課題番号:1503
東京大学理学系研究科
動的破壊と非地震性すべりの不均質性とスケール法則の解明
本課題は地震の動的破壊時及び非地震性すべり進行時における不均質性の特徴とそのスケール依存性,摩擦と破壊の素過程との対応の解明を長期的目標としている.5ヶ年の現実的目標は(1)地震破壊の不均質性を解明するためのデータ解析手法の改良および適用例の増加,(2)断層近傍観測の成功と分析,(3)非地震性すべりの新たな特徴の発見,および(4)地震性・非地震性すべりの統一モデルのためのプロトタイプの開発である.
平成21年度は5カ年計画の基礎となる研究体制を整備する.特にマルチスケール断層すべりインバージョン法の計算コードを一般に利用しやすいように整備する.パークフィールド地域での地震解析例を増やし,その結果を基に地震破壊成長のスケーリングを議論する.またネットワーク相関震源決定法のコードを整備し,東海から四国までの全域の低周波地震に適用する.世界の微動活動の比較のためのデータの収集を始める.平成22年度は新たな断層すべりインバージョンモデルの追加と深部低周波地震の地震活動の定量化を重点的に行う.世界各地の微動データの収集も続ける.南アフリカ金鉱山の断層近傍の地震計で強震が観測された場合にはデータから破壊伝播速度を推定する.平成23年度にも新たな断層すべりインバージョンモデルの追加と深部低周波地震の地震活動の定量化を行う.深部低周波微動の時系列の統計的な特徴を明らかにし,世界各地の微動データをプロトタイプモデルである1次元ブラウン運動地震モデルと比較する.平成24年度には断層すべりインバージョンモデル,深部低周波地震,微動の分析結果をもとに地震性・非地震性すべりの統一モデルのプロトタイプ開発を始める.平成25年にはこのモデルのプロトタイプを完成させる.
本年度は米国パークフィールド地域の微小地震について経験的グリーン関数法を用いたすべりインバージョンを行い,それを過去のマルチスケール断層すべりインバージョン法の結果と比較し,地震破壊過程のスケーリングを議論した.M2からM6までの地震を同様の手法で分析した結果は自己相似的な破壊成長モデルと整合的であり,動的破壊がスケールに依存せずに成長することを示唆する.この結果を論文にまとめてJournal of Geophysical Research誌に投稿し,現在査読中である.非地震性すべりの研究では,深部低周波地震について全国的にネットワーク相関震源決定法を用いて震源再決定を行った.東海から,紀伊半島をへて四国まで,すべての地域において再決定された震源は面状の分布を示し,その傾斜は地域的な海洋モホ面の傾斜角と良い相関を示した.これらの地震がプレート面上のすべり運動であるという仮説を裏付ける証拠がまた増えたことになる.この日本地球惑星科学連合大会において発表され,さらに論文にまとめるべく準備中である.世界の微動活動の比較研究の手始めとして南海沈み込み帯と同様に研究の良く進んだカスケード沈み込み帯の地震データを収集した.南海・及びカスケードにおける地震の大量データのデータベースを作成した.南海とカスケードの微動の時間関数の比較から両者が異なる時定数を持つことを示した.その最初の報告を日本地震学会で行っている.これらの研究成果の一部は地震学会60周年記念論文集に含まれている.
断層すべりインバージョンによるスケール法則の導出の最終仕上げを行う.これまでの研究でやや不完全であった誤差と解の信頼性評価を中心に追加分析を行いまとめる.ネットワーク相関震源決定法についても論文を完成し,出版する.世界各地の微動データの収集も続ける.今年はコスタリカ,アラスカなどの微動データを収集する予定である.これらを統一的な基準で比較するための手法を開発し,性能評価及び南海及びカスケード沈み込み帯のデータへの試験的適用を行う.
井出哲・内出崇彦(東京大学大学院理学系研究科)
有
中谷正生・三宅弘恵(東京大学地震研究所)