課題番号:1432
東京大学地震研究所
次世代の機動的海底地震観測に向けた観測技術の高度化
地震予知研究において実際の地震発生の場・現象を捉えるためには、海域での地震観測研究は欠かせないものである。しかし、海底ケーブル網が存在・計画されているのは限られた海域であり、今後空間・時間的な観測空白域を網羅し新たな知見を得るためには、機動的海底地震観測技術の新たな開発が必須である。次の3項目に示す技術開発は、これまで基礎的な試験観測、またほぼ実用観測を行ってきたものである。そのうち、超深海型海底地震計(UDOBS)は設置したが回収不能となっており、今後に開発しなければならない箇所が多く残っている。また、広帯域海底地震計(BBOBS)は、既に大規模アレイ観測を実施しているが、水平動成分はノイズレベルが高くデータを解析する上で有効利用しにくい問題点がある。これを解決するため科学研究費等で開発研究を開始しているが、潜水艇による試験観測の機会が少ないことから開発期間が不足している。その他、海底での強震観測については、スマトラ地震の余震観測として試験的に実施した。
これらを踏まえた上で、以下の3項目を具体的な技術開発の内容として計画している。
(a)海溝軸付近など水深6000m以上の超深海域での地震及び他のセンサーによる海底観測技術開発で、空間的観測空白域を埋める。
(b)海底強震観測の高度化で、数年間の地震発生待ち受けと震源域近傍での高い信号強度へ対応する。
(c)海域での浅部超低周波微動などを直上で精密に捉えられる能力を持つ海底広帯域地震観測の高度化で、陸上観測点に匹敵・凌駕する品質のデータを取得し、脈動域~潮汐変動の時間軸へ対応する。
これらの成果の地震観測研究における波及的重要さは言うまでもない。また、各技術開発共に、現存の海底地震観測システムを多少変更して対応できる内容ではないため、完全な観測技術へと完成するのには5年間では短い可能性はある。
平成21年度においては、上記(a)と(b)の仕様検討を行う。(c)は科研費で進行中の試験観測研究を継続して進め、研究を継続するために科研費を申請する。特に(a)のUDOBSは、これまでの問題点を精査し、超深海域で確実に使用可能な部品の選定を進め、その解決策を全体構造の見直しという点まで含めて検討する。
平成22年度においては、(a)の機器試作を開始し、(b)の機器設計を進める。(c)は試験観測研究を継続して進める。翌年度の試験観測に向け、観測船利用の申請を行う。
平成23年度においては、(a)の試験観測を開始し、(b)の機器試作を開始する。(c)は試験観測研究を継続して進め、機器の改良を行う。翌年度の試験観測に向け、観測船利用の申請を行う。
平成24年度においては、(a)の試験観測を継続し問題点を解決する、(b)の試験観測を開始する。翌年度の試験観測に向け、観測船利用の申請を行う。
平成25年度においては、(b)の試験観測を継続し問題点を解決する。
本年度の技術開発の具体的内容としては、(a)水深6000m以深の超深海域での海底観測技術開発、(b)海底強震観測の高度化、(c)海底広帯域地震観測の高度化、の3項目において、(a)と(b)はその仕様検討、(c)は継続的試験観測を実施予定であった。
(a)に関しては、既存の超深海用耐圧ガラス球の実地試験、製造元での耐圧試験を実施した。現段階ではその耐圧の信頼性に疑問が残っているため検討中である。(b)は、(c)と関連してセンサーの設置手法を実地試験した。また、これまでの開発成果を公表した。(c)は本年度に4回、無人潜水艇(ROV)を使った試験航海の機会を得て、最終的に2回の有用な試験観測が実施され、次世代型広帯域海底地震計(BBOBS-NX)による観測記録を得た(図1)。そのデータの暫定的解析結果から、長周期地震帯域での水平動雑音の低減が、ほぼ予想していたレベルで得られるセンサー設置手法を確認できた。これにより、約10秒より長周期側では、陸上地震観測点に匹敵する地震記録を、機動的に海域で取得することが可能となった。
(a)の開発は、仕様検討を更に進めることにする。(b)は具体的な仕様設計を開始する。(c)はこれまでの試験観測結果から、長周期帯での雑音源について理論的考察を進める。また、現段階の機器による長期観測を開始し、実用的機能試験を北西太平洋の平坦な深海盆で2010年6月より開始する。
塩原 肇・篠原雅尚
無