課題番号:1410

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

日本周辺のプレート運動の精密推定

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (1)日本列島及び周辺域の長期・広域の地震・火山現象
        • ア.列島及び周辺域のプレート運動,広域応力場

(4)その他関連する建議の項目

  • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
    • (1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化
      • ア.日本列島域
    • (2)地震・火山現象に関する予測システムの構築
    • (2-1)地震発生予測システム
      • ア.地殻活動予測シミュレーションとデータ同化

(5)本課題の5か年の到達目標

日本列島の地殻変動を周囲のプレート運動に基づいて理解するため,アジア・西太平洋に展開するGPS観測網とGEONETを統合解析してプレート運動に基づいた日本列島の変形の理解を進める.
具体的には以下の項目を目標に研究を実施する.
1)東アジアの変位速度場をより精確に推定するとともに,他のデータを併用しつつアムールプレートが存在するかどうかを明らかにする.
2)アジア・西太平洋に設置しているIGS観測点等のうち利用可能なデータを取り込み,GEONETデータと共に統合解析を実施し,日本列島をとりまくプレートの相対運動を明らかにする.
3)前項目で得られた結果をもとに,アジアのプレート運動と日本列島の地殻変動の関連についてテクトニクス的立場に基づく解釈を与える.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度においては以下の研究を実施する.
1)前5カ年計画で実施してきたモンゴル内でのGPS観測を継続する.
2)5-8月にモンゴル天文地球物理学研究センターの共同研究者を招へいし,東アジアの変位速度場に関する議論を進める.また,アムールプレートの内部変形を調査するためSARを用いた解析を行う.
3)VLBIの世界観測データを国土地理院より入手し,GPS観測データと統合処理することにより東アジアから西太平洋にかけての変位速度場の推定精度を向上させる.
平成22年度においては以下の研究を実施する.
1)モンゴル内でのGPS観測を継続する.
2)前年度までに得られた東アジアの変位速度場に関する議論を進めアムールプレートが存在するとの仮定のもとにその境界がどこにあるのかを検証する.また,アムールプレートの内部変形を調査するためSARを用いた解析を行う.
3)日本列島をとりまく東アジアから西太平洋に至る地域のプレート運動について考察を進める.
平成23年度においては以下の研究を実施する.
1)モンゴル内でのGPS観測を継続する.
2)アムールプレートの存否についてのそれまでの知見を総合し,東アジアのテクトニクスについてそれまでの成果を論文としてまとめる.
3)日本列島をとりまく東アジアから西太平洋に至る地域のプレート運動について考察を進める.
平成24年度においては以下の研究を実施する.
1)モンゴル内でのGPS観測を継続する.
2)日本列島をとりまく東アジアから西太平洋に至る地域のプレート運動について考察を進めると共にこれらのプレート運動が日本列島の地殻変動にどのような影響を与えているのかについて考察を行う.
平成25年度においては以下の研究を実施する.
1)モンゴル内でのGPS観測を継続する.
2)これまでの成果を総合し,当初の目的(前項目の1)~3))に対してどのような成果が得られたのかを仔細に調査し,研究成果を学会等を通じて発表するほか,論文として公表する.

(7)平成21年度成果の概要

 平成21年度は計画に基づき研究を実施した.
(1)モンゴルのGPS観測を順調に実施している(計画1).モンゴル内での地殻変動の研究のため共同研究者をモンゴルより招聘した(計画2).この研究者との共同研究で,モンゴルで発生した地震による地殻変動をSARデータの解析によって明らかにした.モンゴルで最近発生した地震についてSARデータを収集し,これらについて干渉画像を作成することを試みた.とりわけ,以下の2つの地震について詳細な検討を行い断層モデルが検討された.図1に地震の発生場所を示す.
1)2005年7月20日ハタンブラグ地震(Mw5.2)
2)2008年1月19日ブシンゴル地震(Mw5.1)
得られた干渉画像から最大8cm程度の地殻変動が検出された(図2).また,これらの結果をよく説明するような断層モデルが検討された.この結果,ハタンブラグ地震は1.6km(L)X1.8km(W)のサイズの断層面が0.9mずれ動いた逆断層型の地震であること,一方のブシンゴル地震は1.8km(L)X1.6km(W)のサイズの断層面が0.7m程度ずれ動いた正断層型の地震であることがわかった.結果は論文にまとめられて投稿した.

(2) VLBIの世界観測データを地理院より入手し,GPS観測データと統合処理して東アジアから西太平洋に至る地域の変位速度場を算出した(図3)(計画3).この際,ユーラシア大陸内の比較的安定と考えられる地域のVLBI, GPS観測点を用いてユーラシアプレートを定義し,この運動を差し引くことでユーラシア安定地塊に対する変位速度場を求めた.しかしながら,こうすることによって,アムールプレート内部の変位速度場は予想とは逆に西向きの変位速度を持ち,日本列島に対する速度場は従来得られてきたものとは一致しない.今後さらに詳細な解析を実施し,より信頼性の高いこの地域の変位速度場,プレート変位速度を得ていく必要がある.またアムールプレートの相対極位置も推定したが,まだ問題がある可能性があるので,今後の課題とする.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

    (9)平成22年度実施計画の概要

    平成21年度に引き続き,以下の研究を実施する.
    1)モンゴル内でのGPS観測を継続する.
    2)8-11月にモンゴル天文地球物理学研究センターの共同研究者を招へいし,東アジアの変位速度場に関する議論を進める.
    3)平成21年度に実施したVLBIとGPSの統合変位速度場についてより詳細な調査を行う.特にユーラシア安定地塊の定義や統合処理ソフトウェアの改良を試み,より信頼度の高い東アジアから西太平洋にかけての変位速度場を得る.

    (10)実施機関の参加者氏名または部署等名

    東大地震研 加藤照之

    他機関との共同研究の有無

    北海道大学大学院理学研究院 高橋浩晃
    日本気象協会 岩國真紀子
    モンゴル科学アカデミー天文地球物理学研究センター Amarjargal Sharav

    (11)問い合わせ先

    • 部署名等
      東大地震研地震火山噴火予知研究推進センター
    • 電話
      03-5841-5730
    • e-mail
      teru@eri.u-tokyo.ac.jp
    • URL


    図1:(1)ハダンブラグ地震,及び(2)ブシンゴル地震の震央位置(星印).


    図2:(左)ハダンブラグ地震,及び(右)ブシンゴル地震の干渉縞


    図3:VLBIとGPSを統合した東アジアの変位速度ベクトル場(GEONETについては選択して表示).