課題番号:1421

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

大地震サイクルと地震活動の関連を説明する物理メカニズムの提案

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
      • (3-1)地震発生先行過程
        • イ.先行現象の発生機構の解明

(4)その他関連する建議の項目

  • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
    • (1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化
      • ア.日本列島域
      • イ.地震発生・火山噴火の可能性の高い地域
      • ウ.東海・東南海・南海地域
    • (2)地震・火山現象に関する予測システムの構築
    • (2-1)地震発生予測システム
      • ア.地殻活動予測シミュレーションとデータ同化
      • ウ.地震活動評価に基づく地震発生予測
  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
    • (3-1)地震発生先行過程
      • ア.観測データによる先行現象の評価

(5)本課題の5か年の到達目標

本研究では、地震活動が大地震のサイクルとの関連をもつためのシナリオをいくつか想定し、物理的なモデルを通してそこから期待される地震活動パタンを提案することで,観測データでのシナリオの検証ポイントをつくることを目標とする。本研究での入力側に想定される大地震サイクル起源のシナリオは,大きくわけて (a)局所的な滑りもしくは広域的ローディング速度のゆらぎによる応力レベルの変化,(b)中小の地震の相互作用によって, 応力場が均質化し破壊が停止ししにくい場が形成する,という本質的にことなるものが考えられ,それぞれの事態の進行に係る物理的メカニズムの理解を進める必要がある. 一方で, 出力側である地震活動,すなわち中小の地震の発生頻度が, 応力等の地殻の物理状態をどう反映するかについてもメカニズムはよくわかっておらず, この面でも根本的な理解を進める必要がある.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度は, 地殻活動のデータセットの信頼性を検討し, 過去に先行変化として報告された観測事例やモデル, 実験との整合性をどのように評価できるかを検討する. また, 地震活動と地殻応力場の関係について, 既存の理論の問題点を整理して, 地震活動を物理的に理解するための理論的, 概念的枠組みについての検討を始める.
平成22年度は, 具体的な地殻活動の先行変化のパタンについて, 定性的な物理モデルをつくり, データでの検証ができる可能性のあるポイントを検討する.
平成23年度は,モデルを定量的なものに発展させる.
平成24年度は,具体的な事例についてのデータとモデルの定量的比較を行う.
平成25年度は,解析例を増やしつつ, 成果をとりまとめる.

(7)平成21年度成果の概要

平成21年度は, 地震活動と地震サイクルを物理的に関連づける可能性のある2つのシナリオについて検討をすすめた. 1つは, いわゆるプレスリップモデルであり, それが予測する準静的な滑りによる応力変化が, 大地震サイクルに関連した地震活動の先行変化をもたらす可能性がある. また, 同モデルのもたらす滑りの加速パタンは, 応力場の変化に対する微小地震活動の応答を予測する理論の基礎をもなしており, これについては, 余震活動の豊富なデータで検証が可能である. プレスリップモデルの基礎は, 岩石摩擦実験から経験的に得られた構成則であるが, 最近, その構成則について従来しられていた欠陥をすべて解決した改良版が提案されたので, 修正された構成則を用いてプレスリップモデルをつくりなおし, およびそこから派生するさまざまな理論的予測を研究するという方向性をうちだし, 最も基礎的な数値計算モデルを動かしはじめた. 地震活動と地震サイクルを物理的に関連づける可能性のあるもうひとつの, まったく違ったシナリオは, 多数の小地震の協同作用によって, 場の均質化がおこり, これが大地震の準備過程であり, 地震活動にも反映されるという考えであるが, このような挙動がいままでもっともよく研究されている砂山崩しモデルについては, システムサイズを大きくすると雪崩が表層に限定されてしまうという欠点が認識されてきた. そこで, 大小さまざまの断層が付加体中に形成される様子をあらわすモデルとして最近, 成功をおさめている離散要素法による大規模計算を, 地震サイクルにおける大小の地震活動をあらわすモデルとして使うことを検討した.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • Nakatani, M., K. Nagata, S. Yoshida and O. Kuwano, 2009, A major revision of rate and state friction law based on semi-direct analysis of interface state, French-Japanese International Workshop on Earthquake Source.
  • 阪口秀, 堀高峰, 付加体の発達と大地震発生の関係, 2009, 地球惑星科学連合大会.
  • 堀高峰, 阪口秀, 付加体発達条件に依存するデコルマ面の形成メカニズム, 2009, 地球惑星科学連合大会.
  • 堀高峰, 阪口秀, 地殻ダイナミクス理解のための課題ー付加体形成を例として, 2009, 日本地震学会秋季大会.
  • 永田広平,中谷正生,吉田真吾, 2009, 接触状態の観察に基づく速度・状態依存摩擦則の修正, 摩擦の科学2009.
  • Nagata, K., M. Nakatani, and S. Yoshida, 2009, Stress-weakening effect on friction and a major revision of evolution law for contact state, AGU Fall Meeting.
  • 中谷正生, 永田広平, 吉田真吾, 2009, Direct effect coefficient a for granite is not about 0.01; it is never less than 0.04, most likely about 0.05, 2009, 地球惑星科学連合大会.
  • 永田広平l, 中谷正生, 吉田真吾, 2009, Revised evolution law in rate- and state-dependent friction incorporating a stress-weakening effect, 地球惑星科学連合大会.

(9)平成22年度実施計画の概要

平成22年度は, プレスリップモデルについては, まず, 簡単なバネーブロックモデルでの挙動を従来の構成則によるものと比較し, その違いが, 構成則の修正部分のどこからでてくるのかを解明し, つぎにより現実的な, 連続体内での震源核形成モデルの計算を行う. 離散要素法による地震相互作用モデルについては, これまで, 地質学的な断層系の形成に応用されていたが, より短期間の地震サイクル内における, 地震イベント活動が解析できるように, モデル出力の解析方法のチューニングを行う. また, 地震サイクルにおける体積的な領域での活動変化を理解するために, 応力場の均質性等を解析する方法の確立を目指す.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

東京大学地震研究所 中谷正生・加藤尚之・加藤照之・加藤愛太郎

他機関との共同研究の有無

海洋研究開発機構 堀高峰・阪口秀

(11)問い合わせ先