課題番号:1441
東京大学地震研究所
深部地殻応力測定手法開発研究
これまでの技術開発研究により,地殻応力測定の主力であった水圧破砕法の問題点は解明され,新たな手法,すなわち地震研究所でボアホールジャッキ式乾式破砕法が,東北大学の共同研究者が中心となって高剛性水圧破砕法が開発されたが,いずれの手法も掘削に伴うボアホール孔壁破壊が生じると適用不能となる.破壊条件は応力状態や強度特性に依存するが,通常,3km以深で急激に破壊確率が高まる.そこで本研究課題では,ボアホール孔壁破壊が生じ,既存のすべての直接測定手法が適用不能な応力条件でも直接測定が可能な手法の開発を目標とする.
ボアホール孔壁面歪測定プローブはボアホール壁に内圧をかけることができると同時にミクロンオーダーの変位計測が可能なものでなければならない.また,数キロメートルオーダーとなると高温・高圧条件で使用可能でなければならない.さらに電源あるいは信号を数キロメートルオーダーにわたって伝送する機能も必要である.このような条件を満足するセンサとして光ファイバセンサ系の利用を想定している.ダウンホールと地表との通信機能は不要であり,ダウンホールにエレクトロニクス系も不要というメリットがある.一方,光ファイバセンサは横荷重の耐性が低く,切れやすい.したがって,ある程度の段差が避けがたいボアホール壁面にセンサを押し付けて歪を計測するためのセンサ保護媒体の設計が肝要である.
平成21年度では,その手法のなかで重要な役割を果たすボアホール孔壁面歪分布測定プローブの開発研究を実施する.本研究課題で開発される孔壁面歪分布測定手法の原理はボアホールジャッキ式破砕法にも適用可能である.現状では,破砕性能や再開口性能は2km~4km程度の深さの応力状態まで対応可能であるが,計測すべき孔壁変位が小さいため極めてデリケートな取り扱いが必要なため,数kmオーダーの計測には障害となっている.そこで,ボアホール孔壁面歪分布測定プローブと同じ原理を利用してボアホールジャッキ式乾式破砕法の亀裂再開口検出装置の改良を実施する.
平成22年度はボアホール孔壁面歪計測プローブの室内試験用プロトタイプを作成し,機能試験を実施する.
平成23年度はボアホール孔壁面歪計測プローブの現位置実証試験用プロトタイプを作成し,機能試験を実施する.
平成24年度は現位置計測を目指した機能試験を実施する.
当初の計画どおり実施された.
きれつ再開口検出のための歪み分布計測センサは,最大深度目標を6~8 kmに設定すると,泥水圧100 MPa程度,温度300 ℃程度の環境下で1μストレインの分解能で歪分布が計測可能で,地表から数km下のダウンホールへのデータ通信機能を有することが必要である.FBG光ファイバセンサおよびOFDR手法の導入により,これらの条件は満足される.ただし,光ファイバーは側面からの力で破断しやすいので,ボアホール壁に接着することはもちろん,直接押し付けることも避けねばならない.そこで,今年度はプロトタイプとしてFBG光ファイバをモールドした樹脂を作成し,亀裂を含む花崗岩表面に押し付けた状態で亀裂が開口する瞬間の歪分布を測定し,亀裂開口の検出可能性を確かめた.ボアホール壁面の歪分布を忠実にとらえるためには,樹脂と岩の境界が滑らないことが必須要件である.そのため樹脂の選択は極めて重要である.図は実験でえられた亀裂開口時の歪分布であり,横軸の原点が亀裂位置である.亀裂の影響圏が±5mm程度あるのは光ファイバ保護のため,表面から1mm内部にセンサが埋められているからである.亀裂位置で歪が減少していることは,亀裂の開口を意味しており,開口亀裂の存在と位置が見事にとらえられている,用いた樹脂は十分柔らかいので,今年度作成したエレメントをパッカー等に巻きつけたプローブを作成することにより,これまで直接計測ができなかった領域の地殻応力の直接測定が可能になると期待できる.
当初目標に掲げた成果は達成したので、この研究課題は完了した。
東京大学地震研究所(佐野 修)
無
京都大学工学研究科(石田 毅),崇城大学工学部(平田篤夫)