課題番号:1429

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

爆発的噴火におけるマグマと波動の放出素過程に関する研究

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (4)地震発生・火山噴火素過程
        • エ.マグマの分化・発泡・脱ガス過程

(4)その他関連する建議の項目

  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
    • (3-3)火山噴火過程
      • ア.噴火機構の解明とモデル化

(5)本課題の5か年の到達目標

5ヶ年の到達目標は、物質科学や流体力学に基づく火道内プロセスのモデルと、地震や空振など地球物理学的観測量を結び付け、観測データの理解と火道内プロセスのモデル開発が相補的に発展する素地を作ることである。そのために、火道中のマグマの上昇や発泡・脱ガス過程に伴う振動発生のメカニズムを体系だてて整理する。特に、パルス的な圧力波と連続的振動について、励起メカニズムの違いや、共通の素過程について整理する。

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度においては、パルス的な圧力波形の発生過程として、マグマ表面の気泡の破裂を想定し、流体膜の物性と気泡内圧力の影響を、実験的に調べる。また、実験データの解析を補佐するため、市販のマルチフィジックスによる音響シミュレーションソフトを使う準備をする。
平成22年度においては、連続的振動の発生過程として、空気の流れによって励起される圧力波を想定し、これまでのモデルと問題点を整理する。また、実験室で簡単なモデルを作り、その機構を分析する。
平成23年度においては、前年度までの素過程の研究と、実際の火山で観測されたデータを比較し、注目するべきメカニズムを絞っていく作業を行う。
平成24年度には、火山現象の具体的なプロセスを想定した実験のデザインと実施を行う。
平成25年どにはそれまでの研究成果を踏まえ、火山振動の観測データと噴火モデルを有機的に結びつける道筋を模索する。

(7)平成21年度成果の概要

ある現象の時間間隔,様式,前兆信号,そしてそれらを支配する記憶効果や前のイベントから次のイベントへのフィードバック現象を解明することは,噴火予知研究の最重要課題の1つである.系は大きく異なるが,この問題と物理的相似性の強い現象が,室内実験で見つかった.それは,非ニュートン性流体中の連続的な気泡の上昇・破裂現象において,気泡の破裂に伴う圧力波の波形と破裂前に発生する前駆的音波 に明瞭な相関関係があり,両者の特徴が準周期的に変動する,というものである.その相関関係と変動を支配する物理メカニズムとして,気泡の通過に伴う流体の変形と破壊の記憶が蓄積し、あるとき通路が更新されることによって、気泡の破裂の仕方が準周期的に変化しているというモデルを提案した(Vidal et al., 2009, Phys. Rev. E)。このメカニズムをさらに詳しく調べるため、市販の音響シミュレーションソフトを選定し、利用環境を整えた。以上は、上記(6)の当初予定にほぼ沿っている。さらに、流動するマグマの破壊を支配するメカニズムについて、理論的な研究を行った。これは、本課題のテーマである、爆発的噴火におけるマグマと波動の放出過程において、重要な素過程である。破壊現象は、主に固体力学を基礎として研究されてきた歴史があり、マグマのような流動から破壊に生じる現象に対する理解はあまり進んでいない。本研究では、変形する流体の弾性度を表すパラメータを提案し、マグマ破壊に関する室内実験の結果の再解釈を試みた(Ichihara and Rubin, 投稿中)。この解釈法は、地震の発生を支配する摩擦構成則と、流体マグマ中での地震発生を支配する法則をつなげる上でも役立つものと考えている。

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • Ichihara, M., M. Ripepe, A. Goto, H. Oshima, H. Aoyama, M. Iguchi, K. Tanaka, and H. Taniguchi, 2009, Airwaves generated by an underwater explosion; Implications to volcanic infrasound, J. Geophys. Res., 114, B03210, doi:10.1029/2008JB005792.
  • Vidal, V., M. Ichihara, M. Ripepe, and K. Kurita, 2009. Acoustic waveform of continuous bubbling in a non-Newtonian fluid. `Physical Review E, 80, doi:10.1103/PhysRevE.80.066314
  • 市原美恵,佐藤元彦,宮林佐和子,武尾実,綿田辰吾,井口正人,2009, 木管楽器(リコーダー)に学ぶ火山性微動発生機構の考察,火山学会講演予稿集,B11.

(9)平成22年度実施計画の概要

平成22年度においては、当初の予定通り、連続的振動の発生過程として、空気の流れによって励起される圧力波を想定し、これまでのモデルと問題点を整理する。具体的には、空気中に空気が流れ出す場合と、流体中に空気が流れ出す場合にわけ、連続的振動の発生メカニズムや、間欠的なパルス発生との違いを明らかにする。まず、実験室で簡単なモデルを作り、その機構を分析する。また、平成21年度に準備を行った、音響シミュレーションソフトウェアを用いて、気泡の破裂に伴う音波の形成や、空気の流れの生み出す圧力波について、解析を行う。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

東京大学地震研究所・市原美恵

他機関との共同研究の有無

(11)問い合わせ先

  • 部署名等
    東京大学地震研究所
  • 電話
    03-5841-5666
  • e-mail
  • URL