課題番号:1813

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

京都大学防災研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

プレート境界巨大地震による堆積盆地の広帯域強震動の予測に関する研究

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
      • (3-2)地震破壊過程と強震動
        • イ.強震動・津波の生成過程

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の5か年の到達目標

東南海地震震源域付近で発生した2004年紀伊半島沖地震において、大阪・名古屋・首都圏で長周期地震動が観測され大きなインパクトを与えた。次の発生が逼迫している東南海・南海地震時には更に強い長周期地震動が人口密集地域を襲うのは確実である。本研究は、これまでの既往の研究成果に基づいて、巨大地震が発生した際の大規模堆積盆地における信頼性の高い広帯域の強震動評価手法を確立することを目的とする。研究対象としては、東南海・南海地震時の大阪堆積盆地を主とする。これまで構築されてきた震源モデル化手法、地殻及び堆積地盤の速度構造モデルをもとに、より広帯域の強震動評価・予測を可能とする地殻・地盤速度構造モデルの高度化をすすめる。具体的には以下の2つの項目の研究を行う。
a.地殻・地盤モデルの改良に関する研究
既存大阪堆積盆地の速度構造モデルと、プレート境界の震源域からサイトにおける地殻速度構造モデルの収集を行い、海域から陸域までを統合化した地殻・地盤速度構造モデルを高度化・広帯域化する。並行して、東南海地震、南海地震の地震動予測シミュレーションの検証のため、長周期地震動が卓越した強震観測記録を高密度に収集する。観測サイトの震動特性を分析し、地殻・プレート構造モデルや大阪盆地内地盤構造モデルとの比較を行って、モデルの適用性の検討と改良を行う。
b.プレート境界巨大地震に対する強震動予測に関する研究
南海地震、東南海地震を想定地震とした、広帯域強震動予測を行って、その方法論の確立を目指す。a.で取り組まれる構造モデルの精査・改良に加えて、プレート境界巨大地震の広帯域震源モデルを構築する。それらを組み合わせた予測を行うことによって特に甚大な地震被害を引き起こすと考えられる大阪堆積盆地内での地震動の特徴を把握するとともに、震源モデル、地殻・地盤構造モデルそれぞれの予測地震動波形への影響を評価する。

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度においては、a.に関して、大阪堆積盆地モデル、地殻・プレート速度構造モデルを収集する。また大阪盆地内外での強震記録を収集し、地震動特性の分析を行う。強震観測点のサイト特性評価のための微動調査等を必要に応じて実施する。b. に関して、想定南海地震、東南海地震に関して、想定地震シナリオと3次元地下構造モデルに基づく地震動シミュレーションが行われた既往の地震動予測結果を収集し、評価地震動の特徴の把握を行う。
平成22年度においては平成21年度の解析結果、及び継続解析による観測地震動特性を明らかにするとともに、現時点の地盤構造モデルによる地震動特性を評価し、再現性の悪い観測点の特徴を明らかにする。
平成23年度においては、前年度の分析を継続するとともに、特に大阪堆積盆地モデルの観測地震動特性の再現性を向上するためのモデルチューニングを行う。モデルシミュレーションの広帯域化に関する方法を検討する。
平成24年度においては、地殻・プレート速度構造モデルと堆積層構造モデルのチューニングを継続し、再現性の定量的な評価を行う。モデルシミュレーションの広帯域化に関する方法検討を継続する。
平成25年度においては、改訂地下構造モデルを用いた想定南海・東南海地震による広帯域強震動シミュレーションを行う。

(7)平成21年度成果の概要

a. 地殻・地盤モデルの改良に関する研究
今年度は地殻・地盤モデルの改良に関して,地震波干渉法によるグリーン関数の推定と,それを地殻・地盤モデルの改良に活かすための研究を開始した.また,強震動時の表層地盤の非線形特性に関する研究を行った.
地震波干渉法によるグリーン関数の推定
 地震波干渉法によって2点間のグリーン関数を構築し,地殻構造モデルとの比較を行う研究がなされるようになってきた.本研究においては,西日本を対象地域として,F-netの連続観測記録による微動の相互相関をとって,スタックすることによって得られるグリーン関数の特徴を把握し,長周期地震動評価を行うこと,さらに強震動予測のために必要な地殻速度構造モデルの検証の有効性について検討を開始した.
 解析には(独)防災科学技術研究所F-net(広帯域)の西日本の観測点28点で観測された連続記録(広帯域高感度速度波形,100Hzサンプリング)を使用した.one-bit normalizationを行って1時間毎の記録の相互相関関数を計算し,1カ月分(約700トレース)をスタックした.2観測点間の距離に対するスタックした上下動同士の相互相関関数を並べると,波群の伝播が確認できた.図1には観測点間距離に並べたスタック後の相互相関関数を示している.また,この波群は分散性を持っており,粒子軌跡からもレーリー波的な特徴を持っていることがわかった.分散特性の地域性についての検討を行っている.

