課題番号:1436

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

衛星赤外画像による噴火推移の観測と類型化に関する研究

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 3.新たな観測技術の開発
      • (2)宇宙技術等の利用の高度化
        • イ.リモートセンシング技術

(4)その他関連する建議の項目

  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
    • (3-3)火山噴火過程
      • イ.噴火の推移と多様性の把握

(5)本課題の5か年の到達目標

MODIS,MTSAT等の高頻度型の衛星赤外画像を利用して,東アジア地域に分布する火山の観測を行い,噴火推移に関するデータを収集する.得られたデータの比較分析や他衛星データ・地上観測データとの統合的解析を行い,噴火推移の解析や類型化,その違いを生むプロセスの解明研究を実施する.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21~22年度は,2007年~2010年にかけてMODIS,MTSATによって収集された噴火データの整理と現地情報のコンパイルにあたる.
平成23~24年度は,MODISとMTSATとの比較分析を実施し,熱異常の時間変化と噴火発生の関係等を検討する.また,高分解能画像等のデータを併せた検討を行い,噴火推移の分析,類型化を試みる.
平成25年度は,国内噴火を対象に,衛星と地上観測データの統合的な解析を行い,噴火推移の解析や,その違いを生むプロセスの解明に取り組む.

(7)平成21年度成果の概要

MODISとMTSATを用いたリアルタイム観測システムにより,東アジアに分布する活火山の噴火データ収集を進めると共に,いくつかの事例について噴火推移の解析を試みた.
 2009年には,本システムにより規模の小さいものも含め,以下の火山で噴火が観測された.[カムチャツカ半島]:シベルチ,クリュフスコイ,ベズミアニ,カリムスキー.[千島諸島]:サリチェフ.[日本列島]:浅間,桜島.[フィリピン]:マヨン.[インドネシア]:ケリンチ(スマトラ),クラカタウ,スラメット(ジャワ),ウェリラング-アルジェナ(〃),テンジャーカルデラ(〃),イジェン(〃),リンジャニ(ロンボク),カランゲタン,[パブアニューギニア]:バガナ.これらのうち,サリチェフ火山,浅間火山について詳しい検討を行った.昨日頂く
【サリチェフ火山】サリチェフ火山は,千島諸島中部マツワ島に位置する標高1497m,底経6km×16kmの活火山で,千島弧の中でも最も活発な火山の1つである.本年 6月11日,1989年以来20年ぶりにサリチェフ火山で噴火が始まった.
 MTSAT等の画像解析から,6月11日(日本標準時)に最初の噴火が起き,12日から15日かけて,直径数10~100kmに近い傘型領域をもつ巨大な噴煙が,日に2回程度のペースで発生したことがわかった.この間,14日から15日にかけては,拡大しつつある噴煙の下から,新しい噴煙が発生し,例のない二重の傘型噴煙が形成されたことも観測された.この後,16日2時30頃発生した噴火を最後に,噴煙が細長く連続的に放出されるようになり,20日頃にはほぼ活動は終息した.
 MODISの夜間赤外画像の解析から,長期の活動推移を検討した.この結果,サリチェフ火山では熱異常のない静穏な状態が長く続いていたが,本年6月11日から噴火と供に突然高い熱異常を示すようになったことがわかった.2004年の浅間火山の噴火で見られたような噴火に先行する熱異常(金子・他,2006)は,観測されなかった.熱異常は活動の終了と同期して徐々に低下し,数週間でバックグラウンドに近いレベルとなった.今回の活動は,短期間にきわめて高い熱異常を示すという特徴的な噴火であった.
ALSO-PROSM, ASTER等の高分解能画像を用いて, 2009年噴出物の分布状況を解析した.今回の噴火により,島の北東側は火砕流堆積物(および降下堆積物)に,完全に埋め尽くされた.堆積物が泥流となり,谷に沿って海岸まで流れ下り,多数の扇状地をつくっているのが確認された.活動の最後に主火口脇から2本の溶岩流が北東および北西側に流下した.
【浅間】 2009年2月2日未明に浅間山が噴火した.今回の噴火イベントに対応して,MTSAT赤外画像データ(分解能: 4 km.観測頻度:30分~60分)を使って,発生した噴煙の移動・拡大状況を詳しく解析した.解析には,噴火直後の2月2日午前2時30分(日本時間)から,1時間毎に5時30分までの4画像を用いた.噴煙の同定には,熱赤外チャンネルの差分画像を利用した.
 この結果,噴煙は浅間山からほぼ南東方向にあたる浅間山-東京-勝浦を結ぶ直線上を移動したことが判った.また,時間と共に噴煙の先端と終端の距離が拡大し,噴煙が移動方向に伸長したことも明らかになった.移動速度は,先端が約135 km/h,終端が約51 km/hと見積もられ,両者の間で2倍以上の違いがあった.当時の気象データによると,標高4900-5700 m付近は119 km/h南東向きの風, 2700-3100 m付近は61 km/h南東向きの風で,それぞれ噴煙先端部,終端部の移動速度とほぼ一致する.噴煙の伸長はこの相対速度の違いにより生じていると考えられる.噴煙による降灰域は,噴煙の移動域に比べ,幅広くかつ南に偏り,東京付近では降灰主軸は噴煙から20~30 km程度南に位置している.標高1600m~地表では,風速が上空と比べ30%程度低下すると共に,風向きが南南東~南方向に変わる.噴煙から降下した火山灰が,この高さ領域に入ったとき,南方へ流されるため,降灰域全体が南側にシフトしたと解釈される.
 本年度は,噴火データの収集という点に関しては,サリチェフなど比較的規模の大きい噴火があり,当初の目標通り進めることができた.一方,国内での噴火は浅間など規模の小さいものに限られたため,地上観測機器との統合的解析を試みることはできなかった(次年度以降の国内噴火で取組み).

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • 金子隆之・吉本充宏・中川光弘,2009,ALOS画像による千島諸島南部に分布する火山の研究,火山活動の評価及び噴火活動の把握に関する共同研究成果報告書,46-57.
  • 金子隆之・青木陽介・安田敦・高崎健二,2009,ALOSによる火山地形・地質判読とその噴火解析への応用,火山活動の評価及び噴火活動の把握に関する共同研究成果報告書,68-76.

(9)平成22年度実施計画の概要

 平成22年度は,前年度同様MODISとMTSATによる東アジア活火山の観測を継続し,できるだけ多くの噴火データを収集する.また,これまでに収集されたデータを高分解能可視・赤外画像等の他の衛星データと組合せ解析し,噴火推移の比較分析を進める.国内で規模の大きい噴火が発生した場合は,地上観測データ等と組合せた統合的解析に取組む.
 2014年にJAXAのGCOM-C1(地球環境変動観測ミッション-気候変動観測衛星.3機により10~15年間運用予定)が打ち上げられることが決定されている.本衛星にはMODISより高分解能の熱赤外画像センサーが搭載され,かつデータ受信処理の実時間性も高められており,グローバルな火山観測にとっても重要な衛星となっている.JAXAとも協力し,GCOM-C1の火山観測への利用に向けた基礎研究に取り組む.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

東京大学地震研究所・金子隆之
       〃    安田 敦

他機関との共同研究の有無

ロンドン大学キングスカレッジ,東京大学生産技術研究所

(11)問い合わせ先

  • 部署名等
    東京大学地震研究所
  • 電話
    03-5841-5666
  • e-mail
  • URL