課題番号:1434

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

干渉合成開口レーダー解析の高度化

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 3.新たな観測技術の開発
      • (2)宇宙技術等の利用の高度化
        • ア.宇宙測地技術

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の5か年の到達目標

通常のStripmapモードによる干渉SARの解析については,ある意味でルーチンワークになりつつある.しかし,(7)に述べるような諸課題が放置されており,これらを解決して干渉合成開口レーダー解析の高度化を図る。これによって可能となる高空間解像度での微小地殻変動検出を通じて、歪蓄積や火山噴火準備過程に関する研究に貢献する

(6)本課題の5か年計画の概要

年度ごとの研究計画を立てることは、問題の性質上困難であり、以下の課題1~4に5年間、一体として取り組む。
(課題1)大気遅延/電離層遅延ノイズは依然として除去が困難である.現時点では,スタッキングという対症療法が限定的な効果を示すのみであり、いまだに決定的な解決には至っていない。
(課題2)ScanSARモード同士、或は、ScanSARと通常のStripmapモードによる干渉SARの解析手法が未確立。従来は困難だった海溝型巨大地震に伴う地殻変動や数百kmの空間スケールを持つ経年的な地殻変動シグナルの検出をするためには、技術の確立を急ぐ必要がある。
(課題3)植生に覆われた地域ではC-bandなどの短波長データは殆ど利用されておらず、長期にわたって蓄積されたデータが有効に活用されていない。
(課題4)PS-InSAR手法の簡易化、L-bandのALOSやその後継機データ、GPSデータとの高次処理レベルでの有効的組み合わせ

(7)平成21年度成果の概要

通常のSAR干渉解析においては,その性質上数メートルを超える変動をとらえることは困難である。たとえば,2008年岩手宮城内陸地震や2008年四川地震の震源付近の大変形は,通常のSAR干渉解析ではとらえることができない(Kobayashi et al., 2009; Takada et al., 2009).この困難を克服するために,オフセットトラック法という,SAR強度画像をから2枚の画像間の変動を計測する手法を用いて2008年岩手宮城内陸地震および2008年四川地震の震源付近における大変形の空間分布を観測することに成功し,本手法の有用性を示した.Takada et al. (2009)は,2008年岩手宮城内陸地震にともなう地殻変動を解析し,この地震においては,地震波の解析から考えられていたような南北走向の西落ち逆断層だけでなく,震源域中部において南北走向の東落ち逆断層が寄与していないと観測された変動場を説明できないことを示した.また,Kobayashi et al. (2009)は2008年四川地震にともなう地殻変動を解析し,北東部においては主断層のみが寄与したが,南西部においては主断層だけではなく副断層も寄与したということを明確に示した.この研究と通常のSAR干渉解析(榎本, 2009; Hashimoto et al., 2010)を組み合わせることにより,四川地震にともなう地殻変動の全貌を得ることに成功した.このように,オフセットトラック法の確立は,とりわけ内陸地域で発生した大地震について,他の観測手法では得られない情報を与えるという点で,大地震の発生機構の理解の発展をもたらす可能性がある.

その他には,プレート沈み込みにともなう数百kmの空間スケールをもつ経年的地殻変動を検出する試みが行われた(Hashimoto and Fukushima, 2009).

