的観測と火山ガスや火砕噴出物などの収集を行い,それらのデータ解析や物質科学的分析を行う.具体的には,以下の目標を掲げる.
1.火山噴火現象を定量的に記録する.また,爆発性や火砕流発生の状況をデータの特徴で整理し,火道内過程と噴火様式や規模との関連性を多量のデータをもとに明らかにする.
2.マグマ上昇モデルや噴火モデルと観測データと比較を行うことで,火道内および火口極浅部のマグマ内揮発性物質の挙動の定量化を行う.
3.測定された揮発性成分の挙動と,定量化された火山の爆発性や様式を比較することにより,火山噴火を支配する要因を明らかにする.
本課題で行う観測項目とその目的は以下の通りである.
(1) 広帯域地震観測と解析.噴火発生時の火道浅部の力系の推定.
(2) 地殻変動観測と解析.火道内増圧過程の時空間分布推定.噴出量推定.
(3) 空気振動観測と解析.爆発圧力の時間変化測定.
(4) 噴出物収集と分析.噴出物特性の測定.噴出量推定.
(5) 火山ガス観測と分析.噴火前後の火山ガス放出量,火山ガス起源の推定.
平成21~23年度は鹿児島県諏訪之瀬島において,平成24~25年度はインドネシア・スメル火山において観測を実施し,得られたデータ解析結果をもとに,噴火活動の定量化を行い,噴火規模や様式,支配要因を調べる.
・ 平成21年度においては,鹿児島県諏訪之瀬島において,ボアホール型傾斜計を6地点に設置し,現地収録方式でデータの取得を開始し,データ解析を行う.現在,京都大学防災研等により展開されている広帯域地震計および空振計のメンテナンスを行い,データを収録する.GPS受信機を設置し,連続観測を開始する.火山ガスの遠隔モニタリングの臨時観測を実施する.また,噴火時の噴出物サンプルを可能な限り収集する.
・ 平成22年度においては,諏訪之瀬島で傾斜観測およびそのデータ解析を継続するとともに,火山性地震の発生機構を明らかにするため臨時地震観測を実施する.空振観測,火山ガス観測,噴出物サンプリングも前年度に引き続き実施し,それぞれデータ解析を行う.
・ 平成23年度においては,上記観測を秋まで継続する.約2年間の多項目データの解析結果をまとめ,諏訪之瀬島火山の噴火活動を定量化する.
・ 平成24年度および25年度においては,インドネシア・スメル山において,地殻変動観測,地震観測などを実施し,データを解析する.スメル山の噴火活動を定量化し,諏訪之瀬島などの火山における解析結果と比較することにより,噴火規模や様式,支配要因を調べる.
平成21年度は,おもに,鹿児島県諏訪之瀬島における臨時観測点の立ち上げ,既存観測網やこれまでに得られている火山噴火に関連した観測データの解析を実施した.
諏訪之瀬島では,孔井傾斜観測の開始,既存の7地点の広帯域地震観測点の維持と更新,音波と映像の同時観測,山腹における2点のGPS観測の開始,InSARによる山体膨脹検出精度向上させるための人工散乱体の設置,噴出物のサンプリング(数ヶ月に1回)を行った.火山ガス遠隔モニタリングは,他の観測項目の開始などとのスケジュール調整などのため,来年度に実施することとなった.孔井式の傾斜観測は,孔井(深さ約4m)を火口から1km程度の範囲内に南麓と西麓に6地点掘削した.本年度は火口から南の約350mから1 kmに位置する3つの孔井に傾斜計を設置し,9月末より現地での傾斜変動の連続記録を開始した.残りの3点は,機器の手配の都合から来年度早々に設置することとなった.これまでの観測により小爆発・小噴火に前駆する山体膨脹を20イベント以上記録することに成功した.山体膨脹は,噴火約1分前から始まり,火山性微動の静穏化に伴い発生していることが明かとなった.S/N比を挙げるために20イベントの傾斜変動を重合し,平均的な傾斜量を求めたところ,火口から約350mのT4観測点で12 nano radian, 約750mのT2点で8 nano radian, 約1000mのT1点で数 nano radian となった. 火口内の映像と噴気及び噴火に伴う音波の同時観測を9月に1週間ほど実施した.降灰による劣悪な環境の中,9月13日17時15分頃の小爆発の映像と音波を収録することに成功した.音波は100~200 Hzの信号が卓越し,0.5秒ほどかけて振幅が最大となりその後緩やかに減衰し,高周波の音波になるほど出現が遅いことが明かとなった.この音波を噴流騒音として考え,その発生過程を考察した.
長期的なマグマ蓄積過程と噴火過程の関係を調べるため,9月下旬に山体南麓に2点のGPS観測点と人工散乱体を設置した.降灰に伴う太陽電池発電効率低下による欠測はあるものの,GPSのデータ取得率(9月末から12月13日まで)は85%と77%で,概ね良好な連続観測データが得られている.麓のGEONET観測点との基線解析においてRMSで東西7mm, 南北3mm,上下12mm程度の精度で座標時系列を得ることができることがわかった.
既存観測点のデータおよびこれまでに取得されていた噴火活動に関連するデータ解析を行った結果,以下のことが明かとなった.桜島と諏訪之瀬島では,爆発的噴火の発生約1秒前に,火口底の隆起により励起される空気振動を発見し,その特徴を調べた.映像記録,地震記録の解析結果と併せ,火口底下での膨張現象が地表面の変形過程を誘引していることを明かにした.2006年に再開した桜島の昭和火口の火山噴火活動について,映像や地殻変動データ,空振データを調べ,噴火に先駆する現象と噴火活動の関係を調べた.御嶽山において2007年3月水蒸気爆発に先駆して発生した超長周期地震を解析し,その発生過程を調べた.
平成21年度に傾斜計に記録された噴火に前駆する山体膨脹データを解析し,火山性圧力源の時空間分布を明らかにする.また,火山性微動データや空気振動データとの関係を明らかにするとともに,マグマ上昇モデルやマグマ物性との関係について考察を行う.諏訪之瀬島の観測では,新たに3点の孔井に傾斜計を設置し,連続観測を開始する.空振観測,広帯域地震観測は,引き続き維持し,多様な噴火活動に関連したデータを収集する.また,地震計アレイ観測1ヶ月程度実施し,既存の広帯域地震観測点のデータと合わせて,火山性微動および噴火地震の発生過程の解析に用いる.これらの観測点を設置している間に,火山ガスモニタリングや噴出物のサンプリングを行い,火山噴火過程を物質科学の分野からも調べる.以上のデータを解析し,その結果を比較検討することにより,小爆発や火山灰連続噴出を繰り返す噴火過程の理解を進める.GPSおよびInSARによる観測は今後も継続し,噴火活動の中長期的な活動との関係を調べる.
東北大学 西村太志,北海道大学 青山 裕,東京大学 及川純,東京工業大 野上健治,
名古屋大学 中道治久,京都大学 井口正人,鹿児島大 八木原寛,富士常葉大 嶋野岳人
有