課題番号:1215

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東北大学

(2)研究課題(または観測項目)名

摩擦すべりに伴うエネルギー散逸過程の解明

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (4)地震発生・火山噴火素過程
        • ア.岩石の変形・破壊の物理的・化学的素過程

(4)その他関連する建議の項目

  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (4)地震発生・火山噴火素過程
      • ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性

(5)本課題の5か年の到達目標

地殻活動予測システムの構築のためには,断層面の強度を適切に記述することができる摩擦則が不可欠である.室内実験に基づいて,これまでにいくつかの摩擦則が提案されている.これらの摩擦則の素過程は,一般に,真実接触面積のすべり速度・接触時間依存性に基づいて理解されている.これは,摩擦面同士の固着,すなわち,歪エネルギーの蓄積過程に対する理解である.一方で摩擦すべりは必然的にエネルギーの散逸を伴う.散逸したエネルギーは,破損面やガウジ粒子の表面エネルギー,摩擦発熱による熱エネルギー,AEなどの発生に伴う波動エネルギーの形で消費される.真実接触域の固着により蓄積されたエネルギーが,上記の3つの消費形態にどの程度配分されるのかを理解することは,摩擦すべりの挙動を支配する物理過程を理解する上で重要である.本課題では,室内すべり実験により,散逸エネルギーの分配法則を明らかにする.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度:摩擦発熱によるエネルギー消費を見積もるために,実験的アスペリティーの実態とflash meltingにかかわる摩擦構成式を検討する.
M2震源断層貫通掘削コア試料の解析を行い,断層墓に伴う表面エネルギーを推定する.
平成22年度:地震に先行する電磁気的異常を理解するために,先駆的なtriboelectricityに関する固着すべり実験をおこなう.
波動としてのエネルギー散逸を推定する基礎として,広帯域AEセンサーを用いて,摩擦すべりに伴うAEの震源パラメターを推定する.
平成23年度以降:表面エネルギーの散逸過程を理解するために,すべり帯内部の構造(R-シアとY-シア)と固着すべり過程,強震動による断層破砕帯形成の可能性,断層ジョグでの粉砕の特異性を検討する.
波動エネルギー散逸過程を理解するために,AEの震源パラメターの載荷条件依存性を明らかにする.

(7)平成21年度成果の概要

南アフリカ金鉱山で発生したM2規模の地震の震源断層を貫通する掘削をおこなった.本震の震源断層付近からは,コアを回収することができなかったため,当初目論んでいた表面エネルギーの推定はできなかった.コアの観察及び孔内カメラを用いた孔壁の観察をおこなった.コアではディスキングが,孔壁観察ではブレークアウトの発生が確認された.これらの観察は,地震後であっても,少なくとも局所的には震源域が高応力状態であることを示唆する.

室内実験では、摩擦挙動と模擬ガウジ内の構造形成の双方を観察し、前兆的すべりの解明を試みた。上の図に固着すべり実験結果の一例を示す。実験後のすべり面を観察すると、多数のR1-シアのうちのひとつを境に、その両端前方のY-シアにのみ溶融層が存在し、R1-シアは決して溶融層を伴っていない。このことを考慮すると、摩擦すべり過程は、次の4つのステージを経て進行する。
ステージ1:降伏点(3)の後の歪硬化を伴うクリープで、せん断変形によるcompactionが進行。
ステージ2:(4)から開始する歪軟化クリープで、すべりが突然加速。R1-シアが本格的に形成。載荷速度とクリープによる緩和とが平衡してすべり速度が一定。
ステージ3:(5)で応力鎖の回転によりガウジ層が僅かに膨張。多数のR1-シアのすべりによって一段とすべりが加速。
ステージ4:(6)1つのR1-シア先端の応力が臨界値を超え、これを核として高速すべりの開始。
以上のことは、アスペリティーの実体を理解する上で有用である(使用できる文字種の制約により,図中の丸付き数字を、本文及び図の説明では括弧付き数字で表記している)。

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • Otsuki, K., Hirono, T., Omori, M., Sakaguchi, M., Tanigawa, W., Lin, W., Soh, W., and Rong, S., 2009, Analyses of pseudotachylyte from Hole-B of Taiwan Chelungpu Fault Drilling Project (TCDP); their implications for seismic slip behaviors during 1999 Chi-Chi earthquake. Tectonophysics. 469, 13-24, doi:10.1016/J.tecto.2009.01.008.

(9)平成22年度実施計画の概要

大型の研究費が採択されたのにともない,当初計画で,室内実験で観測されるAEを用いて,断層破壊に伴って放出される波動エネルギーの推定を目論んでいた部分を変更し,南アフリカ金鉱山で100m規模の断層破壊の直接観測によって,断層破壊に伴って放出されるエネルギーが,波動エネルギーや表面エネルギー等の間でどのように配分を明らかにする.

固着すべり実験は引き続き行い,preslipの実態とメカニズムを、模擬ガウジ層内の構造をも参照しつつ、より明らかにして、論文として公表する。Super-shearに関する実験に着手する。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

矢部康男・大槻憲四郎・他

他機関との共同研究の有無

(11)問い合わせ先


Figure 1
実験条件:円柱状斑レイ岩(20x40mm)、45°でprecut、鏡面仕上げ、石英粉模擬ガウジ(0.2g)、板バネに貼り付けた歪ゲージをすべり面を45°で跨いで2対をセット。摩擦すべり過程:封圧100MPaで降伏開始点(左図の(1))まで軸圧を載荷 → 約10分放置してcompaction (この間、クリープによる軸圧低下) → 再度軸圧載重開始(上図の(2)) → (3)で再降伏、(4)まで歪硬化を伴うクリープ → (5)で歪軟化クリープ開始 → (6)で大きな固着すべりイベント。

Figure 2
固着すべり直前の約160msの間の模擬ガウジ層の歪と差応力の変化を示す。注目すべきことは、大きな固着すべりイベント(6)の約40msec前(5)から2-3mm/sec程度のゆっくりすべりが開始すること、およびこのすべり開始時には僅かながらガウジ層の膨張が発生することである。