強震時の地盤の非線形応答と強震による地盤物性の変化に関する観測研究
地震による地面の揺れは震源・伝播経路・サイト特性によって決まる.サイト特性のなかでも表層地盤の震動特性は地表地震動に大きな影響を及ぼすことがある.また,地震動に対する表層地盤応答は入力する地震動の強さによって異なることが知られている.強震時,表層地盤は非線形な挙動を示して卓越周波数が低周波数側へシフトし増幅率が低減する.このような表層地盤の非線形応答は強震時の水平動に対して明瞭に表れ,多くの研究によって認められている.一方,上下動に対しては十分な議論がなされていない.本研究では強震時と弱震時または強震前後における弱震時の表層地盤の震動特性の違いを調べた.対象としたのは,2007年新潟県中越沖地震時の柏崎刈羽原発観測点サイト,及び2008年岩手・宮城内陸地震時のKiK-net一関西サイトである.後者は地表と地中(深度260 m)に地震計が設置されており,2008年岩手・宮城内陸地震の際に大加速度(最大加速度はNS:1143 gal,EW:1433 gal,UD:3866 gal)を記録した.一関西サイトに対しては,水平動を用いたS波速度構造のモデリングに加えて上下動記録を用いてP波速度構造のモデリングを行った.以下,一関西観測点のサイト特性についての結果を示す.柏崎刈羽原発サイトの結果については,木村・他(2009)を参照していただきたい.
IWTH25で得られた地震動データを用いて地表と地中のフーリエスペクトル振幅比の解析を行った.強震時と弱震時の比較として本震と余震の観測スペクトル比を比べると水平成分のそれらは大きく異なっていた.鉛直成分に関しては0.2-10 Hzでは互いによく似ているが,10-20 Hzの高周波数域において両者に違いが見られた.強震前後の弱震時の観測スペクトル比を比較すると,水平成分,鉛直成分ともに主な特徴はよく似ている.しかし,5 Hzより高周波数側では大きさやピーク周波数に違いがあり,強震によって表層地盤の応答に何らかの変化が生じた可能性が示唆される.
次に,Thomson-Haskell法による伝達関数を用いて表層地盤の速度構造とQ値の推定を行った.強震前の弱震時,強震時,強震後の弱震時のそれぞれに対してモデル化を行った.これらのモデルから計算される伝達関数はそれぞれの観測スペクトル比の主な特徴を再現した.強震前および強震後の弱震時の速度構造は1-6層目(深度0-176 m)においてボーリング調査結果よりも小さく推定された.1層目(0-1 m)に関しては特に小さい速度が得られた.強震前後の速度構造を比較するといくつかの層で違いがあったが,強震前後の観測スペクトル比に見られた差には,1層目の速度の変化が大きく影響していることがわかった.強震時には4層目まで(0-64 m)のS波速度と2層目まで(0-6 m)のP波速度が見かけ上減少していた.これらのなかで,1層目の速度は本震後の弱震時に回復が見られず,強震動によって1層目の地盤の状態が大きく変化したと推測される.また,強震時のQp値とQs値は弱震時より周波数依存性が弱くなり,高周波数帯で値が小さくなった.強震の前後でS波速度構造のみならずP波速度構造の変化が認められた.

 b. プレート境界巨大地震に対する強震動予測に関する研究
 予測長周期地震動に対する堆積盆地構造の影響評価を目的として,大阪堆積盆地において,実地震記録を用いて堆積盆地構造境界を逆推定する方法を構築し,適用を行った,これまで,盆地構造境界を実際の記録から逆推定することは,2次元構造としての逆問題を解くことのほかはほとんどなされていなかった.大阪堆積盆地構造モデルはこれまでに様々な物理探査結果をコンパイルして作成されている.そのうち,Kagawa et al.(2004), Iwata et al.(2008)はスプライン関数によって基盤面及び堆積層構造を与えているが,本研究ではここに着目して,波形モデリングによる逆解析によって堆積盆地構造モデルの検証と改訂を試みた.モデル実験で解析感度があることを確認した後,実際の地震動データを収集してそれを用いた逆解析を開始した.この問題は非線形問題であるので,微分波形によるカーネルを作成して線形化して問題を解く.イタレーションによって波形の再現性は向上した.今後この更新された堆積盆地構造モデルの他の地球物理学的情報による検証を踏まえて,強震動予測に用いる.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • 岩城麻子・岩田知孝・関口春子・浅野公之・吉見雅行・鈴木晴彦 (2009). 大分平野における想定南海地震による長周期地震動のシミュレーション, 地震第2輯, 61, 161-173.
  • 木村美帆・浅野公之・岩田知孝 (2009). 鉛直地震計アレイデータを用いた強震動と弱震動の地盤震動特性の比較 -柏崎刈羽原子力発電所構内における2007年新潟県中越沖地震とその前後の地震の記録を対象として-, 地震第2輯, 62, 61-65.
  • Iwaki, A. and T. Iwata, Estimation of Three-dimensional Boundary Shape of the Osaka Sedimentary Basin, Japan, by Waveform Inversion, AGU 2009 Fall Meeting, S43D-05, December 2009.
  • 山下佳穂里・浅野公之・岩田知孝, F-net広帯域地震観測網連続記録を用いた地震波干渉法による西南日本の地殻速度構造の推定(1), 日本地震学会2009年秋季大会, P1-37, 2009年10月.

(9)平成22年度実施計画の概要

地震波干渉法により構築されたグリーン関数を用いて,西日本を中心とした深い地盤構造モデルの検証をすすめる.
堆積盆地構造モデルの検証を継続し,観測波形の特徴の再現性を向上させる.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

京都大学防災研究所 関口春子・岩田知孝

他機関との共同研究の有無

鳥取大学大学院工学研究科 香川敬生

(11)問い合わせ先

  • 部署名等
  • 電話
  • e-mail
  • URL