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • Touzi, R., and M. Shimada, 2009, Polarimetric PALSAR calibration, IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 47, 3951-3959, doi:10.1109/TGRS.2009.2032176.
  • Takada, Y. and M. Furuya, 2010, Aseismic Slip during the 1996 Earthquake Swarm in and around the Onikobe Geothermal Area, NE Japan, Earth Planet. Sci. Lett., 290, 302-310, doi:10.1016/j.epsl.2009.12.024.
  • Shimada, M., O. Isoguchi, T. Tadono, and K. Isono, 2009, PALSAR radiometric and geometric calibration, IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 47, 3915-3932, doi:11.1109/TGRS.2009.2023909.
  • Shimada, M., 2009, A new method for correcting ScanSAR scalloping using forests and inter-SCAN banding employing dynamic filtering, IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 47, 3933-3942, doi:10.1109/TGRS.2009.2027596.
  • Migliaccio, M., A. Gambardella, F. Nunziata, M. Shimada, and O. Isoguchi, 2009, The PALSAR polarimetric mode for sea oil slick observation, IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 47, 4032-4041, doi:10.1109/TGRS.2009.2028737.
  • Takada, Y., T. Kobayashi, M. Furuya, and M. Murakami, 2009, Coseismic displacement due to the 2008 Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake detected by ALOS/PALSAR: Preliminary results, Earth Planets Space, 61, e9-e12.
  • Shimada, M., R. Touzi, T. Tadono, J. A. Smith, 2009, Foreword to the Special Issue on calibration validation of ALOS sensors (PALSAR, AVNIR-2, and PRISM) and their use for bio- and geophysical parameter retrievals, IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 47, 3911-3913, doi:11.1109/TGRS.2009.2036389.
  • Isoguchi, O., and M. Shimada, 2009, An L-bandocean geophysical model function derived from PALSAR, IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 47, 1925-1936, doi:10.1109/TGRS.2008.2010864.
  • Kobayashi, T., Y. Takada, M. Furuya, and M. Murakami, 2009, Locations and types of faultings involved in the 2008 Sichuan Earthquake, inferred from a SAR image matching, Geophys. Res. Lett., 36, L07302, doi:10.1029/2008GL036907.
  • 榎本真梨, 2009, ALOS/PALSARデータを用いた2008年中国四川省地震に伴う地殻変動解析,京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻修士論文,84 pp..
  • Hashimoto, M., Y.Fukushima, M.Enomoto, and Y.Fukahata, 2010, Detection of co-and postseismic displacements from large earthquakes with ALOS/PALSAR, Proceedings of FRINGE2009, submitted.
  • Hashimoto, M., M.Enomoto, and Y.Fukushima, 2010, Coseismic deformation from the 2008 Wenchuan, China, earthquake derived from ALOS/PALSAR data, Tectonophysics, doi:10.1016/j.tecto.2009.08.034, in press.
  • Hashimoto, M., and Y.Fukushima, 2010, An attempt to detect secular deformation associated with the subduction of the Philippine Sea plate with ALOS/PALSAR, Proceedings of FRINGE2009, submitted.
  • Fukushima, Y., J. Mori, M. Hashimoto, and Y. Kano, 2009, Subsidence associated with the LUSI mud eruption, East Java, investigated by SAR interferometry, Marine and Petroleum Geology, 29, 1740-1750, doi:10.1016/j.marpetgeo.2009.02.001.
  • Furuya, M., Y. Takada, and Y. Aoki, 2010, PALSAR InSAR observation and Modeling of Crustal Deformation due to the 2007 Chuetsu-Oki Earthquake in Niigata, Japan, Proc. IAG Symposia, Gravity, Geoid, and Earth Observation 2008, in press.

(9)平成22年度実施計画の概要

平成21年度には,大変形を検出するためのオフセットトラック法の確立という,計画概要にはなかった成果があったが,(6)にあげた課題については発展途上であるのが現状である.そのため,平成22年度も(6)の課題に引き続き取り組む.年度ごとの計画をたてることが研究の性質上困難であることも従前と同じであるため,4つの課題に並行して取り組む.とりわけ(課題1)の大気遅延/電離層遅延ノイズの除去は小変形の検出に重要であるため重点的に取り組む.現在はスタッキングが限定的な効果を上げているだけであるが,数学的な処理を工夫することにより時間変化する地殻変動を検出できる可能性がある.より根本的な処理としては,GPS観測により推定される大気遅延ノイズの情報をもちいてSARデータの大気遅延ノイズを除去するという方法が考えられる.

また,(課題2)にあげられている数百kmの空間スケールを持つ地殻変動シグナルの検出についてはstrip modeのSAR画像を用いてのものであるが,その端緒についており(Hashimoto and Fukushima, 2009),同種の研究をScanSARモードでの画像も用いて推進していくべきである.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

東京大学地震研究所 大久保修平・青木陽介・田中愛幸
北海道大学大学院理学研究院 古屋正人・高橋浩晃
東北大学大学院理学研究科 三浦哲・大田雄策
京都大学防災研究所 橋本学・福島洋・山本圭吾
九州大学大学院理学研究院 松島健

他機関との共同研究の有無

宇宙研究開発機構 島田正信

(11)問い合わせ先

  • 部署名等
    東京大学地震研究所 地震火山噴火予知研究推進センター
  • 電話
    03-5841-5712
  • e-mail
    yotik@eri.u-tokyo.ac.jp
  • URL