課題番号:1427

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

地殻・上部マントル岩石変形の物理過程の解明

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (4)地震発生・火山噴火素過程
        • ア.岩石の変形・破壊の物理的・化学的素過程

(4)その他関連する建議の項目

  • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
    • (2)地震・火山現象に関する予測システムの構築
    • (2-1)地震発生予測システム
      • イ.地殻活動予測シミュレーションの高度化
  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
    • (3-1)地震発生先行過程
      • イ.先行現象の発生機構の解明
    • (3-2)地震破壊過程と強震動
      • ア.断層面の不均質性と動的破壊特性
    • (4)地震発生・火山噴火素過程
      • イ.地殻・上部マントルの物性の環境依存性
      • ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性
      • エ.マグマの分化・発泡・脱ガス過程

(5)本課題の5か年の到達目標

本震破壊およびその直前の強度低下をともなう脆性領域での断層のレオロジーついては,様々な条件での滑り/破壊実験や, 多体系の数値モデル等によりその詳細を解明し,現象の裏にひそむ物理メカニズムをあきらかにすることによって,地震現象への合理的適用を基礎づける. また, 地震断層への載荷を直接的に担う深部細粒断層岩の流動則や、沈み込みプレート境界における地震発生モデルに必要となるウェッジマントルの力学物性を室内実験によって決定する。さらに,様々なレオロジーのプロセスが共存する地震現象の予測モデルをより現実的なものにするために,脆性-塑性遷移や多相系の複合的レオロジーを表現する合理的な枠組みの確立をめざす.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度は, 現在用いられている様々なレオロジー構成則についての現象的,理論的関係を整理し, 今後5年間の研究を有機的に連携されるための概念的枠組みを検討することで, 重点的に行うべき実験の内容を調整するとともに, 各実験の技術開発を進める.
平成22年度は,予備的実験を行い, それぞれの実験技術でカバーできる物理現象とその条件範囲を実際に確認する.
平成23年度は, 系統的なデータの収集を行なう.
平成24年度は, 実験データの定量的分析により, 様々な条件での各種物理プロセスの重要度を検討し, その結果をフィードバックして, さらに実験を進めるべき領域を決定する.
平成25年度は, 追加実験と, 結果の整理を行う.

(7)平成21年度成果の概要

脆性領域での断層のレオロジーについての未決着問題として, 本震時程度の非常の高速すべりがあげられる. これは, 強震の生成を左右する問題でもあり, 近年さまざまな高速すべり実験がおこなわれているが, 結果には大きな幅があり, その原因についての理解はされていない. 一つの大きな問題は, ときには滑り面を溶融させる摩擦発熱の影響であるが, 従来の実験では, 高温・溶融・高速・大変位のどれがどういう効果を及ぼしているか不明であったので, 非常に高温な背景温度のもと, 広い速度レンジのすべり実験を行なうことで要因の分離を行うことにし, 平成21年度は, そのための特殊な実験装置の改良を行い, 予備実験をおこなったところ, 岩種によっては大気による酸化が強度に影響することがわかった. また, ガウジを含んだ摩擦面において, 高速時に粒子衝突によるエネルギー散逸がおこり, 強烈な速度強化がおこる可能性を多体系数値シミュレーションで示唆したが, 平成21年度は, このようなプロセスについて, 石英ガラスおよびクロマイトの粒子系を用いて, 化学反応などを極力排除した摩擦実験を行うことが有効であると考え, そのような実験装置を準備し, 本震時程度の高速すべりまでの広いレンジで実験が行なえることを確認した.
一方で,最近の歪み集中体等における地球物理観測から下部地殻は相当に低い応力で流動しており, これが内陸地震の原動力となっているとの考えが提唱されている. そのような条件をみたす岩石のレオロジーは未解明であるが, 地殻下部への断層延長で集中的な流動をおこしている岩石が極細粒であることから, 金属等の材料でしられている超塑性流動による可能性が高い. 天然の岩石試料では亀裂等の巨視的欠陥のため超塑性の実験は困難であるが,平成21年度は, 最近開発した極細粒緻密の人工岩石を用いた予備実験をおこない, 超塑性流動を比較的簡単な条件でおこすことに成功したので,この試料でのレオロジー実験を重点的におこなうことにした.
また, 脆性ー塑性遷移領域の複合メカニズムのレオロジーを扱う概念的枠組みを構築するために, ハライトにおける脆性ー塑性遷移領域での速度ステップ実験データの速度直接依存性の予備的な解析を行ない, 脆性メカニズムと塑性メカニズムを直列的に結合した脆性ー塑性遷移モデルから期待されるような変化がおこることをみいだした.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • Hatano, T., 2009, Growing length and time scales in a suspension of athermal particles, Phys. Rev. E, 79, 050301(R).
  • Hatano, T., 2009, Scaling of the critical slip distance in granular layers,Geophys. Res. Lett., 36, L18304.
  • Hatano, T., in press, Critical Scaling of granular rheology, Prog. Theor. Phys. Suppl.
  • 野田博之, 金川久一, 千田哲也, 井上厚行, 2009, 中速度領域における摩擦係数に対する温度の影響, 地球惑星科学連合2009年大会.
  • 岩邉香苗, 金川久一, 中谷正生, 望月裕峰, 2009, 南海トラフ付加体浅部泥岩試料の摩擦挙動, 地球惑星科学連合2009年大会.
  • 永田広平, 中谷正生, 吉田真吾, 2009, A physical model of shear deformation in brittle-plastic transition regime; coexistence of junction slip and asperity flow, 地球惑星科学連合2009年大会.
  • 中谷正生, 永田広平, 2009, 速度状態依存摩擦とその物理, 地震2, 61, S563-S573.
  • Nagata, K., M. Nakatani, and S. Yoshida, 2009, Experimental study of frictional behaviors using acoustic in-situ monitoring of frictional interface , INTERNATIONAL SCHOOL ON COMPLEXITY,11th Course: GRAINS, FRICTION, AND FAULTS.

(9)平成22年度実施計画の概要

高速・高温摩擦試験機においては, H21年度に導入した赤外温度計を用いて試料面の温度を把握すること, アルゴン雰囲気下での実験で安定したデータを取得することをめざす. 粒子系摩擦の実験においては, 理論モデルから予測される,低速摩擦ではみられない特徴的な 粒径・圧力・粒子密度への依存性が実際におこるかを確かめる. 超塑性実験においては,流動則を確立するとともに, 変形させた岩石の組織観察から,超塑性をになう微視的機構を確定することをめざす. 脆性ー塑性遷移領域の複合レオロジーについては, ハライトのデータをさらに総合的に解析する.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

東京大学地震研究所 中谷正生・吉田真吾・波多野恭弘・武井康子

他機関との共同研究の有無

千葉大学 金川久一
静岡大学 増田俊明, 道林克禎
東京大学大学院理学系研究科 清水以知子

(11)問い合わせ先