課題番号:1504
東京大学理学系研究科
火山噴火過程における火山ガス挙動の観測:ガス蓄積過程とガス放出推移の理解
本研究課題の目的は、火山ガス観測により、噴火過程における火山ガス放出挙動を定量的に測定し、噴火過程におけるガス放出の特徴を調べる。特に、ヴルカノ式噴火の際のガス蓄積過程や、ストロンボリ式噴火かかわるガス量の観測に重点をおき、新しい知見を火山ガス観測によって提供することで、噴火機構のモデル化に貢献する。
上述の本課題の5ヶ年の到達目標を達成するためには、噴火に関連した現象を観測する必要があり、長期的な定常観測を行うことが必要となる。
平成21年度においては、これまでに開発してきた観測手法をさらに改良し、火山ガス放出率の長期観測に向けた観測装置および観測手法の高度化を行う。また、データ処理法などを構築し、桜島で実験的観測を実施する。
平成22年度においては、桜島火山での長期観測に向け高度化した装置の短期間の試験運用を開始する。また、ストロンボリ式噴火において、噴火の駆動力となっているガス量の定量を行うための観測をイタリアのストロンボリ火山で実施する。
平成23年度においては、桜島での長期連続観測に向け高度化した装置の長期間試験運用を開始し、定常観測に向けた観測手法や装置の問題点を解決する。
平成24年度においては、桜島での高度化した装置による観測体制の構築し、運用を開始する。桜島で見られるヴルカノ式の噴火現象にかかわる、火山ガス放出量の変動の観測を目指す。また、ストロンボリ式噴火に関連した観測では、コスタリカ・アレナル火山(または、ストロンボリ式噴火が頻繁に観測される火山)での観測を実施する。
平成25年度においては、桜島での火山ガスの定常観測を運用しつつ、これまでに蓄積した観測データをもとに、ヴルカノ式噴火現象に関わるガス放出の挙動について総括する。
紫外カメラを用いた火山噴煙中の二酸化硫黄可視化装置は、これまで2台のカメラを測定現場で三脚に設置して使用してきた。また、電源には商用電源を必要とした。このため、観測準備に時間を要した他、電源のため観測できる場所が限られていた。平成21年度は電源周りを改良し、12Vバッテリーで駆動できるようにするとともに、2台のカメラを小型ハウジングに入れるなどの改良を行ない、長期観測や機動観測に向けた装置周りの改造を行った。小型紫外分光計を用いた二酸化硫黄放出率のパニング測定装置では、通常使用するミラー角度45°の他に、ミラー角度22.5°の装置を作製し、この角度での測定の評価を行った。また、パニング装置の自動観測に向けた制御プログラムを作成し、プログラムのテストを開始した。
観測では、6月に浅間山で超長周期地震に対応して放出する火山ガスの観測を実施した。この観測により超長周期地震の規模とガス放出量(二酸化硫黄)の間に正の相関が有ること見出した。桜島では、平成21年12月と平成22年1月に桜島火山昭和火口の噴火前のガス放出挙動の測定を可視化装置で実施した。空振を伴うような爆発的噴火の前に二酸化硫黄放出率が減少する様子を定量的にとらえることに成功した。ただし、2回の爆発的噴火の事例しかなく、今後観測を続け、このような観測事例を増やすことが重要である。
桜島火山昭和火口からの噴火に伴う噴煙は、火山灰を含んでいる。噴煙中に火山灰を大量に含む場合、観測に使用する紫外光が噴煙を透過してこないので、噴火に伴う二酸化硫黄放出量を見積もることは難しい。火口から離れた噴煙を観測することで、濃い火山灰の影響を軽減することが可能である。火口から十分に離れた位置で、昭和火口の噴火に伴うガス放出量を見積もる新たな観測手法の開発を開始した。また、平成21年度11月から4回、FT-IR分光放射計を用いた火山ガス組成の観測を実施した。この観測により、火山噴煙中のHCl/SO2 比を測定することが分かる。平成21年度の観測では、昭和火口と南岳火口の火山ガスのHCl/SO2 比は異なる値を持ち、昭和火口の火山ガスの方が低い比の値を持つことを明らかにした。
平成21年度で改良を行った装置、観測手法を用いた試験観測を継続する。桜島火山においては、これらの装置を短期的に運用し、長期運用した場合の問題点などを洗い出し、さらなる装置と観測手法の改良を行う。また、紫外分光計を用いた二酸化硫黄放出率測定装置の自動測定プログラムと二酸化硫黄可視化装置の半自動測定プルグラムを完成させ、テストを行う。
観測では、桜島火山昭和火口からの噴火に伴うガス放出挙動を狙った観測を継続する。平成21年度は爆発的噴火の前に二酸化硫黄放出率が減少する事例を2例とらえたが、平成22年度は、爆発噴火の観測事例を増やし、ガス放出率の減少と爆発規模や山体傾斜の変化などのデータと比較し、これらの諸現象との関係を明らかにしたい。また、平成22年5月にイタリアストロンボリ火山において、噴火の駆動力となっているガス量の定量を行うための観測を平成21年度に改良した可視化装置を用いて実施する予定である。平成22年度の観測では、ストロンボリ式噴火の観測回数を増やし、噴火に伴うガス放出量がどのような分布を調べ、上昇してくるガススラグの規模を明らかにしたい。
火山灰を含んだ昭和火口の噴煙のガス放出量を見積もる観測手法の開発を継続する。また、平成21年度に開始したFT-IR分光放射計を用いた火山ガスのHCl/SO2 比の測定では、爆発に伴う火山ガスの組成変化に着目して繰り返し観測を行う予定である。
東京大学大学院理学系研究科地殻科学実験施設 森俊哉 角森史昭
有
東京工業大学火山流体研究センター 野上健治