課題番号:1502
東京大学理学系研究科
地殻流体のフラックス測定に基づいた化学的地震先行現象発現機構の解明
本計画では、地震発生の化学的素過程の理解および先行現象が発現する機構の解明を試みる。特に、断層内で発生する流体および上部マントル起源流体のフラックスの観測に重点を置き、断層に沿って発生する地震との関連づけを試みることで、内陸断層の地震発生確率評価の高度化に貢献したい。
平成21 年度は、これまでに開発した四重極質量分析計を用いた地下水溶存ガスの連続観測装置を改良し、断層内発生流体(4-ヘリウム・ラドン・水素・メタン)の地下水溶存濃度を安定して観測することを実現する。
平成22 年度以降は、跡津川観測点周囲の断層に沿う地震活動と、地下水溶存ガスのデータとの対比を行いつつ、地下水溶存ガス濃度の時系列データの解析方法を高度化する。これと平行し、高分解能四重極質量分析計および自動前処理装置を製作し、3-ヘリウムの地下水溶存濃度の自動定量を目指す。これらの時系列データの解析方法を高度化し、地殻起源流体やマントル起源流体のフラックス変化を評価することで、それらの変化と断層活動との関連を見出したい。
今年度は、(1)地下水溶存ガスの連続観測装置の改良、(2)化学的地震先行現象の一つである地下水ラドン異常を説明するモデルの提唱、(3)地下水サンプリングと透水係数を同時に実施するシステムの開発、を行った。
(1) 地下水溶存ガスの連続観測装置の改良
地下水から抽出したサンプルガス中の水蒸気を低減させることで、得られるガス組成の分析精度が向上する。そこで、これまでに開発してきた観測装置のガス精製ラインの改良を行った。具体的には、従来あったガス精製ラインを簡素化し、4つのラインに分けることで、効率よい除湿に成功した。また、全てのバルブを自動で開閉させるための制御プログラムを開発することで、最適なステップで分析を実施できるようになった。これらの結果、装置の体積を1/3に減らすことができたため、機動観測にも適用できるようになった。
(2)地下水ラドン異常を説明するモデルの提唱
地震に先行して観測されてきた地下水中のラドン濃度異常の約20%は濃度の減少であり、帯水層中で亀裂が生成することでラドン放出量が増加する、というシナリオだけでは説明がつかない。そこで、帯水層中に生成する新たな亀裂の量、帯水層中の空隙率と飽和度、ラドンガスの気液平衡、を考慮することにより、ラドン濃度の減少を定量的に説明することに成功した。
(3)地下水サンプリングと透水係数を同時に実施するシステムの開発
地下水溶存ガス濃度の変動は帯水層の物理パラメタを反映するため、同時並行で観測することが望ましいが技術的に困難であった。そこで、地上と帯水層の間で地下水を循環させ、瞬間的な地下水のサンプリングを定期的に行う方式にすることで、水位の回復から観測井のごく近傍の透水係数と、サンプリング時の地下水溶存ガス組成を、同時に取得できることができるようになった。
平成22年度は、改良された分析装置を観測点に設置し、断層破砕帯につながった帯水層からの地下水を採取し、近傍で起きる地震活動と地下水溶存ガスの濃度変化の関係について詳細な観測を実施する。また、帯水層の物理パラメタを並行観測する方法についても検討を行う。
東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 田中秀実
東京大学大学院理学系研究科 地殻化学実験施設 角森史昭
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