課題番号:1427
東京大学地震研究所
地殻・上部マントル岩石変形の物理過程の解明
本震破壊およびその直前の強度低下をともなう脆性領域での断層のレオロジーついては,様々な条件での滑り/破壊実験や, 多体系の数値モデル等によりその詳細を解明し,現象の裏にひそむ物理メカニズムをあきらかにすることによって,地震現象への合理的適用を基礎づける. また, 地震断層への載荷を直接的に担う深部細粒断層岩の流動則や、沈み込みプレート境界における地震発生モデルに必要となるウェッジマントルの力学物性を室内実験によって決定する。さらに,様々なレオロジーのプロセスが共存する地震現象の予測モデルをより現実的なものにするために,脆性-塑性遷移や多相系の複合的レオロジーを表現する合理的な枠組みの確立をめざす.
平成21年度は, 現在用いられている様々なレオロジー構成則についての現象的,理論的関係を整理し, 今後5年間の研究を有機的に連携されるための概念的枠組みを検討することで, 重点的に行うべき実験の内容を調整するとともに, 各実験の技術開発を進める.
平成22年度は,予備的実験を行い, それぞれの実験技術でカバーできる物理現象とその条件範囲を実際に確認する.
平成23年度は, 系統的なデータの収集を行なう.
平成24年度は, 実験データの定量的分析により, 様々な条件での各種物理プロセスの重要度を検討し, その結果をフィードバックして, さらに実験を進めるべき領域を決定する.
平成25年度は, 追加実験と, 結果の整理を行う.
脆性領域での断層のレオロジーについての未決着問題として, 本震時程度の非常の高速すべりがあげられる. これは, 強震の生成を左右する問題でもあり, 近年さまざまな高速すべり実験がおこなわれているが, 結果には大きな幅があり, その原因についての理解はされていない. 一つの大きな問題は, ときには滑り面を溶融させる摩擦発熱の影響であるが, 従来の実験では, 高温・溶融・高速・大変位のどれがどういう効果を及ぼしているか不明であったので, 非常に高温な背景温度のもと, 広い速度レンジのすべり実験を行なうことで要因の分離を行うことにし, 平成21年度は, そのための特殊な実験装置の改良を行い, 予備実験をおこなったところ, 岩種によっては大気による酸化が強度に影響することがわかった. また, ガウジを含んだ摩擦面において, 高速時に粒子衝突によるエネルギー散逸がおこり, 強烈な速度強化がおこる可能性を多体系数値シミュレーションで示唆したが, 平成21年度は, このようなプロセスについて, 石英ガラスおよびクロマイトの粒子系を用いて, 化学反応などを極力排除した摩擦実験を行うことが有効であると考え, そのような実験装置を準備し, 本震時程度の高速すべりまでの広いレンジで実験が行なえることを確認した.
一方で,最近の歪み集中体等における地球物理観測から下部地殻は相当に低い応力で流動しており, これが内陸地震の原動力となっているとの考えが提唱されている. そのような条件をみたす岩石のレオロジーは未解明であるが, 地殻下部への断層延長で集中的な流動をおこしている岩石が極細粒であることから, 金属等の材料でしられている超塑性流動による可能性が高い. 天然の岩石試料では亀裂等の巨視的欠陥のため超塑性の実験は困難であるが,平成21年度は, 最近開発した極細粒緻密の人工岩石を用いた予備実験をおこない, 超塑性流動を比較的簡単な条件でおこすことに成功したので,この試料でのレオロジー実験を重点的におこなうことにした.
また, 脆性ー塑性遷移領域の複合メカニズムのレオロジーを扱う概念的枠組みを構築するために, ハライトにおける脆性ー塑性遷移領域での速度ステップ実験データの速度直接依存性の予備的な解析を行ない, 脆性メカニズムと塑性メカニズムを直列的に結合した脆性ー塑性遷移モデルから期待されるような変化がおこることをみいだした.
高速・高温摩擦試験機においては, H21年度に導入した赤外温度計を用いて試料面の温度を把握すること, アルゴン雰囲気下での実験で安定したデータを取得することをめざす. 粒子系摩擦の実験においては, 理論モデルから予測される,低速摩擦ではみられない特徴的な 粒径・圧力・粒子密度への依存性が実際におこるかを確かめる. 超塑性実験においては,流動則を確立するとともに, 変形させた岩石の組織観察から,超塑性をになう微視的機構を確定することをめざす. 脆性ー塑性遷移領域の複合レオロジーについては, ハライトのデータをさらに総合的に解析する.
東京大学地震研究所 中谷正生・吉田真吾・波多野恭弘・武井康子
有
千葉大学 金川久一