課題番号:1218
東北大学
高サンプリングGPS観測・解析技術の高度化と火山観測への応用
GPSを火山噴火過程・地震震源過程解析等に定常的に用いることのできる超広帯域変位計として利用するために,現在明らかになっている,以下の問題点を本課題の5ヶ年の到達目標に設定する.
(1) 全時間帯域におけるシグナルとノイズ,パラメータ間の分離困難性
(2) 数時間スケールの時間帯域における気象ノイズによる座標値の擾乱.
(1)に関しては,日本では高精度の潮汐モデルが得られている.このことを利用して, GPSで観測されている潮汐を潮汐モデルと比較し,GPS解析における誤差要因を詳しく調べることで,解析精度をさらに向上させることが可能と考える.すなわち,潮汐モデルをリファレンスとした客観的な精度評価手法の確立を行い,それに基づいた精度向上を目指す.目指す精度は,全ての時間帯域において潮汐モデルと観測値の5 mm以内での一致である.また,GPSによる座標値時系列のノイズ低減のため,通常のGPS解析では一般的ではない,気圧荷重による地表面変位の影響に関しても考慮した解析等を行い,精度向上を目指す.なお,GPS以外の測位衛星(GNSS)を解析に取り入れる事による精度向上も目指す.(2) は,座標値と気象ノイズ(大気遅延量)の同時推定がこの時間帯域では難しい事から生じる問題である.そのため数値予報モデルによる格子点値を先験情報とした大気遅延量の推定とその評価を行う.さらに,これらと平行して,本研究計画によって得られた知見を実際のデータで生かすため,桜島や岩手山等の火山地域において高サンプリングGPS観測を行う.
平成21年度においては,(6)本課題の5ヶ年の到達目標の (1)に示した潮汐モデルに基づくシグナル・ノイズの分離精度評価の手法の確立を行う.また(2)に示した数値予報モデルに基づく大気遅延量の推定手法の構築,およびその評価を開始する.さらに桜島・岩手山等での高サンプリングGPS観測を開始し,データの蓄積を開始する.
平成22年度以降においては,平成21年度に開始した桜島・岩手山等でのGPS観測を継続して行い,安定したデータ蓄積に努める.また日本全国のデータに対して潮汐モデルに基づくシグナル・ノイズの分離精度評価を行い,その時空間的な不均質性を明らかにし,誤差要因の把握を進める.更に火山地域等,地形が急峻で数値予報モデルの適用が難しい地域におけるGPS座標値の挙動の精査も行い,GPSデータに含まれるシグナルとノイズの分離を目指す.
本年度は特に(1)に示した潮汐モデルに基づくシグナル・ノイズの分離精度評価手法確立の一環として,南アラスカにおける高精度海洋潮汐モデルとキネマティックGPS解析時系列から抽出された潮汐成分の比較を行った(Inazu et al., 2009).その結果アラスカ南東部にあるQUIC観測点での事例ではM2分潮の振幅で9mm,位相で1度以下の一致という結果を得る事ができた.この結果は,高精度な海洋潮汐モデルがGPS時系列の精度評価をする上で重要な指標になることを改めて示した.特に海洋潮汐モデルをより現実に即したものにするとGPS時系列から抽出された潮汐成分との一致が良くなるという傾向は,GPSデータが潮汐時間帯のシグナルを潜在的に捉えている事を端的な示す結果である.
また本年度はGPS時系列推定時の相関係数に着目した解析も同時に行った.特に精密単独測位(PPP法)では波数不確定性推定(AR)が困難なため,各推定パラメータ間の分離精度が悪い事が指摘されている(太田 他, 2009).そのためPPP法後に基線解析を改めて行う手法によりそれら分離精度向上が図られるかを検討した.その結果,座標値パラメータでは南北-東西間・東西-上下間の相関係数がARを行った場合に大幅に小さくなる事が分かり,それらは特に年周・半年周成分の低減に効果的である事が明らかになった(太田 他, 2009).これらに更に気象数値予報モデル等を組み込み,検証を行う事により,より未知パラメータ間の分離精度向上が図られるものと考えられる.これに関しては平成22年度以降の課題である.
更に,桜島において2点(内1点は無線LANによるリアルタイムデータ伝送が可能)のGPS連続観測点を設置(1Hzサンプリング)した.これらは太陽電池と鉛蓄電池によって稼働している.岩手山においても高サンプリングGPS連続観測点を設置し,観測を開始し,データを蓄積中である.
平成22年度においては,特に平成21年度に開始した桜島・岩手山等でのGPS観測を継続して行い,安定したデータ蓄積に努める.また高サンプリングかつリアルタイムデータGPSデータ解析が可能な環境が整いつつあるため,上記桜島・岩手山におけるデータ等をテストデータとしたリアルタイムキネマティックGPS解析(RTK-GPS)の高度化に注力する.この際にはGPS以外の測位衛星(GNSS)も解析に取り入れる.RTK-GPSはリアルタイムに変位が捉えられるという意味において地殻変動・地盤変動監視において非常に重要なツールである.平成22年度は,それら精度評価及び推定された時系列から地殻変動・地盤変動を自動的に検知システムを開発する事により,高サンプリングGPS観測・解析技術の高度化を図る.
太田 雄策,三浦 哲,植木 貞人 他
有
京都大学防災研究所 (井口正人)